超重厚!必殺工藤劇場!!1972年に放映開始されたテレビ時代劇必殺シリーズの第一弾『必殺仕掛人』を手掛けた深作欣二監督が、続く第二弾『必殺仕置人』への続投を打診された時、多忙を極める深作監督は"実力のある後輩がいる"と製作陣に紹介し、必殺シリーズに招き入れたのが工藤栄一監督です。
『必殺仕置人』でシリーズ制作に参加した工藤監督は、それ以降の『助け人走る』を始めとする数々の作品で名作を生み続け、必殺シリーズにおける大黒柱としての地位を確立しました。しかし、1979年よりオンエア開始された第15作『必殺仕事人』の頃からシリーズはドラマ性を排除し、気軽に楽しめる娯楽路線へと舵を切り始めたのです。それが要因となったかは不明ですが、工藤監督は続く『新・必殺仕事人』での演出を最後に、一旦シリーズを離れることになります。
この頃から、シリーズは仕事人として出演する中条きよし、三田村邦彦が若い女性の支持を得て視聴率は益々右肩上がりを記録していました。この路線変更による成功を確信した製作陣は、続く『必殺仕事人Ⅲ』において、当時のジャニーズ事務所所属のアイドルひかる一平を仕事人役として起用。更なる仕事人のアイドル化とバラエティ路線の強化に務めたことで、番組は更なる人気を呼び、全国区で仕事人ブームが巻き起こりました。
続く『必殺仕事人Ⅳ』『必殺仕事人Ⅴ』でも、確立したスタイルを踏襲することで安定した人気を誇り、ついにテレビの枠を超え映画化が決定。必殺仕事人劇場版としての第1作『必殺!THE HISSATSU』、第2作『必殺!ブラウン館の怪物たち』が製作され大ヒットを記録しました。
しかし、同時にドラマを重視した昔の必殺を懐かしがる視聴者の声を無視しなかったプロデューサーの山内久史は、『必殺仕事人Ⅴ』の終了に合わせて原点回帰を決定。テレビシリーズ第24作『必殺橋掛人』の第1,2話と、第25作『必殺仕事人Ⅴ激闘編』の1,2,3話の重要な舵取り役に工藤監督を呼び戻し、シリーズの立て直しを託したのです。そして両作品の成功を認めた製作陣は、続く劇場版の最新作も工藤栄一に託しました。
工藤監督が撮り上げた劇場版第3作『必殺!Ⅲ 裏か表か』は、『必殺仕事人Ⅴ激闘編』の最終回と言える構成をとりながらも、必殺らしからぬ(なにしろ頼み人の恨みを晴らすお馴染みのプロットではなく、奉行者勤めの中村主水が社会的に抹殺される様が描かれる)重厚なドラマが展開される作品です。巨大権力を誇る両替商と手を組む奉行所からも命を狙われる中村主水の姿に殺し屋としての凛々しさは無く、犬死にを待つ悲壮な予感さえ漂わせます。しかし、泥臭くも生への執着を見せる主水の姿は、過去のテレビシリーズ最終回で見られた殺し屋たちの姿に他なりません。その姿は『必殺必中仕事屋稼業』の半兵衛、『必殺仕置屋稼業』の市松と主水や『必殺仕業人』の主水を彷彿とさせます。そんな必殺シリーズ最終回のレガシー、つまり裏稼業の崩壊だけにあらず、無様でも生き続ける生命力を継承・復活させた作品が『必殺!Ⅲ 裏か表か』なのです。
日本名画史に刻まれる工藤監督の傑作『十三人の刺客』を彷彿とさせる集団抗争時代劇を、まさかの仕事人劇場版で復活!これは映画界に於ける歴史的事件!
【この映画の好きなとこ】
◾️中村主水 (藤田まこと)
社会的抹殺の標的となり、孤立無縁の戦いを強いられる。昼行灯を決め込む余裕も、殺し屋の凛々しさも本作には無い。ここにいるのは、ひたすら翻弄される人間中村主水だ。
降りかかる火の粉は尽きず
◾️おこう (松坂慶子)
本質が見抜けない謎めいた存在。良妻から巨大な権力を持つ両替商主への転身、そして冷酷な一面を見せながらも、意外なオチで本作を締める姿は影の主役とも言える。
ある意味本作はおこうの物語でもある
◾️工藤美学
工藤監督が得意とする光と影で人間の二面性を重厚感たっぷりに描いた。また短いカットの連続で人間の心が近づく様を描く手法も工藤監督の得意とする演出。
◾️田中様の愛情
普段は口うるさいが、主水の失態を擁護したり、特攻員となった主水を一人動揺しながら見守るなど、思いやりある上役の姿を披露。短い場面だが強烈なインパクトを残した。
事を荒立てまいと謹慎を提案する田中様
ひとり同様を隠さぬ田中様
◾️処罰詮議
◾️斬り込み役
籠城する対強盗団特攻役を任命された主水だが、実は強盗団に始末させようとする奉行所の目論みだった。負傷し孤立無縁ながらも生への執着を見せる主水が力強く描かれる。
◾️せんとりつの愛情
◾️激情に駆られる主水
おゆみを死なせた下手人を、激情に駆られ刺し殺す主水。金も貰わず感情で人を刺す主水が描かれるのは初めてでは?怒りに声を震わせる藤田まことの演技も絶品。
仕事人たちの動揺ゼロの演出も素晴らしい!
◾️主水奪還
必殺らしからぬドラマが展開されること一時間半。突如鳴り響く仕事人のテーマ曲に高揚。主水を救うべく忍び寄る仕事人たち。しかし、実はまだクライマックスの導入に過ぎないという意外性。
◾️集団抗争劇
◾️結果 ※ネタバレ
◾️後日談エンディング
町中で鉢合わせる主水とおこう。しかしおこうは視線を合わせることなく過ぎ去って行く。これはキャロル・リード監督作品『第三の男』のオマージュと思われるが、作品の締めとしてこれ以外は無いと思わせる程に素晴らしくキマっている。
最後の最後までシビれる映画!!
必殺シリーズとしては、異色の展開に拒絶反応を示すファンもいると思います。しかし個人的には、続く劇場版第4作の深作欣二監督作品『必殺4 恨みはらします』と甲乙つけ難い程の傑作と思っています。
とにかく工藤監督の演出が素晴らしく見どころが多すぎるのですが、その大部分が"仕事人のドラマ"よりも、"権力に抗う兵隊としてのドラマ"であったりするのです。
社会の底辺で蠢く弱者の物語。それは工藤監督が『その後の仁義なき戦い』『ヨコハマBJブルース』『逃れの町』他、数々の必殺シリーズで描いて来た得意分野でもあります。
「いやいや、そりゃ必殺じゃないだろう」という意見もあるかと思います。
しかし、思うに工藤栄一はそこで勝負していないのです。
『必殺仕事人V』以降、シリーズ再構築の為に戻って来た工藤監督を最も歓迎したのは、中村主水を演じた主演の藤田まことだったかもしれません。
必殺仕事人シリーズ開始以降、脚本や演技を軽視したドラマ作りに不満を持ち、「ただ難しい顔をして金を受け取るだけなら、同じフィルムを使い回した方がマシ」と苦言を呈していた程である故に、本作に注いだ情熱は生半可なものではなかったと推測出来ます。その証拠に本作には、"これまで見たことの無い中村主水"がいきいきと存在しているではありませんか。
工藤監督は本作を3時間作品と構想していたものの、製作陣にそれを許されず闇に葬られた撮影済みのフィルムが山ほどあったそうです。いつか3時間のディレクターズカット版を観てみたいと思うのですが、なんとかならないかなあ…。
でも、まだこの深く重厚なドラマはまだまだ何回でも楽しめるし、まだまだ味わい足りないな。もう一回観よ。
※2019年3月6日の投稿記事をリライトしました
必殺シリーズこちらも
必殺4 恨みはらします