新しい才能が見せた戦場。
2020年 監督/ アンドレイ・ボガティレフ
戦争映画といえども、そのスタイルは多岐にわたり、陸・空・海を舞台にした超大作や、諜報活動をスリルたっぷりに描いたサスペンスものもあれば、観るものを容赦ない悲壮感で打ちのめす反戦映画もあります。ボクが今ハマっているのは、もちろん活劇型です。
戦争映画の近作をここ1か月で15作品程観ましたが、群を抜いて面白かった作品がロシア映画の『ナチス・バスターズ』です。
2020年に製作された『ナチス・バスターズ』は、ナチス・ドイツの侵攻が進む1941年の第二次世界大戦を舞台とし、史実に基づき描かれた作品です。何故か1941年の戦争映画が多く出ているなと思ったら、昨年はこの戦争から80周年を迎える節目の年だったんですね。
そもそもロシア映画は『戦艦ポチョムキン』くらいしか観ていないボクでしたが、いやあ驚きました。ロシアにこんなに面白い映画があるなんて!
その邦題からも察する事が出来るように、クエンティン・タランティーノ監督作品『イングロリアス・バスターズ』を彷彿とさせる…いや、人によっては本作に軍配を上げる映画ファンも少なくないであろうといえる程の痛快作です!
若干35歳で傑作をモノにした監督のアンドレイ・ボガティレフの名前は絶対覚えておくべき!いつか彼の時代が来る!
【この映画の好きなとこ】
◾︎雪景色
全編を覆う銀世界は、戦場を更なる厳しさに落とし込めると同時に、美しさをも作品に与えてくれた。アクション映画の舞台としては最も好きなシチュエーション。
◾︎音楽
雄大でクラシカルなスコアを提供したのはセルゲイ・ソロビエフ。情緒溢れる旋律は、マカロニ・ウェスタン映画を彷彿させ、作品の方向性さえ決定づけた。とりわけオープニング(とエンディング)のテーマ曲が鮮烈。
◾︎赤い亡霊 (アレクセイ・シェフチェンコ)
本作のタイトルロール(原題『Krasnyy prizrak』/ 米題『The Red Ghost』)である"赤い亡霊"は神出鬼没のロシア人スナイパー。絶体絶命のピンチに登場するそのカッコよさ!
◾︎ブラウン大尉 (ウルフガング・チェルニー)
ナチス・ドイツの冷酷な切れ者。汚名返上を賭け、作戦指揮役を懇願する熱い一面も。イケメンでありながら雪の中の全裸姿と、ワンピース姿は絶対に忘れない!
ナチスの大尉や将校はキザなイケメンが多い気がする
◾︎アバンタイトル
ドイツ軍に処刑宣告をされ、絶体絶命の危機に陥るロシア人夫婦。その危機から救ったのは、赤い亡霊が放った無音の銃弾。鮮やかな狙撃は完全無欠のカッコよさを誇る。
◾︎衣装箱
思いがけないドイツ軍の襲来で、民家の衣装箱に身を隠したロシア兵のベラ。若いドイツ兵のグンターが異変に気づくスリルと、意外なオチも上出来のシーン。
◾︎ベラの処刑
ドイツ軍に処刑宣告をされたベラだが、凛としたその姿で、痛ましさよりも強さと美しさが際立つ。血まみれながらも美しく撮るセンスは、タランティーノ作品を彷彿させる。
◾︎基地奪還
ベラの救出に向かうロシア軍の、音を出せない静かなる戦いが出色。一転、爆発と銃弾飛び交う戦いへ移行する怒涛の展開で爆盛り上がり!
◾︎食事
戦場は"飢えとの戦い"でもある。基地を奪還し、やっと食事にありついた兵士たちの貪る姿が沁みる。美味しそうに食べてるのを見るって幸せ感じるよね。
◾︎ドイツ軍の総攻撃
部隊を引き連れ戻って来たブラウン大尉の総攻撃。最後の戦いに立ち上がる5人と赤い亡霊。籠城作戦のスリルと、散りゆく男たちの儚さのコントラストは最強だ!
◾︎一騎討ち
ドイツ軍を恐怖に陥れた赤い亡霊と、絶対に負けられない崖っぷちのブラウン大尉が激突するクライマックス。弾切れの銃身と拳、そして己の意地が火花を散らす!音楽も最高!
◾︎立ち上がるロシア人
オープニングのシチュエーション再び。しかし、またしても赤い亡霊の銃弾がロシア人を救う。奮い立ったロシア人たちがドイツ軍を討つ戦闘シーンに感動!
◾︎エンディング ※多少のネタバレ
ドイツ軍を一掃し、去りゆく赤い亡霊は○○○○○○○だった!赤い亡霊は継承されドイツ軍を脅やかす存在として生き続ける…という、とんでもなくカッコいい結末!
高水準のエンタメ作品です!
戦争映画というよりも、西部劇風アクション映画として楽しめる作品であり、傑出したカットの連続とユーモアセンスが99分の尺を埋め尽くしています!
ボガティレフ監督が手がけた作品を調べてみましたが、本作以外はまだ日本では観ることが出来ないようです。本作をきっかけに他のボガティレフ監督作品も観られるようになるといいですね。
なぜなら、『ナチス・バスターズ』は、今年鑑賞した作品のNo.1候補だからです!
これ程面白い作品がミニシアターでひっそりと公開され、やがて人知れず消えて行くなんて事があってはいけません!
『ナチス・バスターズ』は、ロシア映画の新たな扉を開いた傑作です(←ニワカはヌケヌケとこんな事言います)。政治とは無関係に数々のロシア映画、そしてロシアのエンタメが正当評価されて欲しいものです。
そんな世の中になる事を願いつつ…。
戦争映画こちらも
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