成功は、「手法」を超えた「想い」と「優れた戦略」から生まれる
儲けを出したいだけではなく
私たちが運営しているビジネスコミュニティーである「共創日本ビジネスフォーラム」は、儲けを出したいだけでなく「世の中に役立つ経営でありたい」「人から感謝される経営でありたい」という経営者を応援しています。
この記事を読んでくださっている皆様の中にも、人生の最後に、関わった全ての人から「あなたと出会えて良かった」と言われる人でありたいと願っている方は多いのではないでしょうか。
このテーマを考える時、私はいつも、既に他界した父のことを思い出します。
父の葬儀は、参列者の皆様からの感謝の言葉に溢れ、あたたかい雰囲気につつまれていたのですが、
そのことを通して、大きな気づきが得られましたので、今日はそのお話をシェアします。
父の経営に対する取り組みから学んだこと
父は社長ではありませんでしたが、専務として絶えず社長と意見を交わしながら経営に携わっていました。
その父も若い頃は旅行会社に就職してツアーコンダクターをしていました。
最初は、わがままなお客さんにも尽くさなければならない仕事に対して不満の思いを抱いたこともあったようですが、
お客様に喜んでいただくことの意義が分かるようになってからは、働き甲斐を感じるようになった、と本人から聞いたことがあります。
葬儀のときに初めて聞いた話ですが、
父は、専務になってからも、ときどき、自ら旗を持ってお客様の観光案内を行っていたようです。
父は旅行好きであった上に、お客様を案内したりお世話をすることが本当に好きだったようです。
添乗員としてツアーに同行し、旗を持ってお客様の案内を行うことは、本来は専務の職務ではないと思いますが、お客様の笑顔を直接確かめられる場所に定期的に立つことは、専務の職務にもプラスになっていたのではないかと想像します。
地域のタクシーの在り方を変える本気の取り組み
父の勤務していた会社は、「地域で最もやさしいタクシー会社」になることを目指していました。
昭和の時代からヘルパー免許を取得したドライバーが運転する介護付きのタクシーを多く揃えていたというだけでも先進的なことなのですが、更に、ドライバーが病院の付き添いまで行うサービスや、依頼主の代わりに病院に薬を受け取りにいってくれるサービスや、妊婦が安心して利用できるような仕組みを整えたり、一人暮らしのご老人や健康状態が良くない人が日帰り旅行に行きたい場合に、全面的に付き添ってくれるサービス等、タクシー利用者のお困りごとにとことん寄り添ったサービスを次々と実現しています。
そのような努力がお客様に伝わったのか、会社の収益は大きく上がりました。
ある時、その収益を巡って、社長と専務であった父との間で意見が対立することがあったそうです。
収益は留保金として会社の未来のために残すと言う社長に対して、父は、従業員全員で努力した結果の収益なのだから、従業員の給与に還元すべきであると主張しました。
その時、父は「もしそれができないのであれば、この会社は辞める」とまで言って引かなかったようです。
結局、父の意見が通り、従業員の給与に還元することになりました。
従業員のモチベーションは上がり、更に収益はアップしていったことは言うまでもありません。
社長と父とのエピソードは他にもいくつか聞いていますが、ときにはぶつかり合うことがあっても、「地域で最もやさしいタクシー会社になる」というビジョンに対する「想い」は同じであり、信頼し合っていたようです。
その会社は創業80年となりますが、地域との良い関係を築きつつ、今も活躍中です。
綺麗ごとで経営はできないが
さて、話をもとにもどします。
儲けを出したいだけではなく「世の中に役立ちたい」「人から感謝されたい」という話をすると、「綺麗ごとで経営はできない」と言われそうです。
しかし、父と父の会社の状況は、「綺麗ごと」と揶揄されそうなことでも、心から本気で実行することは、経営において大きな成果につながり、人生の最後に幸せに感じられるということを証明しているように思えてなりません。
父が勤めていた会社は、人に寄り添った徹底したサービスになっているのですが、タクシー業としてはリスクを伴うようなサービスも散見され、同業者が簡単に真似できないほどです。その徹底ぶりはマーケティングや経営戦略の立案といった経営手法から生まれてくるとはとても思えない内容です。経営手法の枠を越えて、地域の人がタクシーに求めていることをとことん考えて、やれることは全てやろうとしてきたように見えます。
しかも、ネット上から同社の従業員の声を拾ってみても、職場の満足度はかなり高いようです。
その声から伝わってくる事は、従業員にもやさしい会社のようです。
「従業員にやさしい会社は職場の緊張感を保つことができないのではないか」と思われるかも知れませんが、ここでの「やさしい」の意味は、事情をよく理解してもらえるとか配慮が行き届いていることのようであり、ミスに甘いとか目標に対して甘い等の意味ではないようです。これまでの実績を見ても、実際に、高いモチベーションで仕事をしていることが分かります。
成功のための手法ばかりに関心がいってしまう今の自分を振り返って、反省させられます。
目標が実現するかどうかは経営戦略の良し悪しで決まる
「世の中に役立つ」とか「人々から感謝される」という言葉を経営に持ち出すと、ある一定の確率で誰かから「綺麗ごと」という言葉が飛び出します。
しかし、私は、経営の目的は、その人が「綺麗ごと」と言うようなものであってこそ、実現する意味があるのではないかと思います。
「綺麗ごと」という言葉について少し深掘りして見ると、「綺麗ごと」とは、実現が不可能であるにも関わらず、良さそうなことを言うことを指摘する言葉です。
つまり、実現可能であるなら、それは「綺麗ごと」ではないはずです。
そこから分かるのは、以下のようなことではないでしょうか。
目標は心の底から「そう在りたい」と思えることが大切ですので、一見、綺麗ごとに思える場合もあるかもしれません。
しかし、その目標が実現できるかどうかは、目標を達成するための戦略が優れているかどうかによります。
「戦略」という言葉も良く聞く言葉ですが、例を挙げるまでもなく、優れた戦略があれば成功し、優れた戦略がなければ失敗する確率は非常に高くなります(優れた戦略の条件についてはここでは省略しますが、1つだけ挙げると、優れた戦略は行動計画にしっかり紐づけされていて実行可能な戦略です)。
最近は、「〇〇戦略」と、何事にも戦略をつけて表現する傾向がありますが、その中のかなり多くの場合、「戦略」ではないものに「戦略」と名付けているようです。
その為、戦略の重要性が却って分かりにくくなってしまっていると感じますが、実際は、ビジネスやスポーツから人間関係に至るまで、優れた戦略があれば成功し、戦略がなければ失敗するということをもっと深く認識すべきです。
つまり、最も重要な観点は、「優れた戦略」を立案することです。
本当の問題は、目標が綺麗ごとかどうかではなく、優れた戦略を立案することができないことが原因で、心から達成したいと思える目標を持つことができずにいることです。
目標をあきらめず、実行可能な優れた戦略を立案することに力を入れるべきです。
父の会社がどのような戦略立案を行って取り組んできたかを知ることはできませんが、父の言葉から察するに、目標をあきらめることなく、いつも戦略について社長と語り合っていたようです。
優れた経営戦略は想いを実現する
経営戦略の策定は、目標を決定することから始まります。
どのような目標でも良いのですが、自分にとって「何のための経営戦略であるか」を考えて目標を設定することが大切です。
何か困難なことがあったら揺らぐような目標では、戦略を策定する意味がないからです。
私が学んでいる経営勉強会では、「経営戦略は家族を守るために立てるのではありませんか」と言われています。
つまり、何を目標にするか、どのような動機や想いを持って戦略を立案するかによって、戦略は全く違うものになります。
大切なことだと思いますので、繰り返しますが、
たとえその目標が、誰かから綺麗ごとと言われるようなことであったとしても、「そう在りたい」と心の底から思うことができる目標を定めることが大切です。
そして、その目標が綺麗ごとかどうかは、その目標が現実離れした理想論であるかどうかではなく、優れた戦略があるかないかによって判断されるものです。
経営に最も必要なことは実行可能な「優れた戦略」を立案するための能力ではないでしょうか。
今月は、経営戦略の本質についてのセミナー&ワークを開催します。