大好きなえすとえむ先生の、BLじゃないほうのマンガ、全5巻。えすとえむ先生は、BL作品を読んだときから「靴の描き方がほんとにキレイだな~」と思っていたけれど、靴職人で長編マンガを描かれていたとは…いやが応にも期待高まる。

主人公の一条歩はビスポークの靴職人。祖父はイタリアの名門靴ジェルリーニの職人で、その関係で12歳からイタリアで修行し、22歳で帰国・独立。その名は「IPPO」。華々しい歴史を持った若き靴職人のもとにやってくる、さまざまな人生を背負った客たちの物語。名門の看板を前面に押し出さない姿勢、吉祥寺に店を出すというセンス、私もアユムが現実に店を出しているなら行ってみたい!

はじめのほうは、1話完結というか、1話につき一人の人生に、IPPOの靴がどういうふうに一緒に歩いて行くのかを描く。義足になってモデル業を諦めた女性、自分の好きなモノがわからない芸能人、プロポーズのために靴を贈ることにしたゲイカップル…。まるで自分が靴職人になって、その人に寄り添う靴を送り出すような気持ちに。やがて物語は、ショーで使われる靴の注文、京都の靴職人との対決、ジェルリーニの日本進出、そして祖父の病気と、広がっていく。あと靴作りの行程や道具や専門用語が、えすとえむ先生に大切に愛されラッピングされた形で届くので、靴作りのことを何も知らない私でも、見ていて、聞いていて楽しい。

好きな名台詞がたくさんある。

「これは魔法じゃありません。技術と呼ばれるものです。けれど職人の技術と想像力と靴への愛情、それがはく人の人生と重なる時、そこに魔法はあるのかもしれません。さあアユム、姿勢を正しなさい」
「前を向くのに心だけじゃ足りないことだってあるわ」
「どんな靴もはかれるまでは未完成だ」
「手だけで仕事をするものは労働者である。手と頭で仕事をするものは職人である。手と頭…そして心で仕事をするものは芸術家である」

本編中でくり返される祖父の問いかけ、「いい靴とは何ですか?」これにアユムは、「いい靴とははく者の足に合ったものであるべきだ。いい靴とは美しくあるべきだ。そして…」その先を、経験から見つけていく。そして最後、末期がんで余命いくばくもない祖父に言われるんです。「人生で最高の靴を、お願いできますか」

その靴をはいて、生きていく人がいる。と思えば、その靴をはいて、死んでいく人もいる。アユムの出した答えと、祖父の最後の言葉にぼうだの涙が…。本当~~~に素晴らしい作品に出会った。えすとえむ先生、永遠にありがとう。

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