「STR4TASFEAR」STR4TA
アメリカを中心に、ヴェイパー・ウェイヴのムーブメントが巻き起こったのはもう5年以上前のことだが、その勢いは衰えるどころかグローバルな広がりを見せているようだ。ヴェイパー・ウェイヴとはYouTube世代によって、事後的に発見されたレトロミュージックのリバイバル現象のこと。それらはとうの昔に消費された/消費されなかった過去の遺物的な音楽であり、中古CD店の叩き売り100円コーナーに積み上げられた音楽を再評価し、二束三文のポジションから開放してあげる運動でもあった。インターネットの浸透と共に、より耳の肥えたリスナーが増え、その対象は深化している。とりわけ、ファンクやフュージョン、AOR等の影響を受けた我が国の昭和ポップスは、レアアイテムを求める海外の好事家にとって宝の山であり、偏愛の対象となっているらしい。韓国人DJ、Night Tempoによる竹内まりや「プラスチック・ラブ」、菊池桃子のラ・ムーの紹介や、インドネシアのユーチューバーRainychを通じた松原ミキ「真夜中のドア」の海外ヒットはこうした潮流から生まれた現象らしい。
このあたりの情報はクールジャパンと同じく、自画自賛の傾向が強いので、眉唾であるというのが筆者の持論だったが、ヒップ・ホップ・アーティストのテイラー・ザ・クリエイターが2019年にリリースしたアルバム『IGOR』において山下達郎の「Fragile」(1998年)をサンプリングしたことで、俄然、信憑性が増してきた。実際の楽曲は、そうとは知らなければ、うっかり聞き流してしまうようなものだが、これ見よがしなものにはなっておらず、良い意味で曲に溶け込んでいるといえるだろう。そのテイラー・ザ・クリエイターが推していたのが、STR4TAがモチーフとする英国産のブリット・ファンクである。
ブリット・ファンクとは1970年代後半から1980年代前半に量産されていたファンクやジャズ・ファンクのことらしいのだが、ここにもまたYouTube世代特有のヴェイパー・ウェイヴな感覚を見て取ることができる。そもそも英国産ファンクということで、フェイクなニオイがぷんぷんするのだが、古い手触りはそのままに、エレクトロやヒップ・ホップ、ダブから得た方法論を持ち込み、アップデイトしたのがSTR4TAの音楽だが、実に心地よく、スタイリッシュにまとまっている。どことなく日本のシティ・ポップやフュージョンを連想させるのは、どちらもフェイクならではの軽やかさを纏った音楽だからだろうか。2曲目のタイトルが「City Sounds」なのも興味深い。アジムスなどにも似ているが、ブリット・ファンクやシティ・ポップの方が都会的なのである。
STR$TA名義のプロジェクトを手がけたのは、ジャズDJのジャイル・スピーターソンとインコグニートのブルーイというから、YouTube世代というのもおかしな話だけど、2人とも80年代から独自にヴェイパー・ウェイヴを実践してきたような人物であり、インコグニートに至っては80年代に〈アシッド・ジャズ〉レーベルと共に一世を風靡したジャイルス主宰の〈トーキングラウド〉を代表する商業フュージョンバンドだった。なお、〈アシッド・ジャズ〉レーベルはジャミロクワイを輩出している。
ジャイルス・ピーターソンはインタビューの中で、「日本は70年代に誕生したジャズやフュージョン、ジャズファンクなど特別なシーンがあるから、それを記念するようなプロジェクトをやりたいと考えていた」と語っていたが、これはその前哨戦となるアルバムなのかも知れない。




