さよならジュピターから、さようなら全てのエヴァンゲリオンへ | Future Cafe

Future Cafe

音楽レビューのようなもの〜TECHNO、JAZZ、BREAKBEATS etc

「VOYAGR〜日付のない墓標」松任谷由実

 

 

 遅ればせながらアマゾンプライムで「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を見ていたら、ラストシーンに思いがけず松任谷由実の曲「VOYAGER〜日付のない墓標」が流れて鳥肌が立った。カバーしたのは綾波レイを演じる声優の林原めぐみらしい。「VOYAGER〜日付のない墓標」は、小松左京原作の東宝映画「さよならジュピター」のために書き下ろされた曲だ。

 1970〜80年代の日本映画のSF超大作には“失敗作”や“トンデモ映画”、“残念な作品”と呼ばれるものが少なくなく、「スターウォーズ」(1977年)のヒットに便乗して突貫作業で作られた和製スペースオペラ「宇宙からのメッセージ」(1978年)や、パンデミックと核の恐怖を日本映画史上まれに見る空前のスケールで描いた「復活の日」(19980年)など、いずれも従来の日本映画になかったハリウッド風の物量作戦やSFX表現を売りにしていたが、扱うテーマが大きいぶんだけツメの甘さが目立ち、現在に至るまでツッコミの対象になることはあっても、正統な評価を受けることはなかった。しかし、これらの作品が観るべきところの全くない駄作だったかといえば、決してそんなことはない。「宇宙からのメッセージ」にはコンバットで有名なアメリカ人俳優ビッグ・モローが出演していたり、深作欣二の宇宙を舞台にした活劇が見られたり、石ノ森章太郎デザインの帆船エメラリーダ号がロマンに溢れていたりとそれなりに映画ファンを楽しませる細部があったし、「復活の日」ではオリビア・ハッセーをはじめ、ロバートボーン、グレン・フォード、チャック・コナーズ等の名バイプレイヤーを起用し、チリ海軍から借りた潜水艦を南極の海に浮かべ、テオ・マセロ作曲のオリジナル主題歌をジャニス・イアンが歌うという「翔んで埼玉」(2019年)とはけた違いのハッタリとエネルギーがあった。1984年に公開された「さよならジュピター」もそんな作品のひとつだ。

 2125年、宇宙に入植する人々のエネルギー確保のために、人類補完計画ならぬJS計画(木星を第二の太陽にする計画)を旗印に宇宙開発を進める人類。その調査過程で、ブラックホールの地球への接近を知った三浦友和演じる主人公は、木星を破砕させてブラックホールの軌道を変えようとする。そこに計画に反対するジュピター教団や地球外生命体による全長100㎞を超える巨大宇宙船ジュピター・ゴーストのエピソードが絡み、話は進んでいく。ヒッピーまがいのジュピター教団の描き方はご多分に漏れず酷く稚拙だが、リアルな宇宙船の造形やSFX技術はそれまでの日本映画の水準を塗り替えるもので、もっと積極的に評価されても良いのではないだろうか。正体不明の巨大宇宙船ジュピター・ゴーストの発する音がザトウクジラの歌(鳴き声)と同じ波長で、爆破する木星にレクイエムを捧げているように聞こえるところも、詩的で記憶に残るシーンだ。

 最後に流れる「VOYAGER〜日付のない墓標」には、〈冷たい夢に乗り込んで 宇宙に消えるボイジャー〉などというエヴァを連想させる歌詞もあるが、この曲を引用した庵野監督の狙いは「さようなら全てのエヴァンゲリオン」という台詞に「さよならジュピター」を重ねることで、小松左京や日本のオタク文化を支えてきた特撮スタッフにオマージュを捧げることにあったのではないか。話を広げすぎて収集がつかず、伏線の回収も覚束ない「さよならジュピター」と「エヴァンゲリオン」はどこか似ている。断言してしまおう。庵野秀明は「さよならジュピター」という映画をちょっとばかし出来の悪い子だと思っていても、駄作とは思っていない。むしろジュピター教団がトンデモだなどととあげ足ばかり取って、色眼鏡でしか見ようとしない感性の凡庸さを笑っているに違いない。