エマ=ジーン・サックレイ〜クラブ・ミュージック・ネイティヴのジャズ | Future Cafe

Future Cafe

音楽レビューのようなもの〜TECHNO、JAZZ、BREAKBEATS etc

「Yellow」EmmaーJean Thackray

 

 

 南ロンドンのUKジャズムーブメントも、動きが本格化してから3年が経過しようとしている。ジョンソン首相の超アグレッシブな政策によりコロナ禍もニューノーマルな日常と化したロンドンから久しぶりにニューカマーが登場した。マルチ奏者で、楽曲制作やプロデュースもこなすエマ=ジーン・サックレイだが、昨年、ブルーノートからリリースされたUKジャズ新世代アーティストによるリミックス集『Blue Note Re :imagined』に精鋭の一人として参加している。じつは2016年に既にミニアルバムをリリースしており、非凡な才能は実証済みである。『Yellow』はその集大成とも言えるアルバムだが、引き出しの多さのためか、何度聴いても飽きず、気が付くとリピートしている今年屈指の名盤だ。

 私たちはこのような音楽に遭遇すると、ジャズとエレクトリック・ミュージックの融合だとか、新旧のハイブリッドだとか、紋切り型の表現に陥ってしまうのだが、本人にとっては、必要な音を必要に応じて組み合わせているだけで、ジャンルは関係ないのかも知れない。曲作りをはじめた時に既にテクノやハウス、ヒップホップがあたりまえのように存在した世代は、ことさらジャンルの壁を越えようと意図しなくても、無自覚のうちにジャンルを超越してしまっている可能性が高い。テクノさえもジャズを構成する要素/パーツのひとつとして、自然に選び取っているのではないだろうか。そのような世代を〈デジタル・ネイティヴ〉に倣って、〈クラブ・ミュージック・ネイティヴ〉と呼びたい。

 エズラ・コレクティヴやヌビア・ガルシアとも交流があるというから、南ロンドンの一角を占めるミュージシャンのひとりといっても間違いないのだろうが、楽曲の抜けの良さやソウルフルな歌唱などは、南ロンドンというブランドでは容易に括れない独自性に溢れている。 

 冒頭①「Mercury」の印象から、サン・ラーやジョン・コルトレーン、ストラタ・イーストなどのスピリチュアルジャズの影響下にあるアルバムと思った人もいるかも知れないが(私もその一人だ)、それは①「Mercury」だけで、②「Say Something」では、フィル・アッシャー直系のブロークン・ハウスが繰り出されるという意外な展開。続く④「About That」はモダールジャズ風の作品。⑤「Vnus」はラテンフレイバーを採り入れたボーカルナンバーといった具合に、曲ごとにテイストが変わっていく。⑥「Third Eye」は厚みのあるサビの伴奏がドラマチックなキラーチューン。ブロークンビーツにゴスペル風コーラスが絡む⑧「Sun」やエマ=ジーン・サックレイの特徴のひとつであるエレクトリックピアノがメロウな⑨「Golden Gleen」もいい。ストリングスが荘厳な調べを奏でる⑩「Specte」、アッパーなダンスチューン⑬「Our People」まで、招集されるジャンルは幅広い。

 果たしてエマ=ジーン・サックレイが〈クラブ・ミュージック・ネイティヴ〉だとして、それだけでこのようなアルバムが作れるだろうか。おそらくUKならではのエクレクティックな音楽風土、マルチ奏者/コンポーザーとしての才能、ジャズへの理解という下地があってこそなのではないだろうか。