NHK大河ドラマ「光る君へ」は音楽の使い方が面白い。主人公の紫式部と藤原道長をめぐる物語だから、背景となっているのは平安時代だ。使われているのは、ドラマのBGM然としたサウンドだけではなく、コンテンポラリー・ジャズやネオ・クラシカル。背景とミスマッチかといえばそんなことはなく、むしろ違和感が音楽と時代背景の双方にコントラストを持たせ、お互いを際立たせているとさえいえるだろう。(「鎌倉殿の13人」のスピンオフ紹介でも、ギタリスト、ポール・ギルバートの名前がクレジットされていたから、大河ドラマではこの手の異種格闘技的なサウンド使いは最近の傾向なのかもしれない)。烏帽子をかぶたった大臣たちが、夜な夜なコンテンポラリージャズの調べにいざなわれるように集い、語り合うシーンは一興だ。
それと同じような体験をわれわれにもたらしてくれたのが、パリオリンピック2024の開会式だ。
その舞台となったのは、セーヌ川とその周囲に点在するノートルダム寺院、シテ島、マリーアントワネットが幽閉されたコンシェルジュリー、市庁舎、造幣局、ルーブル美術館、駅舎を改築したオルセー美術館、コンコルド広場、パンドリー橋、トロカデロ広場、エフェル塔など歴史的建造物の数々だ。
バンドネオン奏者をフィチャーした昼間の部ではいかにもパリらしいクラシックやポップス、ワールドミュージックがかかり、かいちっくなかには日本でもヒットした映画「ラ・ブーム」の挿入歌「愛のファンタジー」のアレンジもあった。サティの起用もその延長線上にあるといえるだろう。その他にも、ビゼーのオペラやレディガガのパフォーマンス、フレンチカンカン、ミュージカル「レ・ミゼラブル」、男女のラッパーなど、盛り沢山。
問題は夜の部だ。ブラックボックス「RIDE ON」をサンプリングしたイタロハウス、何度も登場するパリ・オリンピ
ックのテ-マはミュンヘンディスコ風に装飾された。その間隙を埋めるようにながれるUKガラージュ、きらびやかなフレンチハウス。あたかもユーロのサウンド博覧会といった趣である。他国への目配りをうかがわせるランバダや拡大するEUに対応したヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」も。ダンサーたちの動きとシンクロするかのように、それらのサウンドは、古色蒼然としたパリの街を極彩色に、モダンに、浮かび上がらせる。ジャズの音色が平安時代をよみがえらせたように。ただ違っているのは中沢進一「アースダイバー」に倣えば、最深部にっカタコンベを擁し、ナポレオンやハプスブルク家の記憶をミルフィーユ構造の中に内在させたパリは、もともと懐がふかく、モダンとの相性も良いこと。パドロ・アルドモバルの世界観も、ディバイン風ユニセックスの巨漢も軽々と飲み込まれてしまう。歴史の舞台が現代の舞台と重なるところはさすがはパリだ
そして、ネットフリックスの連続ドラマ「地面師たち」。土地の所有者になりすまし、大金をせしめる地面師たちを豊川悦司、ピエール瀧、綾野剛、小池栄子が演じたドラマのサウンドトラックを手がけたのは石野卓球だ。ピエール瀧の演技力は同じネットフリックスの「サンクチュアリ」でも証明済みだが、薬物に手を染めた役者に再チャレンジの機会が用意されているのは良いことだと思う。石野卓球とピエール瀧による事実上の電気グルーブの
再結成というわけだ(解散とはひとこともいってないが)。
惜しむべくは、その使われ方。任侠ドラマとテクノの融合は、「光る君へ」やパリオリンピックに通じる新鮮さがある。それなのに無機質な音のグリッドが、乾いたサスペンスを盛り上げるところまで達していない。