インド亜大陸旅行記 -62ページ目

インド2日目 デリー

『ウソとホント』

 

 


朝7時に目覚ましのアラームが鳴り、まだ眠たいながらもベットから這い出す。
昨日のハツモノづくしで疲れているので、昼まで寝たい気分だったが、昨晩、Cさんに朝食のことを聞かれ「はい、ご一緒させてください」と反射的に答えてしまったがための早起きである。
朝食を食べたら、また眠ろう。

Cさんの部屋へ行き、やや焦げたバタートーストとチャイを食べながら、改めてお互い自己紹介から始める。
Cさんは、どうやらインドに住んでいる状態らしく、ヴィザの期限が切れる6ヶ月ごとに何度も日本⇔インド間を往復しているのだった。
当然、インドの生活やトラブルに関してはかなり詳しく、これからの旅をどのような感じで進めていけばいいのか、非常に参考になった。

今日の予定を聞かれたので、詳しいインド情報を手に入れるため、インド政府観光局まで行こうかと思ってるということを告げると、「それなら、もうすぐ出かけるので、一緒に行く?両替屋も教えてないといけないし。」とお誘いを受けたので、ご一緒させてもらう。
Cさんに出会ってからというもの、お世話になりっぱなしであるが、よしとする。
後で、嫌でも独り旅をしなければいけないのだから…

部屋に戻り、9時半になるまで荷物の整理をし、ガイドブックを読んでデリーについての知識を頭に詰め込む。
「なんとかなるだろう…」と思って出発前はインドについてあまり調べてこなかったが、いざインドに入国してみると、さまざまな不安が噴出してくる。
この先、なんとかなりながらも無事に旅できればいいのだが…

約束の時間になり、Cさんの後について出かける。
小道を抜け、メインバザールまで出ると、昨晩の静けさがまるでウソであったかのように、道の両側に並んだすべての店は開き、多くの人々が行き交い、賑わっている。
木の枝を束ねたほうきを持ったおばあさんが、ホコリがたつのもお構いなしに道の掃除していたり、何のためにそこにいるのか分からない“野良牛”が数頭、ノソノソと人ごみの中をあてもなく動いている。
そんな中に身を投じ、「ああ…本当にインドに来てしまった…」と少し感慨に耽りながらメインバザールを歩く。

しばらくして右側にあったガラス張りの『Baluja Forex Ltd.』というお店に入る。
どうやらここが両替所らしい。
いくらほど両替すればいいか分からなかったので、とりあえず50ドルのT/Cをインドルピーに両替し、2350Rsを受け取る。
お札にはすべてマハトマ・ガンディーの肖像画が描かれていて、日本のお札のように金額ごとに肖像が違う訳ではない。
さすがインドの国父ガンディー氏である。彼に肩を並べられるような偉大な人は他にいないのであろう。

次に、インド政府観光局まで行くため、庶民のタクシーであるオートリクシャーに乗る。
このオートリクシャーは町の至る所で走っているため、大変便利である半面、メーターを使わずに、外国人には値段をふっかけてきたり、後になって法外な値段を要求してきたり、他の場所へと連れて行かれたりと、トラブルだらけなの乗り物である。
しかし、Cさんは慣れた感じで何台かのリクシャーと交渉し、条件にあったリクシャーを見つけ、乗り込んだ。
さすが、インドに住んでいるだけあってスムーズである。
はたして、俺が独りになった時に、無事に乗れるのだろうか?

リクシャーは昨日のタクシーと同様、運転が荒く、クラクションは鳴らしっぱなしで疾走する。
どうやらこのスタイルがインドでは普通のようだ。
慣れるまで時間がかかりそうである。

駅前を通り、コンノートプレイスを抜け、政府観光局に到着する。
建物へ入り、中を見渡すと、二人の職員が退屈そうにボーっとしている。
観光局と言うだけあって様々なパンフレットが置いてあるものだと思っていたが、3種類ほどデリー観光のパンフがあるだけで、その他はなにもない。
掲示板にもたいして情報はなく、本当に観光局なのかと疑いたくもなる。
結局、何の情報収集もできず、退出することになった。

その後、通りを挟んで向かいにある本屋へ行き、しばらくインド料理本やインド版マンガを立ち読みし、インド文化を研究したあと、Cさんと別れ、ようやく独り歩きすることとなった。

今後、デリーから脱出するには列車を利用することになるので、とりあえず、駅を見に行こうと思い、歩きはじめる。
先ほどリクシャーで来た道をたどって行けば駅前に出られるはずなのだが、コンノートプレイス周辺は、道が円を描くように作られているので、何度も同じ所を周り、わずか30分で迷子になってしまった。
見知らぬ街、しかも海外で迷子とはちょっとした恐怖である。

しばらく闇雲に歩いていたが、このままではとてもコンノートプレイスから脱出できそうにもないので、道端でくつろいでいたオッサンたちに英語で道を聞いてみた。
しかし、そのオッサンたちは全然お前の言っている事は分からんという感じで、何も答えてくれない。
自分の英語に自信が無くなったと同時に、「さすがに“ステーション”っていう英語くらい分かるだろ?嫌がらせか?」という、オッサン達への怒りがこみ上げてきて、早々にその場を立ち去った。
もういい…。自力で駅まで行くしかない。

さらに闇雲に歩き続けていると、3人の少年が話しかけてきた。
どこから来たんだ?名前はなんだ?いくつだ?日本では何をしてるんだ?今からどこへ行くんだ?など、いろいろ質問してくる。
一つ一つバカ正直に答えていると「駅まで連れて行ってあげるよ。」と言ってくれる。
正直、ちょっと疲れてきたところだったので、助かったと思った。

ところが、5分ほど少年たちの後について行くと、とあるお店の前で止まった。
そして、「ここのお店でチケットを予約すると安いし、便利だよ。」というのだ。
コミッション欲しさに、悪徳トラベルエージェントまでわざわざ連れてきてくれたようである。
このままではややこしい事になると悟り、彼らとは別れ、また独りで駅探しへとさまようことに。
本当にガイドブックにある、トラブル例通りのようなことが起こったので、ちょっと笑えた。
日本では、暗黙の了解で「信頼」や「信用」の基に会話が成立しているが、ここインドではどうやら信頼や信用というものは欠落しているようだ。
騙される人間が悪い、信用する方が悪い…まさに、そんな感じである。
自分が常に試されているのか?カルチャーショックである。

気を取り直し、北の方角へと歩いてみることに。
すると、すぐにまた怪しそうな兄ちゃんが近寄ってきて、「この先には駅なんて無い。逆の方向だ。」という。
ものすごい真顔でいうので一瞬信用しかけたが、この国には安っぽい信頼など存在しないことを思いだし、相手にせず、先へと進む。
そんな感じのやり取りに3回ほど出くわし、人間不審になりながら歩いていると、駅前に出た。
途中で話したインド人達が、全員ウソを言っていたと思うと、怖いとか腹が立つという感情よりも、むしろ可笑しさで笑えてくる。
一体、何なんだ?この国は?
どうやら、今回の旅のテーマは「どこまでウソを見抜けるか?」になりそうである。

半開きになっている鉄門から、中へと入っていく人々に続いて、駅らしき建物へと向かう。
入り口で警察らしき人に呼び止められ、カバンの中をチェックされる。
インドは準戦時体制下にあるので、軍事上機密となる駅などでは荷物チェックがあるらしい。
ちょっとドキドキしながら恐る恐る中へと入ると、チケット売り場は人、人、人でごった返していた。
窓口には数え切れないほどの人が並んでおり、その光景を見ただけで眩暈を憶えたため、その場から退場することに。

建物の外へ出て一息つくと、すぐに怪しそうなインド人が近づいてきて「チケットの買い方教えてやるからついて来い。」と誘ってきた。
話し始めると心を許してしまいそうなので、完全無視する。
「どうやってチケット買うのだ?トホホ…」と不安になりながら建物の壁に書いてある列車の時刻表を見ていると、真横で時刻表の説明をしてくれるターバンを巻いたオッサンがいる。 最初は無視していたが、それにもかかわらずいろいろ説明してくれてるので、「この人はいい人かも?」と思い、話すことに。

ターバンのオッサンは、列車のチケットの事、今いる場所は駅ではなくてチケット予約センターだという事、駅へ行けば外国人専用チケットオフィスがあるという事など、何でも丁寧に教えてくれた。
とりあえず、今日は時刻表がほしいので、どこで買えるのかとたずねると「政府観光局だ。」と教えてくれた。
(注:列車時刻表は外国人専用オフィスで購入可能。でも、この時点では知らなかった。)
先ほど行ってきたところではないか。
また戻るのは億劫なので、「明日、買いに行くことにするよ。」と告げると、オッサンは「俺がリクシャーに頼んで、お前さんをインド人料金で政府観光局、まで乗っけてやるよ。」といい、強引にリクシャー乗り場へと連れて行く。
ものすごく断わったが、散々お世話になり、せっかくの親切を無下に断わってはならんと思い、言われるがままにリクシャーに乗ってしまう。
ターバンのオッサンに礼を言うと、リクシャーは政府観光局へ向けて走り出した。
 

 

 

 


 

 


小さなオフィスの前でリクシャーが止まり、オッサンが「ここが政府観光局だ。」と指差した。
しかし、明らかに先ほど行った政府観光局と違う場所なので、ここは違うと言うと、「ここは、政府観光局の支局だ。だから、ここでいいのだ。」という。
怪しいので、ちゃんとした政府観光局に連れて行くように何度も言うが、リクシャーのオッサンはちっとも動こうとしない。
そのうち、なんだか自分が悪いことを言っているみたいに思えてきたので、仕方なく渋々降りる。
今日は時刻表を買うだけなので、何でもいいからすぐ帰ろうと思い、『ITBと書かれたドアを開け、中へと入った。

受付の兄ちゃんの案内で一番奥の部屋に通され、ボスみたいな人の前に座る。
ここへ来た用件を告げ、しばらくたどたどしい英語で説明していると、パソコン画面をじっと見ていたボスがこちらを見て、

「何?時刻表欲しいの?だったらここで見てチケット買いなよ。」

と、突然日本語でしゃべり出した。
インド人から聞きなれた日本語が出てきたので嬉しくなり、ちょっと安心する。
時刻表を買いに来たことも忘れ、調子に乗って世間話から旅行プランまで、いろいろ話をした。
デリー観光について話題が及ぶと、「まだ観光してないなら、うちのタクシーでしてきなよ。200Rsでいいよ。」と言われる。
バスツアーで観光すると180Rsくらいとガイドブックに書いてあったのを思い出し、タクシーを自由に使えて200Rsなら安いと思ったので、お願いしてしまった。

そんな訳で、タクシーを使ってデリー観光に出かけたのだが、ガイドブックも何も持たずに出発してしまったので、結構いい加減な観光になってしまうことに。
最初のうちは物珍しさから運転手とワイワイ言いながら観光していたが、インド門、大統領官邸、ガンディー・スミリティー博物館、ロータステンプル、ラクシュミー・ナーラーヤン寺院と見学したところで面白くなくなり、疲れてきたので帰ることに。

オフィスに戻るとボスが、「デリーの次はどこへ行きたいの?」というので、聖地バラナシに行きたいと答えた。
ボスは少し考えた末、バラナシまでの列車のチケットを取ってくれるといい、何やら電話し始める。
しかし、電話が終わると「バラナシまでのチケットは133人待ちだから無理だ」と言った。
列車のチケット売り場に行った時も、ものすごい人が並んで買っていたのを思いだし、「さすがインド…列車に乗るのも一苦労だ」と感心する。
仕方ないので、次はインド観光のスタンダートとでも呼ぶべき、ジャイプル、アグラーの2都市へと行くことに決めた。

ツアー料金を聞くと「プライベートタクシー&3泊4日宿泊費込みで300ドル」と言われる。
さすがにこれはインドの物価にしては高いような気がしたので「無理だ。金がない。」と答えると、いきなり『じゃぁ…200ドル』と100ドルも下がった。
かなり怪しい…まだ下がることを確信し、値切ってみることに。
「もっと安くしてくれたら、インド一周のチケットの手配を任せてもいいんだけど」というと、ボスは計算機を持ち出し、なにやら計算し始める。
そして、『じゃぁ…150ドル』と値下げしてきた。
交渉開始わずか5分で、もう最初の言い値の半分である。
まだ下がりそうな気がして段々と調子に乗ってくる。
今度は「もうすぐ友達が日本から来るのだが、安くしてくれたら彼らを紹介してもいいけど…」とまったくのウソを言ってみた。
ボスはまた難しい顔をしながら計算機を弾き、『じゃぁ…122ドル』という値段を出してきた。
おまけに、なぜ122ドルなのかという値段の説明までしてくる。どうやらこれが値下げの限界らしいので、勝利の笑みを浮かべて122ドルを払い、ツアーの契約をした。
このまましばらくデリーにいても仕方ないので、ツアーの出発を明日にしてもらう。
インド一周のチケットの契約もすぐにした方がいいと言ってきたが、はじめから契約する気はないので「また明日。」とはぐらかし、帰ることにした。
 

 

 


 

 


午後7時、宿があるメインバザールの入り口までタクシーで送ってもらい、運転手のオッサンと明日の待ち合わせ場所と時間を確認し、別れる。
タクシーを降りると急に空腹感が襲ってきた。
今日は一日、緊張と興奮の連続だったため、昼食を食べるのも忘れていた。
何を食べようかと考えていると、宿へ向かう小道の途中に食堂を見つける。
看板にヒンディー語で何か書いてあり、10Rs(約25円)の値段が付いていたので、とりあえず頼んでみることに。
しばらくすると、“ターリー”が出てきた。
ターリーとはチャパティと呼ばれる小麦粉を円く薄く延ばしたものと、日本のご飯よりもパサパサしたライス、やけに水分の多いカレー、カレー粉で炒めた野菜と、切っただけの生野菜がひとつになったインド版カレー定食である。
初インドカレーだったのでワクワクしながら食べてみたが、想像を絶する、腐ったような不味さだったので、ものすごくブルーになった。
「出されたものは残さず食べる」がモットーだが、あまりの不味さに全て食べることができず、日本語で「ゴメンナサイ…」と言いながら逃げるように食堂を出た。

宿に着き、しばらく休んでからCさんの部屋へ行く。
明日からツアーに出かけることを告げ、今日の出来事を話すと、「怪しくない?」と言われる。確かに怪しいのは分かっているが、インドのベテランに「怪しくない?」と言われるとますます不安になってくる。
ということで、Cさんと一緒に別のトラベルエージェントへ行ってみることに。

宿からメインバザールを少し歩いた所にある『Sigeta Travel』というトラベルエージェントで話を聞いてみる。
ここは“地球の歩き方”にも載っており、ロニさんという人は日本語を話せるそうだ。
ロニさんに今日あった事と、明日からのツアーの事を話すと、

「あなた、間違いなく騙されてるよ。」

開口一番、直球で言われる。
まず、第一に政府観光局に支店などないということ。
「政府観光局だ」と言って騙すエージェントはデリーに山ほどあるそうだ。
第二に「プライベートタクシー&3泊4日宿泊費込みで122ドル」はあり得ないということ。
「しっかり値切ったつもりだったのに、まだ高かったのか…インドって一体…トホホ」と思っていると、どうやら逆の話らしく、安すぎてあり得ないのだと言う。
ロニさんも電卓を使っていろいろ説明してくれたが、135ドル以下になることはあり得ないという。
おそらく、ひとりではなくて他の旅行者と一緒にツアーすることになると言われ愕然とする。
独りで自由に観光できるのではないのか。気楽なツアーではないな…
最後、ロニさんに「絶対何か裏があると思うから、とにかく無事に帰ってきなさい。何かあったら荷物置いてでも逃げなさい。」とやや脅される。
さすがインド…よく分からない。
いろいろ真実を教えてもらい、宿へと帰る。

日本にいた時、日本人旅行者の多くがインドで騙されると聞き、「自分は絶対に騙されない…騙される訳がない。」とかなりの自信でインドへ乗り込んだが、はや2日目にして騙されるという結果に終わり、笑えて仕方がなかった。
…さぁ、明日から「騙されたフリをしてツアー」の始まりである。