こんな時だからこそ | とおかんや

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和力主宰、加藤木 朗の許で学ぶ地力塾生が、十日夜に書く日記。

先ほどまで、権現舞の頭の形に掘った発泡スチロールの塊に、小さくちぎった障子紙の破片をひたすら貼りつけていた。今お師匠さんに教えていただきながら自分用の頭を作っているところなのだ。紙は、あらかじめちぎって細かくしたものを沢山用意しておき、薄めた接着剤をつけた筆の先でちょんとついて取っては貼り、取っては貼り、を繰り返す。時間のかかる作業だが、こうして補強をしておかないと舞台での激しい使用に耐えられずに割れてしまうのだそうだ。これを最低でも4回か5回繰り返した後にようやく次の工程、胡粉かけに入れる。薄紅の桜の花びらが散って葉桜に変わるころまでには何とか、先に進んでいたいところだ。

ずっとやりたかった権現舞を始めるための第一歩を、ようやく踏み出したという感じがする。出演ができないからと言って何も下を向いていなくてはならないわけではなく、今できることは沢山ある。お師匠さんはそれを行動で教えてくださっている。この機会に新しい楽器にも挑戦しようと思っている。

ちょうど1週間前のこと。日頃お世話になっている地元の昼神温泉が新型コロナウイルス流行の影響により苦境にある中、何か恩返しをしたいというお師匠さんの発案で、和来座出演者のメンバー数名で家内安全、病魔退散を祈願してきた。先方に求められない限りは施設内には立ち入らず、玄関先で火伏舞、鶏舞、そして最後に権現舞と3つの舞で厄払い。後で数えてみるとなんと全部で19か所を回っていたらしい。道理で久しぶりに筋肉痛になるわけだ。土曜日にもかかわらずやはり宿泊のお客様の数はとても少なかったが、もともと誰もいなくてもやるつもりで出かけていった。中には音を聞きつけて観に来てくださる方たちもいらっしゃりって、従業員の方も含め演奏を喜んでくださったのが何より嬉しかった。

今、先月のこのブログを書いていた時の予想を遙かに超える事態になっている。3月4月どころか、5月の公演も中止あるいは延期にせざるを得ない状況となってしまった。伊那市かんてんぱぱガーデンでの公演は中止。これから売るはずだったチケットの束を、まさか薪ストーブにくべることになるとは思わなかった。

残念な決定が続いていたが、今日は嬉しい電話もあった。皮の貼替えと修理を依頼していた、私がお借りすることになっている三味線が仕上がったとのこと。楽器を迎えに行くのは不要不急の外出には当たらないものと決めている。