3月の雨はまだ冷たい。
満月が煌々と照って、窓から見る伊那谷の街並みとアルプスの輪郭がきれいに浮かび上がって見えているのに、ハイエースのワイパーが休む暇もないくらい雨が降っていた。
今日は昼間から濃い霧に町が煙っていた。5月の伊那市かんてんぱぱガーデンでの公演の営業と挨拶回りに向かう車中で、お師匠さんが「今の状況を表しているような天候だね。」とおっしゃった。そう、今まさに私たちの仕事は五里霧中だ。
世界的に大流行中のコロナの影響で公演が次々にキャンセルとなってしまい、張り切って企画している和力のかんてんぱぱ公演も開催が危ぶまれてきた。
かんてんぱぱ(伊那食品工業)は長野県屈指の優良企業で、溶かして冷やすだけで作れる簡単なデザートの素で有名だ。本社のある伊那市「かんてんぱぱガーデン」は、広大な緑豊かな敷地内にレストランや喫茶店が立ち並び、市民の憩いの場になっている。その一角に講演会等で使用されているホールがあり、そちらを貸していただけることになったのだ。
ところが和来座が千秋楽を迎えてやれやれ一息ついた途端、コロナウイルス騒動がますます深刻になってきた。イベントは自粛、地域のお祭りも中止や短縮、小規模化で、しばらくは出演の仕事が少なくなりそうだ。
あまりにもがっかりする知らせが続いたので、どうにか自分たちを元気づけなければと思い、とっさに考え付いたのが、なにか美味しい物を食べること。
早速かんてんぱぱの商品「かんてんクック」で、クリームあんみつを作った。あんこが作れなかったので正確にはクリームみつだったが、お師匠さんは黒蜜がビックリするくらいお好きなので、あん抜きのあんみつでも喜んでいただけた。「かんてんクック」は水に溶かして過熱した後、冷やすだけで固まり、フルーツ等をトッピングすればお手軽に美味しい甘味処メニューが完成する。
私と真央ちゃんは不定期で稽古場のキッチンで「カフェ&バー くまじー」というお店を開いている。(久美子のく、真央のま、地力塾のじ)お客さんは今のところお師匠さんだけ。全メニューがタダで提供される代わり、お客さんには何を食べたいか選ぶ権利はなく、弟子2人のその時作りたいものが出てくる。この日は真央ちゃんも貴重なお客さんで、私一人が料理人だった。
このピンチをどうチャンスに変えるべきか、まだ寒天のようには考えがまとまらない。どこかに名案とすぐ食べられる餡はないだろうか