オーディブルで聴きました。

 

時代物から現代物(といっても大正)のいろいろな怪談が46話収録されています。

 

聴いていてぞくぞくする話はないですけどおもしろいです。"刺激的な怪談" を期待するとちがうと思います。田中貢太郎の本だったら『日本怪談実話〈全〉』が個人的にはおすすめですけど、田中貢太郎の作品の多くは青空文庫やkindleで無料で読めますよ。

 

怪奇現象にはっきりとした目的がある話が多い印象です。起承転結がしっかりとした復讐劇、みたいな。悪いことはできないよね、みたいな。そういう怪談は個人的にはそれほど魅力を感じないことが多いんですけど、いくつかの話はディティールがとてもおもしろいんです。

 

たとえば『指環』。

 

「○○さん、知ってます? 変なお願いしますけど、この指輪を指にはめて○○さんの家のまえで行って落としてほしいんです。落としたあとは用がないので指輪は好きにしてください。あなたにあげます。ちょっとしたおまじないですよ、うふふ」

 

こんな気持ち悪いお願いきけるかっ! ってことをきいてみたらどうなったかという話。

 

『一握の髪の毛』もおもしろいです。

浮気を疑う妊娠中の妻を蹴り飛ばして外出し、浮気相手の女と旅館で過ごしていたら「一握りの髪の毛」が届けられたって話。

 

現代風にしてもこわいんじゃないですかねえ。ホテルで浮気相手と過ごしていたら部屋のチャイムが鳴る。ドアに行ってみると下から封筒が差し込まれていた。なにかと思って手に取り開けてみると「一握の髪の毛」が入っている……。恐る恐るドアを開けて廊下を見ると角を曲がり去る妻に似た女性の後ろ姿が……みたいな。

 

髪の毛が届けられるだけでも気持ち悪いのに、そのあととんでもないことが起こるんです。一応、実際にあった話として書かれている作品です。

 

「髪の毛」というとわたしは知人から聴いたこの話を思い出してしまいます。知らず知らずのうちに届けられている場合があるのかもしれません……。

 

田中貢太郎の作品は同じ話を元にしたと思われる作品が複数あるのもおもしろいです。もしかしたらほんとうにそんな噂があったのかもしれないですね。読み比べてみてもおもしろいと思います。

 

・『雪の夜の怪』『終電車に乗る妖婆』 宇田川町の線路付近に現れる老婆

 

・『山寺の怪』『竈の中の顔』 箱根の温泉宿の裏山にいる怪しげな坊主

 

・『黒い蝶』『赤い花』 坂道に現れる謎の女性と因縁を持った家系(似てるだけかも)

 

『竈の中の顔』はなかなかこわい話ですよ。無料で読めるのでkindleや青空文庫でどうぞ。