『理屈なしに私は怪談が好きだ』
 
わたしも好き。大正から昭和初期に集められた話をいまも楽しむことができる喜び。怪談は時代を超えますね。
 
田中貢太郎の怪談はほかの作品で紹介されているのを読んだり、青空文庫やKindleで無料で読んだりしていたことはあるけれどまとめて読むのは初めて。よくできた怪談と思うような話や、ほんとうにあったんじゃないかと思えるような話、怪奇現象かと思えばその現象の正体が書かれていたり、いろいろな話があっていま読んでもおもしろいです。
 
「死体を喫う学生」は、北海道のある大学生の話で、寄宿舎の同じ部屋の学生が夜な夜な出かけているからあとをつけてみると……という話。題名でネタバレしちゃってますがね。この話を田中貢太郎の怪談としてではなく、学校の怪談、噂話として別の本に書かれているのを読んだことがあります。大学生が防大生になっていました。肝心の彼がなぜ墓を荒らしていたのかは、時代に合わないからか抜けていました。よくできた怪談は話したくなるから広がるんでしょうね。
 
わたしが好きなのは「碧い眼玉」。
憂鬱症になり白浜で静養しているユダヤ系イギリス人の血を引く少女の話。いろいろ想像をしてしまう話です。碧い眼玉とはいったいなん(の象徴)なのか……。わたしには彼女のコンプレックス(の象徴)に思えました。母親が見つけたのはその気持ちを書き綴ったものなんじゃないかと……。想像が過ぎますかね。
 
ほかに印象に残ったのは、知人から預かった荷物とは……「位牌と鼠」。
怪奇現象と鼠というと四谷怪談が思い浮かびます(お岩さまは子年、彼女の化身)。最近の怪談では怪奇現象と鼠の組み合わせはあまり聞かないです。というか鼠は身近にいませんからね。いつ頃まで怪奇現象と鼠は語られていたのでしょうかね。おもしろいです。
 
「格子戸に挟まれた老婆」もなんだか気持ちが悪い話。差出人不明のハガキに書かれたこととは……というような話です。いまの時代に起こったこととして語られていても違和感のない話。
 
ふしぎな光の話もいくつかあるんですけど、いま同じことが起きたらUFOの話になりそうだなと思ったものもありました。受け止めかた、解釈が違うだけで似たような出来事の話があるのがおもしろいです。「怪火を見た経験」は球電?
 
田中貢太郎の作品は無料でKindle、青空文庫でたくさん読むことができます。「死体を喫う学生」「位牌と鼠」も無料で読むことができます。「海坊主」もおすすめ。