(ネタバレ注意)


~壽初春大歌舞伎    夜の部~


⚪️【息子】



2日のEテレ

『待ってました!歌舞伎生中継』でも

放送された、高麗屋三代共演【息子】。

ファンにとっては夢のような30分。

テレビの前に陣取って、息をつめて観た。

白鸚・幸四郎・染五郎の

表情一つ見逃さないように完全没入。

これは映像の良いところ。

何度も観れるし


こうして予習してからの、

歌舞伎座での生鑑賞。

やっぱり、生っていいですな!



雪がしんしんと降る冬の夜。

江戸の入り口にある火の番小屋。

火の番の老爺・白鸚と

捕吏・染五郎が他愛もない会話をし、

捕吏が去る。


そこへ一人の若い男・幸四郎が

小屋にやって来る。

火にあたらせてやったり、

食事を与えたり、

愛想は悪いが人情味のある老爺。

その若い男が、9年前に上方へ行った

実の息子・金次郎と分かるのはもう少し後。


もしやと気づいた金次郎が、

老爺の息子のことを訊ねると、

自分の息子は上方で

立派にやっているから心配ないの一点張り。

そんな子供の成功を願う親心。

目の前の落ちぶれた若者が

自分の息子とは思いもしないのだろう。


それは今の金次郎にとって何より辛いはず。

9年過ぎてもなお、自分を待ち続けている

恋仲だった娘の話を聞くことも。

このくだりの金次郎の表情が、

なんとも…切なくて胸が痛くなる。


自分事だが、

故郷を離れる辛さはとてもよく分かる。

国が恋しいとなんか言いやがって…

と言う老爺を受けての、

金次郎の「…そりゃあ恋しかろう…」と言う

声の震えに、泣けた。


上方で金次郎に何があったのか

想像するしかないが、

もとは真っ当な人間が落ちぶれて

悪になる役、幸四郎は本当に上手い。


捕吏と金次郎の追いつ追われつは

とても迫力があり手に汗握った。


自分の息子だと気づいた老爺。

追われる金次郎を気にしつつ、

小屋の戸を閉じてしまう。


一瞬追っ手から逃れた金次郎が

小屋へ駆け戻ってくる。

戸を開ける老爺。

「あばよ」と別れの挨拶をかわす二人。


母親が亡くなったことを知り、

「息子が帰る前にかっ…」とショックを

受ける金次郎。

「何を言ってるんだっ…

早くゆけっ、達者でいろよ…」

そう最後に涙ながらに声をかける老爺、

いや、父親。


息子の現在を知ってしまった、

老いた父親の。

親としてたった一つ望むこと。

「達者でいろ」と。


去り際、

感極まった金次郎が小屋に向かって、

両手を合わせて「ちゃん!」と万感の叫び。


この一瞬。

「金公、金公」と息子を可愛がる父親と

「ちゃん!」と父親に懐く幼い息子。

在りし日の老爺と金次郎の姿が

自分の瞼の裏に浮かんで…。


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切ないけれど、ものすごく心に沁みたお話。

高麗屋三代のリアルな親子で演じるって、

なんて贅沢で素敵なことだろう。

それができちゃう歌舞伎はやはり面白いし、

さらに高麗屋を応援したいと思った。

年の始めに、

生で観ることができて良かった!


老いた親と子の話は、

現在進行形の自分にはすぐ涙腺崩壊。

白鸚の表情、セリフ、

動き全てが心に染み入った。

幸四郎、染五郎もしかり。


昼の部【荒川十太夫】に泣かされ、

夜の部では【息子】に。

涙腺弱い方はハンカチお忘れなきよう。



次の歌舞伎座行きは三月。

でもその前に…今月昼の部のおかわり

行ってきま~す♪♪