あるボーイの悲劇 | 珈琲にハチミツ

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皆さん初めまして。私は日雇いの名もなきボーイです。今日はDSE主催のイベント・ハッスル2の控え室で起きた辛い辛い出来事を皆さんにお伝えしたく、このペンを取りました。

それはあるお方の余計な一言が原因でした。

そのお方とは、宇宙戦艦ヤマトのデスラー総統?を彷彿とさせる軍服に身を包み、ややぎこちない仕草で葉巻を嗜む謎の男でした。謎の男は元ギャングの用心棒でもやっていたのでは?と思うようなガタイのいい取り巻き連と一緒に、私が厨房から運んできたハッスルチキン(フライドチキン)を囲んで、和やかな食事のひと時を楽しんでいました。

彼らの取り留めのない会話がひと段落すると、謎の男が徐ろに一言、名案を思いついたとばかりドヤった口調でこう囁いたのです。

「美味しいか。モンスター達よ…そんなに旨いなら彼にも共食いさせてあげよう。」
こうして私は目の前の皿を彼が小川くんと呼ぶ男の控え室へ運ぶことになりました。がこの皿にはギャング達が食べ散らかしたチキンの骨しか残ってません。こんなものを目の前に出されたら?そりゃ誰だっていい気分ではないでしょうに…しかし私は事の是非に口を挟む立場ではないので、粛々とその皿を小川くんに運び、本日の仕事をとっとと終えてしまおうと思いました。

数分後、小川くんの控え室を訪ね、すっかり冷え切ってしまいうっすらと異臭すら漂ってきた皿を彼の目の前に差し出しました。小川くんは呆れた顔でハァ…とため息をつくや否やこれは何だ?と私に問いただしてきました。
突然もの凄い剣幕です。ギョロ目をさらにギラつかせて甲高いキンキン声を張り上げ、チキンを私にぶちまけると同時に皿をテーブルに叩きつけました。まさに現代版星一徹です。それは一瞬のことでした。
小川くんはもの凄い力で私をロッカーに押し付け「こんなん食えるんか?」と詰め寄ってきました。とんでもない八つ当たりです。しかしその圧力になすがままの私。そんなこと言われても…と文句の一つでも呟きそうになったその時です。小川くんは床に落ちていたチキンの骨を拾うと私の口元にねじ込んでしました。
不味い!というか冷たくてしょっぱい…「お前が食うんだよ。お前が!」小川くんからチキンの骨をグリグリと口の中に押し込まれ、口の中に不快感が充満してくると、哀しくてうっすら涙すら浮かんできました。なんの因果でこんな目に。ふと小川くんの表情を覗くと、彼の顔には怒り心頭のはずなのにポロっと笑みが溢れていました。
とにかく酷い目に遭いました。小川くんはしばらくすると気が済んだのか、しかし私を解放したかと思えば自分が散らかしたクセに床に散らばったチキンの掃除を私に命じました。なんと理不尽な…「クソ。このギョロ目が。。」心の声を押し殺して決して目を合わせぬよう(私の怒りを悟られたら逆に殺されかねません!)床の掃除に専念していると、いつ間にか控え室にもう一人入って来てるではありませんか。

「どうした?何してんだここで?」

「高田の野郎の嫌がらせっすよ。毎回毎回…」
ブツブツと文句をこぼすギョロ目の小川くんはせっかく集めてモンスター軍の旗まで立てたチキンの残骸を無慈悲にも蹴り散らかしてくれました(泣)
もはや言葉すら出てきません。すると「そんなん相手にすんなお前」

もう一人の太った立派なガウンを見に纏った方は大人でした。イライラが募る小川くんに対して「俺らプロレスラーなんだからよ。あいつらをぶっ倒せばいいじゃねぇか。違う?」と諭すとあの忌々しい小川くんも「そうですなぁ…」とションボリ顔。いい気味です。
気がつくと小川くんは先輩と思われるこのお方から説教されていました。「小川よ、プロレス って何だと思う?…自分の…最大の防御を捨てた時に、何か見えてくるものがあると思う。勝負も大事だけどそれを超えたところにプロレスラーの真髄ってのがあるような気がするんだけど、違うかな。」
みるみる小さくなっていくギョロ目の小川くん、フゥー…とため息をつきながら座り込んでしまいました。

ここで私の今日のお仕事は終わりです。この後二人は会場で試合に臨んだんでしょう。結果も少し気になりますが、私は体からチキン臭を一刻も早く消し去りたかったのでタイムカードをそそくさと押して会場を後にしました。

やっと帰り支度をすますと、まぁせっかくだからさっきまでいばり散らしていた小川くんの勇姿でもひと目みてやろうと、アリーナの方を少し覗くと観客席の方は微妙な空気が充満していました。そしてリングの方では私を助けてくれた(?)あの太った方が、リング上でうずくまっているギョロ目の小川くんを介抱しているじゃあないですか。

「小川ァ!」


続く