プロローグ3 | 珈琲にハチミツ

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正直に書くと、冬木弘道のことはよく知らない。

初見は96年1.4東京ドームの対安生洋二のシングル。(理不尽大王とMr.200%男のブーイング対決と銘打たれていた今となっては相当ディープなカードだ。)試合は冬木がガムテープで安生の顔をミイラ男のようにグルグル巻きにした場面以外はよく覚えていない…随分ヒドイことをするなぁぐらいにしか印象はなかった。

その後の冬木の動向は雑誌で追うくらいだったが、大仁田厚を追放する格好でFMWを仕切るようになってからは、いつの間にか冬木の語るプロレス観には注目するようになっていた。

「UWFはプロレスを退化させた。」

「今のプロレス界は本番が主流のアダルトビデオの世界。俺は日活ロマンポルノに戻したい。不透明な決着でもその方が想像力を掻き立てられる場合もあるだろ。」

これらの話はよく覚えている。冬木は新しいプロレスを模索していた。だが残念ながらFMWが経営難に陥ったことでその試みは頓挫し、新天地のWEWを旗揚げするも癌に侵されることで冬木のレスラー生命は最大の危機に瀕してしまった。

「癌なんか治っちゃいねえ。肝臓に転移して、どれくらい生きられるかわからねえ」

それでも冬木は命が尽きるまでリングに立ち続けることを選んだ。
2003年2月2日ディファ有明
橋本真也、テングカイザー組対金村キンタロー、黒田哲広組

試合開始前に金村組のセコンドに就いていた冬木が宣戦布告。5月5日の川崎球場大会で電流爆破マッチを橋本に要求する。が、冬木の体調を案ずる金村の表情が痛々しい。
この目つき。

果たして試合はできるのか…しかし試合はできなくてもその眼光はリング上の目つきそのものではないか?
橋本もそれに応える。
リングに入ろうとするがそれを懸命に止める金村。
試合中盤、ついに橋本と冬木が遭遇!袈裟斬りチョップ一発で崩れ落ちる冬木。やはり相当体調が悪いように見える。セコンドの動きも慌ただしい。
それでもなお冬木は闘い続ける。動かない体に鞭を打つように、苦痛に顔を歪めながらも再びリングへ…
アッアッアーッッ!!
とうとう十八番の不快な雄叫びから地団駄ラリアットが炸裂!!
だがインパクトの衝撃か、ここまでの無理が祟ってしまったのか、この試合で冬木が再び起き上がることはなかった。
試合は橋本が強烈なジャンピングDDTで黒田からピンフォール勝ち。試合後も倒れた場所から全く動けない冬木を横目に一瞬、複雑な表情を浮かべた橋本。こんな試合が許されていいものなのか?そんな思いに駆られていたのではと想像する…


あれもプロレス、これもプロレスと言うのであれば、この橋本と冬木の抗争もそうなのだろう。しかしながら、この試合を見て単純にそう割り切れるものなのか?本当に命を賭けることがどういうことか。ここまで人生を切売りするような行為が許されていいものなのか…色々と考えさせられてしまう試合であった。


そして物語はまだ終わらない。

試合終了後、爆勝宣言が鳴り響くなかおもむろにリングに近寄る男がいた。


武藤!?


続く