入院して手術?日帰り手術? | ひねもすのたりのたりかな

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「よその病院で7日間入院が必要だと言われたので来ました、仕事のことがあるのでとても7日間も入院できません」という方が時々いらっしゃいます。私が診察して「注射療法で出来ますから入院は必要ないと思いますよ」と答えますと、「先生、同じ病気の診たてでどうして入院と日帰りで違うんですか?」と尋ねられます。

入院でも日帰り手術でも手術の内容はかわりません。日帰り手術だから「手を抜く」ということももちろんありません。私の専門の肛門疾患の手術に限っていえば、「入院」と「日帰り手術」の一番大きな違いは「安心感を優先する」か「住み慣れた自宅でくつろぐ」かの違いと費用の点です。

肛門の手術をうけたあとは予想以上に術後の傷の状態にナーバスになります。特に手術直後の排便は「おっかなびっくり」です。なかなか思い切っていきめないこともあって、それまで便秘とは縁のなかった方も緩下剤をつかわないと排便に苦労することが多いです。また傷口からの浸出液も気になります。何分にも見えない傷なのでいろいろ想像を膨らましてしまうようです。そこにいつでも傍に看護師さんが居てくれて、何かあれば医師がすぐ診てくれる状況というのは心強いものです。また他人とのコミュニケーションが好きな方や、苦手でない方であれば、「同病相憐れむ」ではないですが、ルームメイト(?)との患者さんとの励まし合いや友情を通じて、気分的に安心できると思います。

一方他人と同じ部屋で寝泊まりするより、自分の住み慣れた家や部屋で過ごしたいという方もおられます。トイレやシャワー、お風呂も他の患者さんとの譲り合いに気を使ったり、時間を気にせず好きな時間にゆっくり使えます。

費用に関しては保険適用の場合、日帰り手術では2万円程度ですが、1週間の入院では6万円ぐらいになります。この違いも大きいですね。

麻酔方法は日帰り手術の場合は歩いてお帰り頂くために下肢に麻酔をかけるわけには行きません。ですので肛門周囲のみに局部麻酔をかけることになります。入院の場合には腰椎麻酔といって、腰から下の広範囲に効果のある麻酔を行います。病状によっては広範囲に切除する場合もあるので、その場合にも腰椎麻酔が必要になります。

私の方から入院をお勧めする場合もあります。高齢の方、心臓や脳血管、重症の糖尿病等の基礎疾患のある方です。

以上のような違いがありますので、「安心感」と「リラックス」のどちらを優先するか、費用を含めた患者さんの希望、病状や術式の違い、持病の有無などによって日帰り手術と入院手術を区別して提案しています。ちなみに当院を受診されて手術を決心される方の約9割は日帰り手術で治療を受けられます。

一方他の医療機関で、ちょっと無理目なケースでも日帰り手術を勧められたり、逆に軽微な症例でも1週間以上の入院を勧められた、という話を患者さんの口から時々耳にします。大切なことは患者さんが医師の説明に納得して安心して手術を任せられるか、ということです。納得できるまでしっかり説明を聞いてから手術を決断しましょう。