蚊が人間の血を吸う「仕方のない」事情
血液は「特別食」
これから暑くなってくると登場する、人間の天敵といえば、蚊である。寝ている時にあの「ブ~ン」という羽音を聞くと、もう気になってぐっすり眠ることもできない。うっかり刺されてしまった時には絶滅させたい気持ちにもなる……が、実は蚊の主食は血液ではないことをご存じだろうか。
蚊のエネルギー源は糖分で、普段は蝶や蜂と同じように花の蜜や樹液、果実の汁などを吸って生きているのだ。
ではなぜ、夏になると人の血を吸いに来るのか。実は血を吸うのはメスの蚊だけで、産卵に必要なタンパク質を摂取するために吸血するのだ。つまり、蚊にとって血液は子孫を増やすための「特別食」なのである。
日本にいる主な蚊は、ヒトスジシマカ(通称:ヤブ蚊)、アカイエカ、チカイエカだ。チカイエカだけは、吸血せずに1度目の産卵をすることができる。これは蚊の中でも非常に珍しく、無吸血産卵性と呼ばれている。しかし、そのほかの蚊や、またチカイエカも2度目以降の産卵では、血を吸わないと卵を産むことができない。
血を吸うのは命がけ
そこで蚊は特殊能力を身につけた。人間が出す二酸化炭素を目印に吸血するのだ。20m以上離れていても、位置を特定できると言われている。
一回に吸うことのできる血の量は、自分の体重と同じくらい。ということは体重が約2倍になるので、血を吸った後の蚊は動きが少し鈍くなる。そこでバチンと潰されてしまうことが多いわけだ。
ちなみに栄養が十分にあれば、血を吸う必要がないという実験結果もある。ヒトスジシマカのメスに高栄養のローヤルゼリーを与えてしばらく飼育したところ、血を吸わずとも卵を作ったという。蚊の種類によっては、同程度の栄養がとれれば、血液は必ずしも必要ではないということだ。
とはいえ、自然界にそんなに都合よく高栄養な餌が用意されているわけではない。そこで蚊のお母さんは子供のために命を懸けて血を吸いに行くのだ。こう聞くと、なかなか簡単に潰せなくなってしまう。