新型コロナウイルスの感染者数が高止まりとなり、各地で医療体制の逼迫(ひっぱく)が深刻化する中、感染者や感染疑いの人を搬送する奈良県生駒市消防本部の特別救急搬送専属隊もフル稼働状態になっている。搬送者の8割近くは重症化しやすい70代以上の高齢者。搬送先がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」も先月下旬から相次ぐ。「第6波」のピークが近づくとされる中、緊迫した日々が続く。
「救急指令、救急指令、出場せよ」。専属隊が詰める専用棟のスピーカーから音声が流れると、隊員の表情が一変した。ものの5分足らずでゴーグルや手袋、医療用マスク、防護服を着用し、現場へ向かう。搬送を終えると、防護服を廃棄し、車両やストレッチャーなどを入念に消毒。これを1日に数回繰り返す。
「オミクロン株の感染力はあまりに強力。これまで以上に隊員の二次感染に気をつける必要がある」。専属隊の救急救命士、井上雅照さん(49)は気を引き締める。
専属隊は、救急搬送による市民や隊員同士の二次感染を防ごうと令和2年4月に発足。総務省によると、こうした専属隊の運用は全国でも珍しいという。
同本部にある救急車6台のうち1台を専属隊専用とし、カプセル型の搬送装置(アイソレーター)を備える。専属隊のメンバーは同本部に所属する消防署員のうち、志願した約60人で構成。この中から1カ月ごとに9人を選任し、3交代制で任務にあたる。専用棟に詰め、他の署員とは接触しない。
感染状況が落ち着き、活動を休止した昨年12月1日までに搬送したのは約170人。二次感染は一度もなかった。
約12万人が暮らす生駒市の感染者数は、1月中旬から急増。2月8日には278人と過去最多となった。専属隊は1月7日から運用を再開し、これまでに計44人を搬送。月別の搬送者数は1月に過去最多となったが、感染拡大に歯止めがかからない状況に現場の緊張感は一層高まっている。
第6波では搬送者の9割近くが陽性。70代以上がほとんどだ。井上さんは「今後重症者が増えれば、搬送時に間接的ではあるが接触機会が増え、二次感染のリスクも高くなる」と懸念する。
さらに医療体制の逼迫も深刻だ。1月24~30日、市内では救急搬送困難事案が6件発生。うち3件が専属隊が担当する患者の搬送だった。搬送先が決まるまで1時間以上かかったケースもあったという。
主な搬送先で専用病床24床を抱える生駒市立病院の使用率は9割を超える。同本部の担当者は「これ以上搬送要請が重なれば、受け入れ医療機関を見つけるのも難しくなる上、専属隊だけでは搬送者をカバーしきれない」と危機感を示す。
市の担当者は、2月末までは感染者数の高止まりが続くとみる。同本部の川端信一郎消防長は「収束するまで運用は続ける。濃厚接触者が隊員の中で多数出た場合、どう業務を継続するかもこれからの課題だ」と話した。(田中一毅)