思考の単純化は危険です。 | 植松努のブログ

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講演でしゃべりきれないことを書きます。

物事を考える時に、僕が注意していることは、

あんまり単純化しない、ということです。

 

どういうことかというと、

 

たとえば、以前、韓国でフェリーが沈没しました。

大勢が犠牲になった、とても悲しい事故でした。

 

それに対して、「やっぱり韓国だから」と言う人は少なくありませんでした。

でもそれは、事実に基づく有効な思考とは思えません。

 

たとえば、「やっぱり韓国だから」と考えたなら、

「なぜ、韓国だから事故が多いのか」と考えるべきです。

調べてみたら、日本でもけっこういろんな事故が起きていることに気がつくでしょうし、

世界的に見たら、もっとひどい事故が起きている国もあることがわかります。

そうしたら、「やっぱり韓国だから」という考えは、

根拠がない思い込みであることがわかります。

 

その上で、じゃあ、なぜあの事故は起きたのかな?を考えると、

事故の再発防止につながるし、自分が事故に巻き込まれる可能性を減らせます。

 

 

以前、北海道の教育問題について考える会に参加しました。

そこで、参加者で、何が問題なのか、何が原因として考えられるのか、の

意見を出し合うことになったのですが、

「北教組が悪い」としか言わない人がいました。

何が悪いのか、どうしてそうなったのか、じゃあどうするのか、が一切なく、

とにかく、「北教組が悪い」「北教組をつぶせ」としか言わないのです。

これでは、改善策など出てくるはずもありません。

でも、よく飲み屋さんで「今の政府が悪い!」と言ってるおっちゃん達も、

同じ思考なのだろうな、と思います。

 

たとえば、商品が売れないとき、

「値段が高いからだ」と考えるのは簡単です。

で、安くしたら売れるかもしれません。

そう考えたお店が他にもあって、もっと安くしてたら、

こっちの商品が売れなくなります。

だから、もっと安くするために、仕入れ先と交渉して、

もっと安く仕入れます。それを安く売ります。

この先には、何が待ってるかというと、

まず、作ってくれてる会社がつぶれます。

自分の会社の利益率も低下します。

利益率が低下するということは、余力が低下すると言うことです。

それは、たとえば、今回のコロナウィルスの影響のような、

外的要因による市場のみだれの影響を受け止められません。

だから、自分の会社もつぶれる可能性があります。

 

だから、商品が売れないときに、

一番最初に思い浮かんだ「高いからだ」「安くすれば売れる」という、

超単純な、誰でも考えつく思考で停止してしまわないことが大事です。

「安くしたら、どうなるか?」もしっかり考えるべきです。

考えたら、「安くするだけだと一時はいいけど、危険度は増す。」ことに

気がつくはずです。

そうしたら、「安くする」以外の道を探すでしょう。

 

いま日本では、最低賃金の引き上げが進んでいます。

悪いことではないのですが、これによって、企業はロボット化をどんどん進めています。

最低賃金は上がるけど、そもそも雇用の数が減る、という状態です。

また、いまは人手が足りないので、バイト代がどんどん上がっています。

それはありがたいことかもしれないけど、企業の利益率は低下します。

ということで、サービスが値上がりし、商品の数は減り、お店は閉店し、

雇用の場が減っていきます。

いくら給料が上がっても、支出の増大の方が大きければ、

結果的には給料はマイナスです。

 

僕は、今のままだと、日本は、第一次大戦後のヨーロッパのように、

外国に出稼ぎに行かないと暮らせない国になるのだろうなと思っています。

しかし、あの頃は、そういう移民を受け入れたアメリカという国がありました。

アメリカは、科学の発達によって、利益率を大きく向上させていたからこそ、

移民を受け入れることができました。

しかし今や世界は、情報速度が向上した結果、昔のような「大もうけ」できません。
もうすでに、移民を受け入れられるような余力のある国はないのが実情です。

 

トヨタという会社が、「なぜ」を10回繰り返そう、と言っていたそうですが、

僕も心からそう思います。

思考を単純化するのは、とても危険です。

何かを考えたなら、なぜそう考えたのか、を考えるべきです。

そう考えたらどうなるのかも、考えるべきです。

考えるべきことは、山ほどあります。

 

しかし、選択式の穴埋め問題とか、答えが明確な問題ばかりをやっていると、

このような思考の連鎖ができなくなります。

それが、今の日本の厳しい状況を生み出しているのだろうと、僕は思っています。

 

前にも書きましたが、給料が増えると、所得税が増えます。

支出を減らすと、消費税が減ります。

ということは、所得を増やす努力よりも、支出を減らす努力の方が効果的です。

僕はそれを知っているから、自分でできることを増やすのです。

おまけに、お金を払って買えるものや、お金を払ってしてもらうことは、

自分より金持ちに必ず負けます。

そんなモンで勝負をする人の気が知れません。

必ず、「負け」が待っています。

ちなみに、借金は、金利以上に価値を増やせる確信があるならば、した方がいいです。

そうでなければ、すべきではないです。

 

「考える」は人間が持つ素晴らしい能力です。

ちなみに、AIは、莫大な過去情報から、似たケースを探してくる能力に優れています。

受験にたとえると、AIは、過去数十年分の過去問題を全て把握していて、

そこから、ものすごい精度で「ヤマ」を導いてくれるようなものです。

その能力は、有名予備校をかるく超えてしまうでしょう。

 

しかし、たとえば、いきなりまったく新しい方式の受験になったとします。

とたんにAIは、過去情報を持っていない状態になります。

そうなったときに適応できるのが人間の「思考力」です。

 

この、人間の持つ素晴らしい「考える」は、鍛えないとどんどん性能が落ちます。

だからこそ、物事を考える時には、極力単純化しないで、

「なぜ」を繰り返すべきだと思います。

 
思考力は、鍛えないと、伸びないです。