スペイン革のブーツ | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

ボブ・ディランの「スペイン革のブーツ」と太田裕美の「木綿のハンカチーフ」の歌詞の驚くべき相似形については、あちこちで細々と語られているので、ここではあえて書かない。二つの歌詞を並べて読めば、誰もが同じ感想を持つはずだ。

 

ただ、ボクはこう思うんだ。才能溢れる若者だった当時の松本隆には、「盗作」の意図などさらさら無く、アイドル歌手に「暗号化されたボブ・ディランを歌わせたい」という、半ば「倒錯」した遊び心が、この詞を書かせたのではないかって。例えば、アグネス・チャンの「ポケットいっぱいの秘密」に仕掛けた「秘密」のキーワードのように。

 

そして、こうも思う。松本隆は、この歌がここまで大ヒットするとは思っていなかった。ましてや、この詞が、自分の代表作として後世に残るとは夢にも思わなかった。咲いては散り、散った後には何も残らない不毛な歌謡界に、人知れずボブ・ディランの種を蒔き、ひっそりと咲き、散っていく様を、自分一人だけで鑑賞したかったのだ。巨大な歌謡界に小さな爆弾を投げ込むような、そんな刹那的な、そして一寸歪んだ遊び心で。

 

そう、
彼は、一方で、反抗的なロック・ミュージシャンでもあったのだ。

 

今の彼は、この詞とボブ・ディランとの関係について語っているのだろうか?
それとも、すべてを自分の創作にしてしまっているのだろうか?
彼が今もロック・ミュージシャンであるかどうかの分水嶺は、そこにある気がするが、結論はすっかり見えている気がするので、ここでやめておく。

 

Bob Dylan/Boots of Spanish Leather (1964年作)
1964年発表の3rdアルバム「The Times They Are A-Changin'」収録。
「いいえ、恋人よ、送ってほしいものはない/何も欲しいものはない/ ただ汚されずに帰ってきてくれ/寂しい海の向こうから」と、 恋人スーズ・ロトロとの別れを歌う。