『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー㊸ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー㊸ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

Ⅴ 人形だって恋くらいするさ

 

 

 陽が昇ってから、メメとミミとリュシエルの三名は、南へ向けて歩きはじめました。
 メメはこの一団のリーダーであるかのように胸を張って先頭を歩いていましたが、落ち着きがなく、ぐんぐん先までひとり離れて行ったかと思えば、ミミとリュシエルが待っているのにも構わず何かのきれいな花にじっと見蕩れて道端に蹲踞み込んだりしていました。
「まあ、今日生まれたばかりみたいなものだから、仕方ないね」
「見るものすべてが珍しいのよ」
 路傍で犬のように一生懸命花の匂いを嗅いでいるメメを待ちながら、ミミとリュシエルはそんなことを話し合ったりしました。
 そんなわけで旅路はいっこうに捗りませんでしたけれど、そうこうするうちにも一行は森の木々を抜け、午前中には遠くに赤レンガの三角の家がぽつりぽつりと見えはじめて来ました。
 リュシエルはほっとしました。朝から何も口にしていませんでした。自分もミミもお腹がぺこぺこなのでした(そして本人が云うには、メメもお腹が空いていました)。
 それは小さな村でした。家々にはそれぞれ家の大きさの三倍近い長さの煙突がついていて、モクモクと白い煤煙を空高く吐き出しています。
 しかしどの家々も固く扉を閉ざしていて、リュシエルたちが順々に戸口を叩いて回っても、容易に家人が出て来る気配がないのでした。かと云って、まったくの留守というわけでもないらしく、それは煙突から煙が出ていることや、時々窓の向こうに人影が動いていることからも窺えるのでした。
 リュシエルは何となく、扉の除き穴から自分たちの行動が監視されているような気がしてなりませんでした。
「この村はいったいどうなっているんだろう?」
 さてこれは困ったことになったぞと焦りはじめた頃、ある赤レンガの家の戸口から、痩せた銀髪の男性が三人の方を窺うようにして見ていました。
「何か御用で?」と銀髪の男性は云いました。
 リュシエルはもう二日間野宿をしていて、困っている、何処かに一泊させてくれる宿を探していることを銀髪の男性に伝えました。
 銀髪の男性はリュシエル達三人の様子を上から下まで眺めていましたが、やがて危険がないようだと判断したのか、「何もないが、良ければお入りなさい」と云ってくれました。
 銀髪の男性の後について三人は家の中に這入って行きました。戸口に近い、三人がやっとぎりぎり並んで眠れるくらいの、小さな部屋に案内されました。
 痩せた銀髪の男性は、太っちょの女性とふたり暮らしでした。
 たいしたもてなしは出来ないけれど、此処には好きなだけいても構わないよ、とふたりは云ってくれました。
 北方総督府の代理官殿が替わってからは、この村もおかしくなってしまった、と銀髪の男性は云いました。マフィアまがいの怪しい連中が麻薬を売買するためにうろうろするようになったし、略奪や殺人が頻繁に発生するようになって、昼間でも外をおちおち出歩けないようになってしまった。総督府に犯罪の取り締まりを求めても、碌に取り合ってもらえない。代理官殿が犯罪集団から賄賂をもらっているという噂もある……別にあなたがたを嫌がって家の戸を開けなかったわけではないから、どうか気を悪くしないで、と銀髪の男性は云いました。
 ミミたちは、ジョーという男にもらったコインを宿代として銀髪の男性に手渡しました。
 太っちょの奥さんが、暖かいパンやスープ、野菜などを持って来てくれました。
 太っちょの奥さんがこれから何処へ行く予定か訊ねてきました。 リュシエルは南の方で住むのに適した場所を探していますと答えると、太っちょの奥さんは、「この先でよく総督府の連中が検問をしてるから、気をつけな。行方不明のリュシエル王子を捜すことが目的らしいけれど、通行人に何かと因縁を吹っかけてくるらしいから」と教えてくれました。
 リュシエルが礼を云うと、太っちょの奥さんは部屋から出て行きました。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

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