果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー㉘ー
にゃんく
その夜、ベッドでふたりは横になりました。
ふたりとも、しばらく無言でした。何となく、音を立てるのも憚られて、リュシエルは身じろぎひとつしないで、固まっていました。
あまりに静かなので、もうリーベリが眠りに入ってしまったのかと思った頃、「はあ」と云う溜息をついて、リーベリが寝返りを打ちました。そっとリュシエルが横を向くと、リーベリと視線が合いました。慌ててリュシエルは視線を天井に向けました。
リーベリの手がリュシエルの右手を握りました。いつまでもリーベリはリュシエルの手を離しませんでした。リュシエルは胸がざわついて、どうにも眠れそうになさそうでした。リーベリの方に視線を注ぐと、彼女は目を瞑っていました。寝ているのだろうか? リュシエルは手を伸ばしました。
リーベリは、陶器のように滑らかな肌を持っていました。首筋に顔を近付けると、甘い香りがしました。そうせずにはいられなくなり、彼女の肌に、唇を這わせました。彼女は吃驚して目を開きました。
衣の下から手を入れて、リュシエルはリーベリの軀に触れました。しばらくすると、
「そんなこと、しなくていい」とリーベリが小声で囁きました。その言葉が、リュシエルの何かを突き動かしました。リュシエルはリーベリの口に自分の口を合わせました。
リュシエルは罪の意識を感じないわけにはいきませんでしたけれど、夢中になっていて、もう自分を止めることが出来ませんでした。闇と月が燦めいていました。新しい命の息吹と、素晴らしい肉体の充溢を感じました。繰り返される人類の醜い行いが、透けて見えるようでした。正しく愛しさえすれば、歓びが善も悪も洗い流してくれるような気がしました。
事が終わると、リュシエルとリーベリは手を繋いで、ベッドの上でしばらく蝋燭の光に照らされたベッドの屋根の裏側を見つめていました。
「ここはあたしたちだけの、宮殿なの」リーベリの声が聴こえてきました。「あなたが、王子様で、あたしが、お姫様」
リュシエルは、正体を見破られたかと思って気持ちが揺さぶられました。けれども、彼女が実際に正体を見破ったわけではなく、ただの願望としてその言葉を吐いたことが分かりました。
「ここでふたりでずっと幸せに暮らすの。お婆ちゃんと、お爺ちゃんになるまで、ずっと。いつまでも、あたしと一緒に、いてくれるよね?」
リュシエルは黙っていましたが、リーベリが真剣な表情で自分のことを見つめていることに気付いて、思わず頷きました。「ちょっとお手洗いに行って来る」
気まずくなって、リュシエルは部屋の外に出ました。
洞窟の入口に近いところで、何かが動く気配がしたような気がしましたが、リュシエルは気のせいだと思って、部屋の外に置いてある尿器の中に用を足しました。