果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー㉒ー
にゃんく
その日から目に見えてリューシーの体調は良くなっていきました。二、三日経つと、リーベリが仕事から帰って来ると、リューシーはベッドの上に腰掛けて彼女の帰りを待っているのでした。既にリーベリの魔法は必要ではなくなっていました。リューシーの食べる分が足りない時は、リーベリは自分の分をリューシーに分け与えました。
それにこれまでのところ、最も恐れていた事態は回避出来ていました。つまりケイにはリューシーの存在は知られていないようでした。ミミが部屋の中に這入って来た時、リーベリはミミにきつい云い方をしてしまったことを内心後悔していたのですが、ミミはリューシーの存在を両親には黙っていてくれているようでした。
肉付きが良くなるにつれて、リューシーは痩せ細った顔立ちから美しい容貌を取り戻していきました。長い睫毛はたおやかな乙女にも負けないほどでしたし、絹のような金色の髪は柔らかくて艶があり、うっとりするほどでした。
リーベリには、リューシーの全てが愛おしいのでした。
仕事が全部終わって、部屋に帰って来ると、リーベリは大好きなリューシーの傍にいることが出来ました。ふたりきりで話していると、余りにも夜の時間が短すぎるように思えることが、唯一残念なことでした。でもリーベリにとって、これほど幸せな日々はありませんでした。
リーベリはリューシーに、「お部屋の外には出ないでね。義母(ママ)に見つかると、ひどい騒ぎになると思うから」と話して聞かせました。
リューシーは今、眠っていました。リーベリには意味の分からない寝言をひとこと、ふたこと呟きました。
何の夢を見ているのかな?
ふとリューシーが身に付けているペンダントが目に入りました。
ペンダントの先についている丸い、透明な石がリューシーの布の服の外に出て鈍く光っています。石には龍の紋章が描かれていました。正確に云うと、それはただの龍ではありませんでした。龍が槍で串刺しにされている様子が描かれているのでした。
リーベリは雷に打たれたような気がして、ベッドの下に置かれているリューシーの剣を手に取ってみました。ずしりと重く、鞘に散りばめられた金が眩く光っていました。
その鞘にはペンダントと同じ紋章が刻印されていました。夜目にはただの龍の図に見えたものが、よく見てみると龍を串刺しにしている図柄なのでした。
どうして今まで気付かなかったのでしょう? その紋章は王家の家紋だったからです。つまりそれを身に付けているということは、リューシーはこの国を治める王の一族に名を連ねる人かもしれないのでした。
リーベリは無邪気に寝言を呟くリューシーを飽きることなく眺めていました。
今やリューシーの身体が恢復していくのを見て、素直に喜べない自分がいました。
この人は、元気に歩き回れるようになっても、自分の傍にいてくれるだろうか?
戸口の扉がガタガタ揺れる音がしています。明り取りの外には唸りを立てるほどの強い風が吹いていました。