『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー⑤ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー⑤ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 最後のお別れとなる日、五歳の妹の手をひいたミーシャは目に涙を浮かべていました。足の悪い母親以外、六人のきょうだいたちは、家の外に出てリーベリのお見送りをしました。
「リーベリのこと、ぼく忘れないよ。またいつでも会いに来てね。困ったことがあったら、きっと力になるから」
 ミーシャは云いました。
 身を切るような冷たい風が吹き抜けて行きました。そろそろ冬が本格的にはじまろうとしていました。
 二度と会えなくなるわけではないはずなのに、リーベリにはどういうわけかもう永久にミーシャと会えなくなるような気がして仕方がないのでした。
「あたしも、ミーシャのこと忘れないわ。さよなら。また会いに来るわ。きっとよ」
 ミーシャとその弟妹たちはリーベリの姿が見えなくなるまで手を振って見送っていました。リーベリは三歩歩くごとに振り向いて手を振り返しました。
 遠くの梢の方から鳥たちの悲しげに鳴く声が聞こえてきました。まるでリーベリとミーシャが引き裂かれるのを嘆いているかのようでした。
 しばらくすると、リーベリは隣町の伯爵家で小間使いとして働くことになりました。そこはN宅とは似ても似つかぬ家庭でした。主人の伯爵は四六時中気難しい顔をしていますし、伯爵の奥さんはリーベリの仕事振りに鶏のような騒々しさで口出しをしてきます。十四歳のリーベリは大人として仕事の成果を求められました。大きなお邸(やしき)の何から何までを自分ひとりでこなさなければなりませんでした。もちろんそこにはミーシャもいません。さらに、へとへとになって家に帰っても、リーベリにはまだ山のような仕事が待っていました。そんな毎日が蜿蜒といつ終わるともなく続いていったのです。
 リーベリはミーシャの家を訪れることも出来ませんでした。ケイがそうすることを禁止したからです。
「お前は私に隠れてあの家で何をしているの? あそこの不良息子とくっついて、いいことは何も起こらないわ。パパからも厳しく云って頂戴。二度とあの家とあの不良息子に近付かないって約束なさい。さもなければ、あなたはこの家から出て、何処へなりと行くがいい」
 食卓に家族四人で腰掛けていました。アイドリはケイの云うことを傍で聞いている筈なのに、まるで何も聞こえないかのように沈黙していました。いつもリーベリはアイドリを見ると何故ケイと再婚したのかよく分からなくなりました。まるでアイドリはケイのことを愛していないのに仕方なく結婚してしまったように見えるのでした。
 リーベリはケイにそう云われて、いっそこの家から出て行きたいくらいでした。でもそうすると、これから先どうやって生活していけばいいのでしょう? 寝る場所もありませんし、食べる物もすべて自分で何とかしなくてはならないのです。ミーシャを頼っていこうかしら? そうも思いましたけれど、そんなことをすればミーシャが迷惑することになります。所詮、リーベリはまだ子供でした。ひとりで生きていけるほど魔法の実力にも自信があるわけではありません。大人たちがどんなに理不尽でもリーベリは自分の力だけでは何ひとつ自立出来ないのでした。早く大人になりたいな。リーベリは元は物置部屋だった自分の部屋の明り取りから見える暗闇を見上げて思いました。大人になりさえすれば、何から何まで自由なのに。
 この部屋は去年リーベリにあてがわれたもので、物置部屋の名残で、バケツやらモップやら箒やらロウソクやトイレのペーパーやら雑巾などがうずたかく部屋の隅に積み重ねられていました。窮屈な部屋でしたが、此処は唯一リーベリがひとりになれる安息の場所なのでした。
 その部屋から幾星霜もの星の輝きが見えました。その光が部屋の中に降り注いで来ては小さく弾けて消えていきました。

 

 

 

 

 

 

ー⑥ーにつづく

 

 

 

 

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