writer/にゃんく
STORY
在日韓国人の少女ジニが主人公の物語。
ジニは小学生のあいだは、日本の学校に通っていましたが、中学になってから、日本にある朝鮮人の学校に通うようになります。
同じ在日韓国人・朝鮮人ですが、韓国語を話せないジニは、周囲のクラスメートになじめません。
しかし、クラスメートもさまざまです。
嫌がらせをしてくる同級生の女子もいれば、友達になっていろいろ世話を焼いてくれるありがたい子もいます。はたまた、ピンチを助けてくれる(白馬の王子様的な)男の子が登場したりもします。
イジメにあったりもしますが、タフにそれを乗り越えていこうとするジニ。
けれど、1998年9月、北朝鮮が弾道ミサイルを日本海にむけて発射した翌日、ジニの人生が大きく変転します。
ジニはミサイルが発射された翌日、チマ・チョゴリ(朝鮮人の民族衣装)を着て、電車に乗り、登校します。
見るからに朝鮮人のジニは、いつもと違う満員電車の雰囲気のなかで、圧殺されそうになります。
車内でもみくちゃにされ、大切にしていたウォークマンが引きちぎられそうになります。
目的の駅で降りることができず、池袋までやって来てしまったジニは、一目散に服屋に入店し、服を買い、トイレでチマ・チョゴリを脱ぎます。
そして、ジニはゲームセンターに移動します。
それでもまだ、悪運はジニに襲いかかることをやめません。
ジニはゲームセンターで、日本の男たちに性的暴行を受けてしまいます。
ジニの通う朝鮮学校では、教室に北朝鮮の指導者である金親子の肖像画がかかげられています。肖像画は、学校でいちばん大切なものであるかのように、そこに飾られています。
ジニはゲームセンターで暴行を受けた日から、革命が必要だと考えるようになります。
やがてある日、金親子の肖像画を手にしたジニがとった行動は……。
REVIEW
作者は、崔実(チェシル)、1985年生まれ。
在日韓国人三世です。日本の小学校を卒業後、朝鮮語ができないまま朝鮮学校に進学し、その後アメリカに留学したそうです。
小説『ジニのパズル』では、語り手の、アメリカからの回想という形をとっています。 STORYでの要約は、ほぼ作者の実体験なのかもしれません。日本でのエピソードは、かなりリアルに描かれています。
『ジニのパズル』は、2016年、群像新人賞を受賞、崔実(チェシル)はこの作品でデビューします。 『ジニのパズル』はそのまま芥川賞の候補にもなっています。(受賞はしていません。)
『ジニのパズル』は、日本という異国でなじめない、朝鮮人の少女の物語です。
もちろん、『ジニのパズル』が問いかけているのは、それだけではありません。ジニは日本だけでなく、逃れるようにやって来たアメリカでも孤立しています。
マイノリティを主人公にし、世の中の常識のなかで殺されていく「個」に光をあてる手法は、まさに文学の伝統的な手法です。
独裁者や常識という名の悪に対抗できる手段は、むかし、文学しかありませんでした。(今は科学技術が発展したため、それこそ、ツイッターであるとか、いろいろと方法はあるかもしれません。)
それにしても、この作品は、映像作品にすれば、かなりの緊張感をもった作品になるのではないかと思います。何しろ、周りにいる人間たちが、すべて「敵」なのです。ものすごい世界です。そのなかで、少女はたった一人で立ち向かわなければならない。
さて、この作品を読まれた方はどう思われましたか?
執筆者紹介
にゃんく
うれしい時。悲しい時。食事をしている時。いつだって、口がちょんがっているにゃんころがり新聞の編集長です。
*「読書するにゃん五郎」は、小林。様に描いていただきました!