『ハッピー☆アイスクリーム』~「そんなわけないけど、あたし自分だけはずっと16だと思ってた」 | 『にゃんころがり新聞』

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writer/永森 椿

 

 

今回は、小説短編集『ハッピー☆アイスクリーム』(加藤 千恵/著)のレビューです。


 内容紹介


 友人との関係、将来への不安、どうしようもない恋心、ふとしたときに気がつく孤独――。
 高校生のリアルな感情を切り取った短編集です。
 著者のデビュー短歌集に青春小説5編を加えてリミックス。
 思春期特有の甘さや切なさを詰め込んだ短編小説を短歌が彩っています。


5つの短編集のうちの一つ、「また雨が降る」のあらすじをご紹介します。

 

STORY


好きな人は親友が好きで、その親友はまた別の人が好き。
 複雑な恋愛状況で自分の気持ちを言えずにいる主人公(名前の表記はありません。主人公は、女子高校生です。)
でもやっぱり伝えたい。好きな人に、振り向いてほしい。と主人公は思います。

 雨の日の放課後、ドーナツショップで雨宿りしていても、つい目で追ってしまいます。
 一緒に帰ろうと誘われると嬉しい。話があると言われて期待したりもしました。
けれどその話というのは、親友に彼氏ができたことでした。

 親友からそのことを一番に教えてもらえなかったことを、悲しく思う主人公でしたが、目の前にはもっと落ち込んでいる人がいました。
どんな言葉をかけたらいいのかもわからずに、ただ曖昧に別れる主人公と、その好きな人。
 静かに雨が降っている午後でした。(また雨が降る)

 

REVIEW


他の人から見たら、ありふれたようなことにでも、必死になって毎日苦しんでいる、という日常を丁寧に描いていて共感できました。
 物語自体はとてもスローテンポで進んでいき、どの短編も、小説世界の時間では二日以内という、わりと短い期間の話が書かれています。


そこが良いと思いました。
一日や二日という短い時間の中で、自分がどれだけのことを思っているかを確実に、詳細に描く点が気に入りました。
それから何日後といったって、その何日にも大事なことは起きているという当たり前のことを当たり前に書いただけなはずの作品なのに、何故だか胸をうたれました。


きっと、間に挟まれる短歌のせいだと思います。
なにしろ、絶妙なタイミングで挟まれてきます。
 短歌の前後で感情は変化し、まるで魔法にかかったみたいに自然に主人公の気持ちにさせられます。

 

 短歌の引用をしておきますね。

 

ありふれた歌詞が時々痛いほど胸を刺すのはなんでだろうね

 

左手が微妙な位置で浮いたままなにも言えずにくちづけをした

 

「つまんない」ばっか言ってた つまんなさ世界のせいにしてばっかいた

 


さらりと読めて、爽やかな気分になれる短編小説と素直な気持ちをうたった短歌のコラボレイションは、想像以上に面白かったです。
若い学生のうちに読んでおきたい作品であることはもちろんだと思いますが、大人が読んでも楽しめるのではないでしょうか。


 『ハッピー☆アイスクリーム』は、青春を詰め込んだ宝石箱のような作品です。
 私はそう感じました。

 

 

評価は5とさせていただきます。

 


 著者/加藤 千恵
 発行者/加藤 潤
 発行所/株式会社 集英社
 初版/2011年12月20日

 

 

 

writer/永森 椿

 

 

 

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