『リレキショ』中村航・・・76点
不思議な感触の読み物だった。
<あらすじ>
僕こと半沢良は僕が作り出した名前。
僕は学歴や職業、家族構成やらを自分好みに書き換えた履歴書を作成する。
姉も本物の姉ではなく弟が欲しかった姉に僕は拾われたのである。
僕はそんな「姉」と二人暮らし。
僕は自分が作り出した「半沢良」なる人間の履歴書をガソリンスタンドのアルバイト採用係に持ち込み採用され、アルバイトをする日々。
ある日、仕事中に原付のガソリンを入れに来たフルフェイスのヘルメットをかぶっている女の子からラブレターをもらう。
顔は分からないその女の子とやがて僕はデートをする。
全体的に淡い印象の作品です。
自分好みの属性を作り出して、そのキャラが勝手に動き出す話というと戯曲の『ワンマンショー』を思い出しました。
フルフェイスの女の子がガソリンスタンドのアルバイトの男にラブレターを持ってくるというのは現実にはありそうにないですね。
主人公はこうあればいいという自分を勝手に作り出します。
ここで描かれる物語は夢の中の空間と法則が似ています。
夢の中ではよくありそうもないような、自分が起こってほしい出来事が起こりますし、自分自身がこうありたいと願っている自分に変身することがよくあります。
不思議な感触を与えるというのは、今までにない新しいことをやっているからで、それは良いことなんだと思います。
ただし、夢のような話ですから、淡く重みはないですね。現実感は希薄です。
今風のライトな小説というところでしょうか。
文学作品も東日本大震災以前以後に分けられるだろうと思います。
ライトな小説は東日本大震災以前であれば多少真新しく映ったかもしれませんが、大震災のあの現実を前にしてはどうなんでしょうか。
放射能が漏れて、まだ死体がごろごろ転がっている地域もあるという現実の中で、ライトな小説というのがいったいどれほどの力があるでしょうか。
文学者で東日本大震災に言及したり、何らかのアクションを起こしている人はいるのでしょうか?
今のところ、私はあまり聞かないですね。
それだけ昔と違って今の小説家の発言力やモチベーションが下がっている証だと思います。
三島由紀夫が生きてたら、何らかのメッセージくらいは発信しているだろうと思います。
石原慎太郎は、小説家というより、政治家の立場で行動しています。
小説家は絵空事ばかり書いていてはすぐ見捨てられると思います。
しょせん絵空事と分かっていても、その中に現実を超えるようなドキドキするような物を書かないと。
また小難しいことを言ってしまいました。