勉強ノート  奥の細道を辿る(5)芦野 那須 | 中島幼八

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中国残留孤児が辿る

 

  奥の細道紀行(5) 

          芦野 那須

 

「又清水流るるの柳は、芦野の里にありて、田の畔に残る。此所の郡守戸部某の、此柳見せばやなど、折おりにの給ひきこえ給ふを、いづくのほどにやと、思ひしを、けふこの柳のかげにこそ立寄侍つれ。」

 

      田一枚植て立去る柳かな

 

郡守戸部某というのは芦野の領主芦野資俊である。芭蕉の門人で俳号が桃酔という。「是非機会を作ってここの柳をご覧ください」と度々薦めてくれた。じつは、深川の芭蕉庵もこの芦野資俊の所有であった。大関藩の城代家老とも深いつながりを持ち、みな蕉門に入門しているので、芭蕉はこの黒羽・那須一帯にのんびりくつろぐことができた。

 

芭蕉のこの旅の目的に歌垣を訪ねるという主眼であった。本によると、歌垣というのは、上方では室内の装飾用屏風絵に歌を書いたのが先で、それが名所のイメージを作り、後に歌垣の場所ができるようになった。そういうことで、この遊行柳という歌垣の場所も何回か変わったようだ。

 

  道の辺に清水流るる柳陰しばしとてこそ立ちどまりつれ

 

これは平安時代の歌人西行の歌である。

芭蕉はわざわざこの遊行柳を尋ねて、しばし西行の歌を思い浮かび、その声が聞こえるような境地に浸り、清水が流るる静かな音から目が覚めたようなときに、田んぼで田植えをしていた作業がすでに一枚を終えたのである。さてさて、やおらに腰を上げた芭蕉は次へ目指した。

ここでこんな風に書いている私であるが、当初なかなか内容がよく飲み込めなかったのである。

 

私はここを尋ねたのは秋の盛りの時であった。この一帯を辿るときは、たいてい那須温泉に泊まり、躰がふやけるほど白濁のいで湯に浸かった後であった。翌日JRの高久駅から重い足を運んで行く。場所の所在がわからないまま、スマホでグーグルの地図を頼りに、車の行き交う道をてくてくひたすらと歩いた。どこまでも広がる田んぼの稲が穂を出してたわわに実る脇を歩く足取りはだんだんしっかりしてくる。田舎の道を歩く人の姿が全くないなかで、この人は一体どこへ行こうとしているのか奇異に思われたかも知れない。やっと奥州街道に出たところで、遠い向こうに田んぼのなかに木々の緑が固まっている小島が浮かんでいるような風景が見えてきた。あれがそうだろうと見当をつけて、いくらかほっとした。

街道から農道のような渡道を入っていく。ほどなく遊行柳のなかに立つ。歌垣の経験がなく、すべて新鮮な思いがする。周りの水田から匂いが立ちこめられた空気が流れるなか、狭い孤島の縁に沿って柳の細い枝が微風の中で静かに揺らぐ、あっちこっちに立っている句碑の石に苔が生え、さらに先へ伸びている雑草に覆われた農道の向こうに祠の小さい鳥居が見える。かすかに聞こえる水の流るる音を耳にしながら、私はこの里を離れた。

 

次に尋ねる場所は白河の関である。当時蝦夷地の三大関所はこの白河の関のほか、常陸の勿来関と羽前の鼠ケ関がある。

ここへはバスで移動した。本来の関所のイメージと全然違い、広々と開けたところに、白河の関の大きな石柱がでんと構えている。その前に立っていると周りから涼しい秋風が吹いてくる。

 

平安時代の武将で、かの鵺(ぬえ)退治で有名な源頼政の歌がある。

 

   都にはまだ青葉にて見しかども紅葉散りしく白河の関  

 

芭蕉は「奥の細道」でこれをイメージしながら「秋かぜを耳に残し、もみぢを俤にして、青葉の梢猶あはれ也。」と書いた。

 

また、源頼朝が奥州へ藤原攻めの途上ここを通るときに、梶原景季に歌を命じるが、次のような頼朝を持ち上げるような歌ができた。

 

   秋風に草木の露をば払わせて、君が越ゆれば関守も無し

 

白河の関はやはり秋のシーズンがいい。私が訪れたのは秋でもやや早い初秋であった。

 

 

 

         (次回は(6)章 須賀川へ)

 

 

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