中国残留孤児が語る
粟裕将軍の非凡な生涯(16)
淮海戦役第二段階
毛沢東選集第四巻によると、淮海戦役第二段階は1948年11月23日〜12月15日とある。場所は双堆集地区。
写真の上は中原野戦軍(略中野)の司令員劉伯承と政治委員鄧小平。下は左が華東野戦軍(略華野)司令員陳毅と右は司令員代理粟裕。この第二段階は中野は黃維兵団を殲滅する主戦場を担当する。華野は打援・阻援を担当する。今回は中原と華東の両野戦軍が共同作戦で黃維兵団を殲滅する体制を組んだ。
具体的な進行状況は地図に示されたとおりであるが、わかりにくいかも知れない。右下の双堆集殲滅戦と書いてあるのは黃維兵団が包囲された状況だ。その部分は全体図の真ん中に位置し、両野戦軍の各縦隊に包囲されている。上の部分は打援・阻援の華野が陳官庄で杜聿明の兵団を包囲し、下の南で李弥兵団を阻止している様子。
最初から殲滅対象に定められた黃維(1904〜89)は黄埔軍官学校1期生、蒋介石の最大の子分。彼を助けるために蒋介石はいくつも精鋭部隊をつぎ込んだが、結局自分の足下の総崩れを招いた結果になった。
この双堆集に包囲された黃維は援軍を待てどもなかなか来ない。12月17日に麾下の廖運周(右)は自分の5500人を引率して包囲突破のため、あえて突撃軍の先陣に立つと申し出る。黃維はうれしかったそうだ。それに第二陣、第三陣と後続するが30km進んだ地点で第一陣の廖運周は抜けた。逆に第二陣以降の部隊が中原野戦軍に包囲されてしまった。実は廖運周は長年の共産党の秘密党員で事前に密に鄧小平と打ち合わせて蜂起を決めていた。黃維はまんまとだまされていたのである。
開戦の途中、土木系18師団の胡璉が空路で駆けつけた。これが最大の援軍になる。国民党軍の土木系というと陳誠の直系、十一軍団の十一師団という。この数字を漢字に組み立てると土・木となる。かれが駆けつけて黄埔軍官学校同窓生の黃維を助けるつもりだが、最後は前線総崩れになったとき、我先にジープに乗って逃走してしまった。後に台湾の蒋介石の下に戻って金門の支配を任せられる。1949年10月解放軍がその苦杯を喫すことになる。この双堆集戦場で這々の体で逃げ切ったが、彼は「土木不及一粟」の一語を残している。土木系とはいえ、粟裕の一人にも及ばずと結論付けした。
ところで、包囲された黃維も死に物狂いで抵抗し、攻める野戦軍は一進一退で進んだかと思うと黃維の砲火に圧倒される。しまいに黃維は800台のトラックを一列に並べ(下の写真)、防衛を強化した。しばらく前の碾庄戦と同じく膠着状態が続く。
一方、援軍対応で粟裕が指揮する華東野戦軍は南から来た孫元良兵団を殲滅したが、双堆集から50km離れた陳官庄に杜聿明の包囲作戦に取りかかっていた。ある日、中原野戦軍と一緒に行動していた陳毅から粟裕に電話がかかった。碾庄戦でどういう方法を取ったかと聞いてきた。壕を掘ったと答えたら、わかったと、中原野戦軍はただちに黃維の陣地に接近する掩体用の壕を掘り始めた。それでついに12月15日、黃維兵団は全滅。黃維自身は捕虜になった(写真左上)。
そして、人民共和国になってから、黃維も自由の身になり、大陸で家族とともに団らんして幸せな晩年を送ることができた。政治協商会議の重職にも就いていた。
後日談がある。廖運周が入院中の黃維を見舞いに行ったとき、「君は若い頃から共産党に入党していたのか」と聞かれたそうで、「いや、お互いに見解が違うだけですよ」と答え、多くを語らなかったとか。
一方で、粟裕はこの第二段階を振り返るときに、自分は長い軍隊生活のなかで一番つらいと思ったのが二度あった。このときは7昼夜も寝ず休まず、メニエル病で苦しんだと言った。
敵の援軍対応でしくじったら、主戦場に迷惑を掛けるので、神経の休む暇がなかったようだ。しかも、杜聿明を陳官庄に包囲するだけでも大変だったが、そのことは第三段階で語ることにする。
次回(17)へ続く
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