なぁ、セバスチャン。
世の中から英語がなくなれば、どんなに気分がスッキリとするものかなぁ。
----- これはこれは旦那さま。旦那さまが英語嫌いだってことは、セバスチャンはよぉく存じ上げておりますけどね。いったい、いきなりどうしたんでございますか?
いや、ただね。やっぱり英語は苦手だなって感情が沸々とわき上がってきたんだよ。この苦手って言うのは、嫌いって意味なんだけどね。
----- またでございますか。旦那さまは、タイでお仕事をされた時に何語を使われたのですか? 英語でございましょ? 旦那さまのタイ語のレベルではお仕事はできますまい。それに、旦那さまはヨーロッパの国々をまわられた時、何語で旅行をされたのですか? 英語でございましょ? 英語を使わずに旅行をするとお決めになったとたんに、チェコ語や、ハンガリー語や、ブルガリア語を習得しなくてはならなかったのでございましょ?
わたくしだって英語は苦手でございますが、この苦手というのは下手だという意味でございますが、スペイン語も日本語も通じないところを旅するときは、英語を使って旅行するのでございますよ。
まぁな。相手が英語を理解してくれることで助かったことは多かったよ。英語がなかったら、ジェスチャーと、表情と、テレパシーでコミュニケートするしかなかったからな。
----- そうでございましょう? ならば「英語が嫌い、英語が嫌い」っていつまでもおっしゃるのはおやめになったらいかがでございましょう。まるで駄々っ子のようでございます。
たしかに英語の便利さは分かってるさ、セバスチャン。日本の学校で教えられる外国語がパピアメント語やケチュア語じゃなくて英語でよかったって、旅行中ずっとそう思ってたさ。でもやっぱり、ボクは英語が嫌いなんだよ。
----- 旦那さまは、なんとかたくななんでございましょう。いったいどうしてそんなに英語がお嫌いなんでございましょう。
そうだなぁ。なんでかと言われると、ちゃんと説明したことはなかったな。
*****
つまりセバスチャン。英語が話せる人がダメだとか、英語が好きな人がダメだとか、そんな風には思ってないのさ。もちろん、英語が母国語の人がダメだなんて、思ってないよ。当然だけどね。
でもさ、英語が出来ないとダメだ、なにか人間として努力が足りないんじゃないか、って言う風潮はどうしたもんだろうね。
それにさぁ、自分の国の言葉で上手にコミュニケートできるだけでは仕事をするには不十分だ、そんな社会は作っちゃいけないってね。
----- おやおや。旦那さま、ずいぶんとお語りになりますな。
しまった。つい熱くなってしまったよ。
----- 旦那さまは、英語に対してなにか偏見をお持ちですな。いや、偏見ではなくコンプレックスでございましょうか。
セバスチャン、悪いけどボクはコンプレックスなんて持ってないぞ。そりゃ英語は下手だけど、英語が下手だからって劣等感を抱いてしまうのは良くない。そんな必要はないんじゃないか。日本の風潮はむしろ、英語ができない者は劣等感を抱くべきである、そんな感じになってる。それを嫌っているのさ。
----- コンプレックスと言うのは、劣等感のことではないのでございます。なにかある事柄に対して、本来は無関係な感情がくっついてしまってる心のことなのでございますよ。セバスチャンには、旦那さまは特段の理由もないのに、英語に対して反発が強すぎるように思えるのでございますよ。
心の中では、英語が好きで好きでしかたがない人の事を変態視しているワケでございましょ?
セバスチャンは痛いところを突いてくるな。でも「変態」って言葉はきつ過ぎるよ。それじゃぁなんか「植民地根性」だって言っているかのように聞こえるではないか。え? そんな事は言ってない? ボクの偏見かい?
昔、英会話教室の広告で「英語を話せると10億人と話せる」ってコピーがあったけど、英語を話せても10億人とは話せないだろ。毎日100人と話したって、2万7千年以上もかかるんだぞ。
----- 旦那さま、分かってボケていらっしゃいるのでございますか? それはいささか、ひねくれた意見でございますよ。やはりコンプレックスでございましょうかね。10億人と実際に話をできるってことではなくて、10億人と話せる可能性があるってことでございましょう。
ちっ! セバスチャンはつまらん男だ。
ボクなんて友達って言える人が10人も居ないんだぞ。それだって毎日だれかとコミュニケートして、そして生活してるじゃないか。しかも母国語である日本語で。
以前、なんとかファミリークラブってのに参加してる人と話をしたことがあったんだけどね。彼はそのクラブに入っていることがとっても自慢でね。7カ国語を話せるって言っていたよ。
----- それはすごいことでございますな。
だろ? そう思うだろ? いやボクは、セバスチャンが実に上手に日本語を扱うことをいつも感心しているんだが、セバスチャンの話す日本語くらい彼が7カ国語を扱ったら、それはすごい。
----- まぁ、私の日本語は置いておいて、そうでございますな。
ところが彼の話す7カ国語ってのは、「こんにちは」「ありがとう」「いくらですか」「頭がいたいです」「トイレはどこですか」みたいなことばっかりでね…… そんな程度で「話せる」って言えるんだったら、ボクは30カ国語を話せるさ。
----- おやまぁ。30カ国語ですか。ご立派ですな、旦那さまは。
そこで褒めるなよ。ウソなんだから。
つまり、なんかそういう偽物臭さを漂わせた人間が、英語の周りにはやたら居るって気がするんだ。英語教材の宣伝なんていつもそうじゃないか。聞いてるだけで話せるようになるだとか、1日10分だけだとか。
学生の頃の事だけど、いきなり明るい感じのお姉さんが電話をかけてくるのさ。大学の近くの喫茶店でお話しがしたいってね。そうやってろくでもない英語教材を買わされた友人が何人かいたよ。
前も言ったことだけど、誤解されるといけないからまた言うけどさ、英語を話せる人がいけないんじゃなくて、英語好きがいけないんじゃなくて、ましてやネイティブのことを否定しているワケじゃないんだ。つまり英語の周りには…… つまりその、変態が多い。
----- あはは。やはり旦那さまは「変態」っておっしゃった。それならば旦那さまの貧乳好きもかなり変態かと。
なにを言うんだ、セバスチャン。論点をすり替えるなよ。そりゃセバスチャンの国の女は胸がでかいだろうよ。お前、日本女性をバカにしてるな?
----- とんでもございません。
つまりな。仮にボクが貧乳好きだとしても、いや事実そうでなくもないのだが、それを理由に自分が人より優れた人間だなんて思うことは無いワケだよ。
----- それはそうでございましょう。貧乳好きは才能でも努力でもございませんからな。
だれも彼もが貧乳好きであるべきだ。貧乳こそがグローバルスタンダードた。我が社はこれから社内すべて貧乳にする、なんて考えは持たないワケだよ。
----- それはそうでございましょう。胸の豊かな女性に対する差別になってしまいます。
いちいちコメントするなよ、セバスチャン。人の好みはそれぞれだろ? つまりだな……
*****
いやはや。
長くて要領を得なくて、すんません。
ボクの英語嫌いについて、セバスチャンとの対話を始めたのはもう3ヶ月くらい前だったんだ。
でもどこをどう説明したら、どうして英語嫌いなのかを上手くすっきりと説明できるのかがよく分からない。
だからセバスチャンとの対話は長く長くなって、それに反して説明できた感は薄れに薄れ、やっぱり記事にするのはやめちゃおうって思ってたんだよね。
でも最近TVコマーシャルで、言い訳ばかりして英会話の勉強をしないのは負け犬だ的な、聞き流すだけで英語が口をついて出てくる的な、そんなのがよく流れているんだな。その度にイライラがどうしても収まらない。
ボクの通った小学校は4年生から英語の授業があった。今では子供のころから英語を勉強させるのは当たり前ってムードなのかも知れないけれど、ボクが小学生の頃はそうでもなかった。
でもその英語の授業は、子供に英語の聞き取り能力を与えるものでも、英語で表現することができるようにするためのものでもなくて、我が校では英語教育に力を入れていますって校外にアピールするためのものだったんだ。
だから、物語を英語で暗記させられた。ボクはひたすらカタカナでノートにメモして、それを覚えた。こうして一番それっぽく発音出来る子が選ばれて、小学生英語スピーチコンテストなんかに送り込まれていたってワケ。
悔しいことに、何十年も前のそのカタカナ英語を今でも覚えている。たとえ昨夜の夕ご飯に何を食べたのかは忘れてもね。
ザ ライアン アン ザ ラット
ワンデー ア ラット ウォーク ビトイーン ア ライアンズ ポーズ……
「ライオンとネズミ」イソップ物語だよ。
----- 旦那さま。お小さい時の苦労がお有りだったんでございますね。一種のトラウマでございましょうか。きっとそれが、旦那さまが英語に対してコンプレックスを持つきっかけになったのでございますな。
あ、そっか。
つまりボクは他人より3年間余計にコンプレックスを植え付けられたんだな。
やっぱり、セバスチャンの言う通り。
←click me!