バンコクを初めて訪ねた時、仕事先相手の会社が気を使ってくれて、週末にタイの古都アユタヤ観光をアレンジしてくれました。
若手建築設計者の青年と秘書の女性がボクに付き合ってくれたので、アユタヤの寺院でタイ人に混じってタイ式のお祈りをしたり、僧侶に学業成就のお守りを選んでもらったりとけっこう楽しく観光し、帰路はチャオプラヤ川を船でバンコクまで下ることになりました。2時間くらいの船旅だったかなぁ。
小学生の時、バンコクを流れる川はメナム川だって教えられていたんだよ。でも、ここではチャオプラヤ川って言うんだね。との問いに彼らは、メナムっいうのはタイ語で「川」って言う意味なんだと教えてくれました。
なので、チャオプラヤ川のタイ語での正式な名前は、メナム・チャオプラヤということになります。
メナムはタイ語ではแม่น้ำ 。文字通りには、「水(น้ำ)の母(แม่)」という意味です。
*****
ボクは、三好達治の詩の一節を思い出します。
『海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。』
漢字の海の中には、母が隠れているし、フランス語で「母」はmère(メール)、「海」はmer(メール)ですね。
日本でも「母」と「海」は、人々を大きく包み込むイメージで共通していますが、アジアを流れる大河の近くで生活している人々にとっては、川に母のイメージを抱くのもわかるような気がするな。
水(น้ำ)という言葉にもタイ語では特別なニュアンスがあるみたいで、心の水(น้ำใจ)とは、「やさしさ」とか「思いやり」の意味になるんですよね。発音は「ナムチャイ」。
年中暑いバンコクでも、チャオプラヤ川を行き来する船に乗っていると風がとても心地よく、こんなことを考えながら、バンコクの人たちのチャオプラヤ川に抱く思いに少し近づいたような気がしました。
