2024.3.1 脇園彩 メゾ・ソプラノリサイタル | たっぴーのムジカしくない日記 "Incominciate!!"

たっぴーのムジカしくない日記 "Incominciate!!"

主にオペラの感想等を亡備録として書き連ねていこうかなと思ってます。
その時感じたことをそのまま書くようにしてますので、文筆がおかしいことは多々ありますが、良ければご覧下さい。

どのようなものにも、語り草と言われるものがある。例えばオペラで言うと、「イタリア歌劇団で来日したデル・モナコやベルゴンツィ、コッソットにシミオナートが歌ったあのオペラのあのシーンがこんなふうに凄くてね」といった具合いに、長くオペラファンの中で語り継がれているものになるのであろう。

私は今日それを体験してしまったようです。

本日紀尾井ホールで行われた、脇園彩さんのメゾソプラノリサイタルがそれにあたる。少なくとも私は語り継ぎたいと思っている。なんと素晴らしかったことか!!


今日は1階席の最前列のほぼセンターあたりのチケットを取りまして、目の前で脇園さんを、ピアノのミケーレさんをダイレクトに感じながら観賞しました。


脇園さんの声の調子は万全でとても安定しており、リサイタルあるあるの前半危なっかしいようなところは微塵もありませんでした。さすがでした。瑞々しい高音に、活力のみなぎる中声域、きれいに粒の揃ったアジリタを聴くと、脇園さんは実はロッシーニが創造したのではないかと思うほどの相性の良さ。そして、例えば内容がしっかりと分かっていなくても心をしっかりと掴んでくる表現力はまさに1人オペラといった感じで、曲ごとにそのシーンが見えてくるかのよう。そしてステージマナーの良さ。どれをとっても一流でした。
それに呼応するように伴奏を務めたミケーレ・デリーアも素晴らしかった。己がグイグイ主張をするタイプではない様に感じましたが、脇園さんの力を120%出し切れるようにサポートする寄り添う伴奏が良かったです。呼吸をするようにピアノの音を出していて、音にまとまりがあり、それぞれが非常に優しいんですね。先日聴いたばかりのジュリオ・ザッパとは全く違っていてそれも興味深く面白かったです。テノール相手とメゾソプラノ相手でそもそものアプローチも違うだろうし、曲自体が違うので一概に比較もできないけれど。

曲はこんな感じ。
オール巨人。そうそう、俺の弟子やったらな…もうパンパンやで…じゃねーよ。そろそろボケたくなってきたから一発いっちゃったわよ。オールロッシーニなんですよ。
で、分かります?このやばさ。
え?分からない?あなたね、よく見なさいよ。『セヴィリアの理髪師』も『チェネレントラ』も『アルジェのイタリア女』もないんですよ。セリアと歌曲で構成されてるんです今回のプログラム。ロッシーニのオペラで『湖上の美人』、『イングランドの女王エリザベッタ』、『ビアンカとファッリエーロ』、『オテロ』、『マホメット2世』…よく成り立ったな!!(笑)
いいね!!お客さんに媚びてない!!好きよあたしは!!!脇園さんが「今のあたしに最適かつロッシーニのセリアの素晴らしい曲達を選んだから、それを聴いて頂戴!!絶対に気に入ってもらえるわ!!」みたいな意気込みを感じます。このあたりはもはや大分妄想ですが。そういえば、1月に小堀さんと脇園さんとやったデュオリサイタルでも同様のことは感じたのを思い出しました。

で、これ脇園さんだったから可能だったかもです。プログラム作るのにあたって、流れの中でどこで盛り上げようとか、色々考えますけど、分かりやすく1部と2部の最後が難曲なんですね。で、曲的にも逃げられないんですよ。つまり、それらの曲で最高の成果を出さないと幕を下ろしづらい雰囲気で客席が満たされちゃうわけです。当然大拍手で終わったわけですが、やはり腕がないとやりきれないプログラムだったなぁと思います。「この曲脇園さん以外で歌える人いんのか?」くらいに思いながらもその完璧な仕上がりに畏怖の念すら感じでおりました。

演奏されたそれぞれの曲に関してはどれも誠に素晴らしく、非常に筆舌に尽くし難いものがありますが、私が好きだったのは、1部だとダントツは『イングランドの女王エリザベッタ』のアリア「私の心にどれだけ喜ばしいことか」ね。単純に凄かった(笑)もうそれで勘弁してねって感じ。だって凄かったんだもん。全曲聴きたい。こんなに歌える人世界でもいるのかしらと思うレベル。声をコントロールしてる感じじゃなくて音楽が勝手に溢れ出してる感じなんですよね。興奮したなぁ。歌曲では比較的有名な「約束」や「誘い」も良かったです。情景たっぷりにお届けしてくれました。

2部だと最後の『ビアンカとファッリエーロ』のアリア「お前は知らぬ、どんなにひどい打撃を」はやばかったね。これはもう度肝を抜かれるという感じで、めちゃめちゃ難しい曲なのに技術的にもハート的にも満足させてくれました。あんな後半の畳み掛けよく歌えるよ。マシンガンみたいだった。 もうほぼほぼいじめに近い歌手の追い込み方。しかしそんなことは気にも留めず、完璧なアジリタをガツーン決めてくれました。それと、いつも少し眠くなる『オテロ』の「柳の歌〜祈」も良かったなぁ。はっきりと申し上げます。全く眠くならなかったです(笑)むしろその表現力に引きずり込まれて魅了されました。切なくなったもの。ウルッとした。 そういう意味では『マホメット2世』のアリア「神よこの危険なさなかに」も良かった。こちらもウルッとしました。このアリア好きなんだよなぁ。
てかてかてか、正直全部良かったんですよね(笑)なんかねー、脇園さん、個別に用意していたものを披露するというより、今まさに目の前で紡がれていく言葉が歌となっていくような雰囲気もあって、こちらも安心してどっぷりとその世界に浸かって堪能させていただけました。

アンコールはこちら。
マジで燃えた!!!!!!
2部最後の『ビアンカとファッリエーロ』のアリアのあとに1度袖にはけてから、すぐに出てきて、いきなり知名度抜群の「今の歌声は」の前奏が流れた時にゃ驚いた。「え?こんなすぐにキャラ変いけるの?喉的に無理じゃない?」なんてなことを思ったのですが、そんな心配は御無用で、優雅に軽々とアジリタを決めて歌い切りました。その後まさかの『イタリアのトルコ人』のフィオリッラまで聴けるなんて夢のよう。もしかすると生でこの曲聴いたの初かもしれない。で、これまた素晴らしい出来栄え。そのまま全曲やれるやんって感じ。脇園さんにめちゃくちゃ合ってた。メゾソプラノだけど、ややソプラノ寄りだから軽々いけちゃうんですね。華やかだったわぁ。

ちなみに、2/29はロッシーニのお誕生日で、その翌日にロッシーニだけのプログラムて、ロッシーニをお祝いするかのようなリサイタル。しかも最高級のリサイタル。もうほんと、最高でした。語り継ぎたいリサイタル。そんな感じ。
ちなみに、彼が生きていれば232歳だそうです。ただ、4年に1度のお誕生日なので4で割ると58歳。思ったより若い(笑)
会場ではそれこそ、ベルカントな人達と沢山出会い、このリサイタルの注目の高さを感じました。また、配信をしてたらしく、半年間配信のアーカイブをチケット購入で観れるらしいので、気になる方はそちらからどうぞ!!

さ、ヴェルディの『仮面舞踏会』内にて、リッカルドがウルリカの住処に出かけようと言ってる3時過ぎてしまったのでもう寝ます。
ありがとう脇園さん、ありがとうミケーレさん。そしてありがとう、ロッシーニさん。最高の体験になりました。