2022.09.19 旬の名歌手シリーズ ファン・ディエゴ・フローレス テノールリサイタル | たっぴーのムジカしくない日記 "Incominciate!!"

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主にオペラの感想等を亡備録として書き連ねていこうかなと思ってます。
その時感じたことをそのまま書くようにしてますので、文筆がおかしいことは多々ありますが、良ければご覧下さい。

昨日は日本舞台芸術振興会の「旬の名歌手シリーズ2022―Ⅱ ファン・ディエゴ・フローレス テノールリサイタル」へ行ってきました。

みなさんフローレスですよ?90年代半ばからうなぎのぼりでスターに駆け上がり、ロッシーニで確固たる地位を確立したあのフローレスでございます!!


なんだろ、デル・モナコとかパヴァロッティみたいなものですよね。フローレスってオペラの教科書があったら、赤の太字もしくは彼の章があってもおかしくない歌手の一人でしょう。

と言いつつも、実は私お恥ずかしいことに今回初の生フローレスだったんです。おかげで数日前からくらいからワクワクが止まりませんでした。


高校の頃に、地元の市立図書館でフローレスの初のアリア集(オール・ロッシーニ)を聴いて衝撃を受け、クラシカ・ジャパンで当時放送されたスカラ座の『セヴィリアの理髪師』を観てこの人やっぱ凄いと思い、親に懇願したけど行かせてもらえなかったボローニャ歌劇場来日公演(セヴィリアの理髪師)で涙を飲み、大学の頃に今ほど『連隊の娘』がメジャーではなくて、あまり知らなかったのと、今後も頻繁に日本に来るだろうと高を括っていたおかげでスルーしてしまった同じくボローニャ歌劇場来日公演…と実演に触れることなくここまできてしまいました。とほほです。最近だと怪しい呼び屋によるリサイタルなんかもありましたが、それはめちゃめちゃ高額チケットと仕事の関係で行けず。そういや海水飲んで来れなくなったなんてなのもありましたね。懐かしい。そんなフローレス聴けなかった歴史に昨日終止符が打たれたわけで喜びもひとしおでした。


今回のお席はこちら。

貧民席ではなく、2階席の最前列!!頑張りました(笑)音響もオケに関してはめちゃめちゃ良かったです。歌はもしかすると上の方が聴きやすいのかも。


曲目は、こちらのお写真をご覧ください。

前半がベルカント物で、後半はロマン派なプログラム。個人的には全編ベルカントで良いのですがこんな感じ。

前半はまず大好きな2曲。『ブルスキーノ氏』と『セミラーミデ』は彼の代名詞ロッシーニの作曲。未だにロッシーニが歌えるのかどうか多少なりとも不安がありましたが、全くその心配はなく、むしろ胸熱でした。昔のような軽さはありませんが、技術的なところに関してはその正確さが際立ち、声が柔らかく粒立ってるのになめらかで均等。もはやフレージングの妙技。ただ声が重くなっただけで、ロッシーニのフローレスは健在でした。もしかすると、ロッシーニに関しては腐ってもフローレス的な感じかもなぁと思ってたけど、腐ってもないし、フローレスでした。今年のペーザロで『オリー伯爵』やってましたが、恐らくとても良かったんだろなぁ。『セミラーミデ』ではDくらいまで出してましたよ。なんの心配もない輝かしいアクート。素晴らしかった。これが世界で称賛されてる人の力なんだなとガツンとやられました。

『愛の妙薬』では、最後の、のんきえーえええええ…をこんなに技巧的に完璧に歌えるのかと舌を巻きました。ネモリーノは時代を先取りロマン派的な色が見え隠れするキャラクターだと思うのですが、あくまで作品としてはベルカント物として作られてるので、それらが混在してるという意味で、今のフローレスが歌うのはとても合ってると思いましたね。

後半は、『イェルサレム』の「もう一度、愛しい声を聴きたい」が素晴らしかった!!この曲どちかというと、『第1次十字軍のロンバルディア人』のイタリア語版が有名で何度も聴いてますが、今回のフランス語版は初でした。フローレスはどちらでも合ってると思いますが、フランス語になることで柔らかく丸みの帯びたイメージが曲に付加されて良かったです。

フランス語といえば、『ウェルテル』と『ロメオとジュリエット』が最高でした。心持ってかれました。眉毛が上がってだんだんと腰が浮いてそのまま引っ張られて行きそうになる感じね。だってウェルテルもロメオもそこにいましたもの。表現が素晴らしすぎる。アクートはしっかりきめてくるし、方やずっと悩めるし、方やずっと甘いし。終始一貫して音楽が崩れないのがすごい。しっかり計算されてる。高音にもっていくのも自然だから気持ちが途切れずにもってかれる。日本のテノール小堀勇介さんもそういうところは強いからやはりフローレスが好きなだけはあるよなと思う。

アンコールはこちらの6曲。
前半の3曲はフローレスのギターによる弾き語りで会場はかなり盛り上がってましたよ。「つれない心」も「ベサメ・ムーチョ」も素晴らしかったですが、以前You Tubeでフローレスの「ククルククパロマ」の弾き語りを聴いたことがあって、めちゃめちゃ感動したのですが、それがまさか生で聴けるとは思ってもおらずで、生はもっともっと感動しました!!凄いです。曲が進むに連れて会場がフローレスの声とギターに集中していくんですよ。それを感じるのも感動しますし、実際の演奏も感動するし、曲も曲だけに非常に稀有で特別な体験でした。ファルセットが美しかったわぁ。

そしてそして、フローレスが爆売れしたきっかけのオペラと言えばやはり『連隊の娘』でしょうが、こちらもやってくれましたよ!!!嬉しすぎた!!最初からではありませんが、後半からの部分をアンコールに組み込んでくれていました。余裕のCを連発。一生懸命出してる感じがなくて、しかもめちゃめちゃいいところで鳴ってるから気持ちが良い。

アンコール最後は「帰れソレントへ」でした。「台風の中来てくれてありがとう」と英語でスピーチをしてからたっぷりと歌い上げて終演を迎えました。いやぁ、もっと聴いてたかったー。今回のリサイタルは、会場の人みんな満足して帰ったんじゃないかなぁ。フローレスが好きな人にも、オペラが好きな人にもリーチする曲目でしたしね。 

今回のリサイタルは、オケが東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団で、マエストロは1993年生まれの29歳。ミケーレ・スポッティでした。このオケがすんばらしいのなんの。特にベルカント物は欲しい音しか鳴ってこなくて、余分なものがない。イタリアの音が会場を席巻でしたよ。オケのリサイタルでのオケ部分って歌手の小休憩くらいに思ってるのもあってか、そこまで素晴らしいと思った演奏には出会いませんが、今回は違った。『タンクレーディ』の序曲なんかはオケにマエストロの意図がしっかりと伝わっていて、強弱やクレッシェンドなんかを巧みに指示して最高の効果を出していたと思います。全曲聴きたくなりました。『ドン・パスクワーレ』序曲も同様。このコンビで新国入ってほしいわ。
『マクベス』前奏曲もヴェルディの若い頃の生気を感じて良かったし、『カルメン』の第三幕への間奏曲では、フルートがめちゃめちゃ素晴らしくて感動しました。『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲だけはやや精彩にかけた印象でしたが、ほんとにそれ以外は全て素晴らしかったです。大大満足。


出待ちはするつもりなかったのですが、終演後後輩と喋ってたら結構人が群がってたので、時間もあった為、もしサイン会あるならいいねなんて話てたらフローレスが黒塗りの車から降りてきてファンサービス開始。サインはダメで握手だけということで握手してもらえました。わーい。ほんとはそのまま会場を去る予定だったらしいですが本人の判断で出てきてくれたみたいです。素敵や。



今回のコンサートもそうですし、前回のヨンチェヴァも素晴らしかったので、NBSはオペラもそうですが、こういうリサイタルを今後もやっていってほしいなと思います。東京プロムジカ無き今良質なリサイタルの機会が減ってしまったので、是非ともお願いしたいところ。
そして、生のフローレスを聴いてみて、この人は語り継がれる伝説の歌手になるんだなと今更ながら確信しました。肌で感じることが出来たわけです。曲毎の完成度が高いし、声を音符に乗せるのが上手すぎる。フローレス以前以後と言われる所以もよくわかる。日本に来てくれて感謝。

最後に残念だったことをひとつ。後ろのおばあさんが曲が始まるとずっといびきをかいていたこと。曲始まるといびきが始まるんすよね。お前何しに来たんだよって感じで途中笑っちゃいましたよ(笑)ほんとに前半のプログラム全部寝てたんでね。
しかもですね、そのいびきのレベルは気にならない人がいないレベルのもので、前半最悪なコンディションで聴くことになりました。それに関してはマジで最悪。そこで、後半もこれじゃ嫌過ぎると思って人生で初めて幕間にコンシェルジュに注意してもらうように言いに言きましたよ。そしたら、既に注意してほしいとか席を変えてほしいとか言うことを言ってる人が…。やっぱそうよね…。みんな思ってたよね。うんうん。今回セット券で買って1番いい席にしたのですが、貧民席だとこういうことは少ないんですよね。でも、高い席は時々こういうことがある。ね?まぁそういうことよ。ステージから遠ければ寝るのは別に良いけど、まわりの人に迷惑になるような寝方はだめだし、音出したら歌い手に失礼なので、少なくとも自分は絶対しないようにと改めて自戒の念を込め直しましたよ。