2022.08.09 第60回大阪国際フェスティバル ロッシーニ作曲 オペラ『泥棒かささぎ』 | たっぴーのムジカしくない日記 "Incominciate!!"

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主にオペラの感想等を亡備録として書き連ねていこうかなと思ってます。
その時感じたことをそのまま書くようにしてますので、文筆がおかしいことは多々ありますが、良ければご覧下さい。

いやー、みなさん、興奮冷めやらぬとはこのことですよ。先日の世界陸上で織田裕二が「地球に生まれて良かったあああああ」ってやつを最後に言って話題になりましたが(我が家だけだそれは)、まさにそんな感じ。幸福の極み。めちゃめちゃ良かったっすわ。

まぁなんていうの、そのー、悟空なら「すっげぇやつらがたっくさんでてきたからオラわーっくわっくしたぞぉ。次の大阪国際フェスティバルもぜってぇ観てくれよなっ!!!」ってなもんですよ。

ということで、つかみはオッケーなのかどうなのか、まぁそのあたりは今後の課題と致しまして、本日の感想を小野小町のように徒然と書いて参りたいと思います。


大阪国際フェスティバルって何回か足を運んだことがあるんですけど、今回60回目だったんですね。めちゃめちゃ歴史がある!!パンフレットによると、フェスティバルホールの開館した1958年から春を中心に開催される音楽祭だそうです。私は最近だと2018年の『チェネレントラ』や2015年『ランスへの旅』を聴きに行きました。毎回非常に高い水準のオペラを上演していて、静岡在住の私としては若干遠いのですが、それはそれは張り切って発売日当日にチケット買っちゃいます(笑)


フェスティバ60回目の演目はロッシーニ作曲の『泥棒かささぎ』でした。なんやねんそのオペラという方多いのではないでしょうか。一般的には…いや、オペラがある程度好きな方々であれば、序曲くらいは聞いたことがあるかもしれませんが、全曲実体験として観たという方は少ないと思います。というのも、今回全曲版での上演が関西初演ということではありましたが、そもそもの日本初演が2008年の藤原歌劇団公演だそうです。日本では初演してからまだ14年程度しか経ってないんですね。そして詳しく調べたわけではないので間違ってるかもしれませんが、日本の主要な団体でこの演目を上演したのはそれ以降ないと思います。つまり観たくてもその機会がないんですよね。そんなレアなロッシーニのオペラを演目に選んでくれたわけです。さすが大阪国際フェスティバル。略してフェスティバル(そこ?あったよねもっと縮め方)


このオペラ、ロッシーニの作品では21番目。オペラ・セミ・セーリアの部類ということで、ガチのセリアまでいかない悲劇性の強い喜劇とでもいうのだろうか。内容としては、使用人が盗み働いた疑いがあるということで死刑になりかけるけれど、実はいたずら好きのかささぎがその犯人だった的なことで、まぁそんなに内容はないようという感じ。ただ、そこはロッシーニ。音楽が場面場面素晴らしいのなんの。それに引っ張られてうるっとしてしまう所もあって感動しました。ロッシーニの音楽って本当不思議。同じ音楽流しても例えば見える状況次第でそれは喜んでいたり悲しんでいたりはたまた怒っていたりと様変わりする。凄いのはそれで成立してしまうところなんですよね。なかなかこういう作曲家っていないと思う。音楽の中にある様々な要素をどう汲み取るのかで引き起こされる感情が変わる。うーん、面白い。


出演者に関しては、その発表があってからとても楽しみにしていました。めちゃめちゃ豪華なんだもん。で、そんなメンバーが揃ったのに、昨年延期を余儀なくされたんですね。普通メンバー変わっちゃうよなって思ったんですが、誰も降板せずに上演出来たのもある種の奇跡かな。みなさん素晴らしかったなぁ。ブラボーとかそんなん言いまくりたかったけどこのご時世で言えないんで、手を叩けるだけ叩いたよ。手が砕けるかと思ったくらい。手が砕けても足があるからまだいけるから良いんですけどね(いいわけがない)


ソリストでまず褒め称えたいのはこちら。ジャンネット役の小堀勇介さん。甲高い声でお茶の間に商品を紹介するその姿、最近見なくなりましたが、まさかまた聴けることができるなんて思ってもいなかったので…あ、ジャパネットじゃないのね。ジャンネットか。微妙に間違えた(大いにな)。いやはやもう何でしょう。最高だったぜ…最高や〜!!!!!!!!

出てきていきなり歌うカヴァティーナ「この腕の中においで="Vieni fra queste braccia"」でかんっぜんに聴衆のハートを鷲掴み。わしも掴まれたその一人。てかVieniどんだけためるねん(笑)そんなもん引き込まれるで。なんやねんダイソンかあんた。聴衆みんな小堀ワールドに吸い込まれてたわ。しかも最後までずっとね。さすが吸引力が変わらないだけあるわ。小堀ダイソン勇介に改名しなさい(いや誰がするかー) 個人的にはそのあとのfraの音が綺麗すぎて倒れかけましたが持ちこたえ、アリアの後半部にいく前の超高音がガチでやばかった。Dかな。研究してたどり着いた無理のない高音へのもってき方なのか、自分としては初めての感覚。合唱がその後BravoとかVivaって歌っていくわけですが、その歌唱に向けて言ってるようにも聴こえました(笑)というか、そのBravoを俺に言わせてくれ。そろそろ解禁してほしいよね〜。なんなら気持ちはBravoからのBisでした。後半部の超絶技巧的なアジリタ、ヴァリエーション、どこをとっても素晴らしいものでした。ヴァリエーションに関しては「これがロッシーニ最前線だ」というような気概をも感じるようなもので、もうそこはペーザロでした。最後の最後は小堀さんの愛するフローレスへのオマージュも感じて、大大大満足でした。拍手鳴り止まなかったもんね。終演後もアリアに関しては仲間内で、小1、小2、いや称賛の嵐でした。

その後もニネッタとの二重唱「たぶん、いつの日かわかってくれるでしょう="Forse un di conoscerete"」での老田さんと息ぴったりで、一途な好青年ぶりを遺憾無く発揮。小堀さんは高音やアジリタが素晴らしいのでそちらに耳が行きがちですが、こういう瞬発力ではなく持続力が求められる曲も実に良いんですよね。イメージし易そうな曲だと、ドニゼッティの『連隊の娘』のアリア"Ah! mes amis, quel jour de fête!"でのある種のスポーツ的な興奮も良いけど、"Pour me rapprocher de Marie"の内面から湧き上がる感動にめちゃめちゃやられる感じの方。表現力による惹き込む力が強いからなのかめちゃめちゃ納得させられる。小堀表現力ダイソン勇介にしようやはり(そろそろやめとけ)

そんなわけで、まだまだ語れますが、小堀さんのとこ過多り過ぎたのでこれくらいに。もうほんとに最高だった。やっぱこれだね〜ロッシーニのコっボ。


小堀さんの次に名前を出したいのは、フェルナンド役の青山貴さん。いやー、青山さん何やってもうまいし、それだけでなくハマるわー。ワーグナーでもヴェルディでもロッシーニでも何でもハマる。これすごくね?そんな都合よくいかないと思うんだけど、いっちゃうんだよねぇ。そして、声があまりにいい声なんで、第一声目聴いて思わず笑ってしまうというアクシデント発生。隣を見ると後輩も笑ってたという(笑)発声が良すぎますよ。ニネッタとの二重唱「どう涙をこらえたら!="Come frenar il pianto!"」やアリア「盗みで訴えられた…なんと恥ずかしい!="Accusata di furto...oh rossore!"」では、歌い始めると構図や内容と声の豊かさ肉厚さなのも相まって、空気がヴェルディ感を醸し出す。ただし、ロッシーニの技巧的な部分もしっかりと歌えてるので、違和感がないという。表現力もあるから気持ちもとても伝わってくる。で、結局ハマると。なんなんだ青山さんの万能さ。ネギくらい万能やわ。もしくは英二くらい万能(うん、それ板東さん)。欲を言えば繰り返しがカットされてたのでフルで聴きたかったなぁとは思いました。もうほんと、青山さんは声がずるい!!何聴いても大満足ですよ!!


お次はそんな青山さん演じるフェルナンドの娘、ニネッタ役の老田裕子さん。関西ロッシーニの輝ける星といったところでしょうか。以前の『ランスへの旅』のコリンナではあまりにも美しく、俗世離れした声に魅了されましたが、今回はむしろ人間味があって感動しました。登場のカヴァティーナ「喜びで心が踊っているわ="Di piacer mi balza il cor"」での喜びに満ちたところからの一変で、投獄されて死刑確定して可愛そすぎる中での、ピッポとの二重唱「それなら私の形見として="E ben, per mia memoria"」でめちゃめちゃ感動しました。『泥棒かささぎ』は映像やCDなどで何度も聴いてはいましたが、感涙的な気持ちになることはありませんでした。しかし、老田さんの声はそうさせる何かがありました。比較的舞台から近かったので表情や仕草もはっきり見えてたからよりそう思えたのかもしれませんが、素直に可愛そうだからやめてやってくれーって思いながら真剣に観入ってしまいましたよ。お父さんを必死にか庇う様子に会場の人もみなそういう気持ちになったのではないでしょうか。


代官(ゴッタルド)役の伊藤貴之さんは人の良さが全面に出まくってそれが漏れ出てました(笑)時々おちゃめな感じもあったりして、それだからなのかはわかりませんが、実はこの代官良い奴なんじゃね?なんて思ったり…。

ニネッタとフェルナンドとの三重唱「(ほっとしたわ) 可愛い娘!=(Respiro) Mia cara!」の緊迫感や早口で盛り上がってくのがとても良かったのと、一瞬『セヴィリアの理髪師』ですかと思わせる前奏のアリア「そう、可愛い子ちゃん、お前のために=Si,per voi,pupille amate」では、ロッシーニだということをしっかりと思い出させてくれる歌唱が良かったです。ここ結構重々しく歌う人が多いイメージだったので、伊藤さんの明るくよく転がるアジリタが曲の真価を示してくれていたように思いました。ただ、この曲難しいだろうなぁ。言葉のはめ方とか音もとりにくそう。しかし、後半しっかりヴァリエーションでの楽しませ方も提供してくれるのがさすがでした。

あと伊藤さんちょっと痩せてたな。痩せる秘訣を教えてほしい。そうして、おいら、ゴッタルドみたいに痩せたるど、なんつってね(お前はどうしてもボケたいんだな)


あと良かったのは、ファブリツィオ役の晴雅彦さんと、イザッコとアントーニオの二役を担当された清原邦仁さん。晴さんは全身全霊で演じられていたので割合的に演劇的な方に目がいきそうなんですけど、裏付けされた確かな歌唱があってのあの身も心もファブリツィオなんだよなってとこなんですよね。そこはしっかり言っときたい。で、あんなに人間味のあるファブリツィオなかなかいませんよ。涙を誘うシーンも。舞台に出てるとどうしても目がいっちゃうので見てると、かなり細かいとこまで演じられていて、全てに過去を背負ってきてるし、瞬発的に演じてなくて気持ちがずっと持続してる。所作も素敵だし良かった。

清原さんは、多分、多分ですけど、初めて聴いたんじゃないかなと思うんですけど、超良い声でした!!!性格的テノールでも一流という感じだし、それのみではなくてそれも出来る主役を張れるテノールだなといった感じ。声に雑味がなくて明るくイタリア的な感じ。ロッシーニももちろんですが、ヴェルディ初期〜中期あたりを聴いてみたくなりました。二役の使い分けも素晴らしかったし、ある種のショーケース的なことなのかななんて思ったり。収穫や。収穫祭やで。


さて、オケはどうだったのか。今回もオケは、大阪交響楽団さん。

序盤やや重さを感じたけれど、これは園田さんがブッファではないこの作品の悲劇性を出そうとしているのではなかろうかと思い始め、だとするとめちゃめちゃ良いわというところにたどり着きました。延期もあって稽古する時間もあっただろうから、音のまとまりとかバランスはとても良くて、特に序曲ではオケから演奏する喜びみたいなものすら感じました。園田さんとの信頼関係が年々構築されてきて、ロッシーニでの演奏は飛躍的に良くなってる印象です。あと蛇足ではありますが、『ギョーム・テル』の序曲をこの楽団で聴いてみたくなりました。とても良さそう。園田さん是非お願いします。


今回演奏会形式ということではありましたが、ほぼセミステージという感じで、バリバリ演技はしてました。隣の相手に歌う時でも必ず正面を向いて、話しかける相手が客席側にいるように歌ったりレチタティーヴォを話したりするわけです。その見せ方が違和感もなくて、歌がしっかり聴けるし、むしろありがとうございますという感じ。そういうことてま、ステージングの奥村啓吾さんも素晴らしかったわけです。


長くなりましたがそんなわけで、全体的に文句のつけようがない名演となりました。先述してますが、拍手のし過ぎで痛いですよあたくしの手が(笑)

痛いといえばこの録画をNHKしてないってことですよね。国民の芸術的機会の損失やでこれ。

そしてそして、大成功の陰?日向?は、園田隆一郎マエストロのご尽力というところでしょうね。ありがとうございました。おかげさまでオペラを100倍楽しめました(それ東の方のやつや)。園田さんには、他のセリアももちろんそうですし、ファルサなんかをチクルス的にやってほしいなぁ。そして、ペーザロ、ヴィルトバート、大阪と、こう呼ばれるようになってほしい〜!!!!

出演者達並びに関係者の皆様お疲れ様でした。そして、素晴らしいロッシーニをありがとうございました。上演が出来たことがまず良かったし、それが最高のものとなって尚良かったですね!!次の機会を心待ちにしております!!

ではでは〜。