第12話その3
無水掘工法の将来
基礎工事の世界で「最終的に生き残るには技術しかない」と考えた永見社長は、人脈を活かし商社的な仕事をする一方、アンカーの施行を行う中で、彼なりに無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)を試みてきた。その実績をもとに技術的に確立できた1993年に「無水掘工法」(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)と命名。同工法の普及のため、永見社長はかってのTOP会を参考に「JOSシステム研究会」(2ノ12) を設立した。
JOSはジョイント・オーナーシップ=共有という意味で (2ノ11) 、技術とノウハウを元請け・専門業者と共有し、効率的に推進する業界初の施行システムである (2ノ11) 。
会員には入会金(預かり金)400万円で掘削機一台と特許工法の使用権が貸与される(26) (27)。その特徴は、元請け会社と下請け会社の両方にメリットがある。通常は下請け業者が数人のスタッフを派遣し、元請け会社の社員が一人で現場の管理を行う。
JOSシステムでは元請け会社から数人のスタッフを出してもらい、オーナーシステムはマイスター(2ノ10) と称する施行技師一人を現場に派遣する。このとき、元請けからスタッフを出してもらうことに対して、その人件費を肩代わりする形で請け負い価格を割り引いていく(26)。
オーナーシステムは売上が減る半面、余ったスタッフを他の工事現場に回せるため、結果的に多くの現場を手がけることができ、一人当たりの生産性は上がる(26)。つまり、施行会員を募り、全国的な施行体制をつくりながら(7ノ3L) (41ノ3)、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)の普及に努めていく。その活動が具体的に結実したのが、今日の全国無水掘工法協会(7ノ3L) (41ノ3)である。
だが、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)が脚光を浴びて、まさに「これから」というとき、国が推奨する技術になったばかりに(81)、談合や天下りの厚い壁に阻まれ、苦難の時代を経験するわけである。
その一つの打開策として、2006年7月、国交省は新たに「公共事業における新技術活用の促進について」 (45ノ2) という通達を出して、発注者指定型 (69ノ4) のほかに施行者希望型(OS)の工事を追加した。
全国無水掘工法協会(7ノ3L) (41ノ3)が公共工事などの情報を得て、発注者に提案したら、検討して採用してくれるとの施策になったという。「これで救われるようになった」と永見代表は語るが、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)の将来は、この通達を徹底できるかどうかにかかっている。
あるいは、2007年度から地震急傾斜地崩壊対策緊急事業(OS)として、崩壊対策のための予算がついて、都道府県と国土交通省が具体的な補強計画を作成することになった。法枠、アンカーなどによる対策を進めるということは、必然的に無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)でということを意味する。
だが、今はこれら事業が1億円で発注され、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)で三割縮減できるからといって、予算が7000万円になるわけではない。従って、元請けは単純に3000万円儲けて、とりあえずは新技術が活用されるにとどまる。
それでも、国が推奨されてきた技術が外されてきたことを思えば、一歩前進ではある。そして肝心なコスト削減は、次なる課題ということのようだが、国交省はその事実を知っているのだから、結果的に地方の談合を見逃すという形で支えていることにもなる。それは当たり前に考えれば、納税者への裏切りである (104)。
水を使う従来工法はデメリットが多いとはいえ(5ノ4) 、それしか方法がなければ仕方がない。医者の薬と同じで、副作用があっても使わざるを得ない場合もある。
だが、時代は変わった。実際に、従来工法でやった現場が地盤沈下や崖崩れなどで補修工事が必要となり、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95) (95ノ2B)で再対策工事をした例もある(51ノ3) (69ノ3) (69ノ2) 。その意味では危険箇所を修復し、地域住民の安全を確保すると同時に、工事コスト34%低減をうたい文句に、税金の節約を図ることを通して、国家に貢献しようという永見代表の戦いは、まだまだ続く。
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障害者の経済的自立支援のためのNPO
「全国無水掘工法協会」(7ノ3L) (41ノ3)の永見博希代表(Wikipedia)を、はじめて大阪に訪ねたのは、3・11東日本大震災(67W)が起きる四年ほど前のことだ。
長年、ベンチャーの取材をしていると、一回の取材で記事にする場合もあるが、記事の内容とタイミングもあって、二回三回と話を聞いてから記事にする場合などいろいろである。だが、雑誌掲載後に、その後の展開をフォローするケースとなると、それほど多くはない。
そんな中で永見代表が普及に努めてきた「無水掘工法」(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)の場合は、『エルネオス』誌上で、その後の経緯を三回ほど記事にしている(73ノ19B) 。
その一つが、2010年2月号に掲載した意外な経過報告と永見代表からの「告発文」であり(55ノ2B)、その記事が後に「LLP(有限責任事業組合)無水掘工法設計比較・検討支援事務所」(48)による大阪府相手の提訴(55L) (68)、そして裁判の途中経過レポートへとつながる(73ノ19B)。
なお「LLP無水掘工法設計比較・検討支援事務所」(48)は、NETISに登録された新技術が発注に当たって積極的に活用されていないことから、国交省が新技術の活用を推進するため、2004年に「設計義務共通仕様書」(31) の規定を改正し、比較情報について「必ず比較・検討する」ことを通達したことから「全国無水掘工法協会」(2ノ13)に代わって、新技術活用のための適応・検討を支援していくことを目的に、新たに設立されたものである。
私としては、最初に「無水掘工法」(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)の問題を記事にした経緯もあり、私なりに経過報告を兼ねて問題提起を行ってきたわけだが、本来は会計検査院(51) (51ノ2) (51ノ3) が取り上げてしかるべき問題だろうというのが、率直な印象である。
地味でわかりにくいため、マスコミは扱わないままだが、問題の根は深い。本文でも記しているように、時代も大きく変わり、掲載の年は官製談合防止法が改正になり、三月から施行されて、談合幇助も罪に問われることから、日本の談合システムにも歯止めがかかったようで、受注状況も順調ということで、記事にしたものである。
それがわずか三年後の「告発文」(55ノ2B) である。一体、何があったのか?いわゆるベンチャーの失墜は、珍しいことではない。だが「無水掘工法」(5)(9)(63)(81)(95 (95ノ2B)の場合は国交省のNETISに登録された、いわば国の推奨技術である(81)。「告発文」は「国交省推奨の無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)は業界の談合・既得権益体質の縮図である」とのタイトルで掲載され、同工法が国交省の指導の下、積算に使われるようになっても、実際の工事では排除されて、結果的に倒産の危機にあるとの切実な内容である (103ノ2)。同工法が公共事業の積算に使われると、工事予算額は三割縮減となることから、国の予算が削られ、税金の負担も減る (106)。何の問題もないはずだが、現実には公共事業の積算に使われるだけであって、実際の工事は無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)では行われない。いわゆる公共事業の、積算→発注→受注→施行というプロセスの入口である積算に無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)を用いて (64)、出口である施行は無水掘工法を使わない(39ノ2)。そんなことができるのかというのが、素人の素朴な印象だが、現実に起きているのが無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)の排除なのである(65) (65ノ2L)。
永見代表が告発した問題の一つは、国交省が通達を出し、会計検査院が是正勧告(51)を出しているにもかかわらず、いわば国の意向を末端の現場が無視していることだ(78)。
もう一つは、国交省が通達の徹底が図れるように、出口で「無水掘工法」(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)と特定しないことである (69)。つまり、実際の施行技術については「任意」あるいは「同等以上の技術」という曖昧な表現のため、肝心の施行の段階で、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(95ノ2B)が外されることになる。
その結果、現場で起きているのが、大阪府のケースでは公共事業の積算には無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95) (95ノ2B)を使って(64)、予算の三割縮減を達成する一方、実際の工事は従来工法で行われる(5ノ4) (5ノ3)。単なるコストダウンを強いられる形となり、工事を請け負う下請け業者にしわ寄せが行く(39ノ2)。そのため、オーナーシステムの元従業員が無水掘工法の機械を不正に使用するなど、大阪府が背景を調査する事態まで生じている(54)(54ノ2B)(55)(55ノ2B)(56)(57)。 👉第12話その4完結編 へ