第12話その4完結

 

 2003年8月8日号の「日経コンストラクション」での「下請けたたきとの決別」という特集記事の中で「特殊な技術を持つ下請け会社の側から、元請け会社との新たな関係を築こうとするケースも出てきた」として、オーナーシステムの「無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)」がクローズアップされている  (26)。大阪府の事例は、長引くゼネコン不況下、下請けたたきの実態は相変わらずというより「日経コンストラクション」が10年前に「下請けたたきとの決別」(26) のための理想的事例の一つとして紹介した無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)が下請けたたきをむしろ助長するために使われるという皮肉なケースである。

 国の施策、業界の厚い壁に翻弄されてきた永見代表は、告発文で(552B)「大阪府のケースに見るように、実際に積算され、すでに支払われた開発費が開発者のもとに渡らないだけならまだしも、予算額だけが三割減となって、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)が使われずに、結果的に下請けいじめという形で、現場を苦しめていることは、開発者にとっては二重、三重の苦しみです」と、苦しい胸のうちを吐露している。

 告発の後、事態の進展が見られないまま、永見代表は2010年8月、生き残りを賭けて、大阪府を相手に提訴する(68)。訴えの主旨は「大阪府が発注したアンカー工事等で、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)を積算のみに利用し、本来そこに含まれるべき技術開発費(64) が原告に渡っていない」として、損害賠償と新工法の標章使用差し止めを求めたものである。

 その裁判の経緯を「大阪府がタダで使った新工法」(552B)および「国交省VS大阪府」 (7320B)という内容で記事にしてきたが、結果は国と地方では事情が違うと、いわば門前払いの形で棄却されている(682)

 もとより、永見代表としても、訴訟・戦い自体が目的ではない。その後の3・11の被害状況 (67) (672) 、異常気象による台風、豪雨による土石流など、災害列島日本の状況はまさに緊急事態である。国土の安全のため、NETISに登録され、多くの実績のある推奨技術が(81)、全国の危険な現場で使われることが第一。そして、防災関係の予算縮減のため(105)、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)を役立ててもらいたいということである。

 だが、厳しい現実の前に、永見代表の戦いも四面楚歌の状況のまま、万事休すである。苦悩する永見代表は、やがてストレスから来る急性心筋梗塞で倒れて、しばしの休養を余儀なくされる。

 ICU(緊急治療室)での治療、その後のリハビリ生活を経て、再び現場に戻ることで心境の変化を得るとともに、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)の将来、展望をどうすべきかが切実な問題として、永見代表の肩にのしかかってくる。万が一のことがあったときに、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)はどうなるのか?

 私生活面では、永見代表夫妻はダウン症児の親でもある。息子の将来はどうなるのか?そんな中で、新たな展望が開けるのは、子どもが仕事に通っている障害者施設の存在からだ。子どもがようやく成人になり、わずかな工賃とはいえ、施設に働きにいっている。

仲間のいる施設で彼らと過ごす時間を楽しんでいる。永見代表もまた、働く我が子を通して、障害者の実態を知り、施設を運営する人たちとの接点も生まれる。

 その施設の存在をありがたいと思う反面、障害者の就労実態を知るにつれて (963)、多くの問題点や矛盾した現実に直面する。そんな中で、彼はIT技術者としての彼らの能力、パソコンスキルに着目する。

 毎年、無水掘工法協会(213)  (214)、LLP支援事務所では (48)、全国の国交省管轄の公共事業および災害・防災関係工事の発注情報を収集し、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)が対象となる具体的な現場の「比較・検討」(31)のために、パソコンでの作業を行っている。公共事業に関する各自治体への情報開示請求にもパソコンが不可欠である。その作業を障害者にしてもらえば、永見代表も助かると同時に、障害者の新たな仕事となり(96)、極めて現実的な経済的自立への道となる(82) (87)

両者の協働は共通の利益を生む。しかも一つの障害者施設だけでなく、全国でも同様の展開が図れることから、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)の普及と同時に、障害者支援という形での、もう一つの大きな社会貢献になる(82) (87)

 まさに、一石二鳥・三鳥の可能性が見えてきたことで、彼はその実現に向けて、命がけの取り組みを始める。

 試行錯誤の末、無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)の知的所有権を技術開発者(永見代表ほか)から、新たな非営利セクター=NPO法人に寄付・譲渡することにより(73)、全国の障害者仲間の公益共有財産にする。その技術の活用によるロイヤリティ収入が「障害者支援につながる財源確保」と「就労継続支援A・B型事業所(作業所)の工賃向上」を実現することで(82)、生活保護に頼ることなく、将来的には納税者にもなりうるとの展望が開けたことから、2013年7月にスタートしたのが、NPO法人「NETIS新技術活用協働機構」(73)である。

 理事長には自らが身障者である波那本豊氏(NPO法人・自立生活センターFREE)、事務局長には永見代表が就任。ITを利用した新しい社会におけるNPOの働き、市民の社会参加など、いわゆる「ガバメント2・0(Web2・0)」、「新しい公共」、「共助社会づくり」との考えの下、行政と協働(コラボレーション)する新しい就労モデルを導入することで、新技術の活用を提案する(101)

 実際の無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95)(952B)の施行に当たっては、オーナーシステムとともに、大阪の・ソルテック(塩田彰社長)が技術指導面を支える(103)

 はじめての試みとあって、必ずしも一朝一夕にとはいかないが「全国の障害者支援事務所で土砂災害防止・地域防災コラボレーター仲間でコスト削減を推進しましょう!」との呼びかけも始まっている。

 すでに2013年(平成25年)秋施行の三重県の紀勢国道事務所での採用実績もあり、3360万円の縮減を果たすなど、「協働(コラボレーション)作業」の成果も出ている(71) (72) (74) 

 今後、さらに全国の身障者施設で、同様の展開が図れることから、まさに無水掘工法(5)(9)(63)(81)(95) (952B)の普及と同時に、身障者の経済的自立を可能にする就労モデルとしても画期的である。

 田中角栄元首相の落とし子ベンチャーとしてスタートし、皮肉にも田中派の金城湯池といわれた国交省(旧・建設省)に泣かされてきたが、ようやく新しい仲間を得ることによって、今後の展開が大いに注目されている無水掘工法なのである(4)(5)(9)(63)(81)(95)(952