株とギャンブル
冒頭はちょっと前回書いたことと重なりますが。
投資は一見、理論的には上がるか下がるかの二択で勝率50%のギャンブルと一緒ですが、実際には投機(トレード)を目的とした個人投資家は80%が市場から退場するというのが有名な話です。
パチンコ屋の客への還元率が15%程度と言われていますから、トレードはパチンコと同程度の勝率のギャンブルと一緒ということになります。
勿論、パチンコで勝てなかった人でも、株のトレードで勝ち続けている人からしたら「一緒にするな」ということになってしまいますが、これはあくまで全体的な統計の話。
勝てるのならば勝てる土俵で戦えばいいと思います。

マイナスサム~ゼロサム~プラスサム
勿論、株のトレードで勝てないけれどもパチンコで勝ち続けられる人もいるわけで、そういう人は株には手を出さずパチンコをやり続ければいいでしょう。
これは、競馬だって競輪だって一緒なのですが、ここまでの話で一つだけ共通して言えるのが、これらギャンブルで勝つためには、同じ土俵に立つ他者に対して、常にアウトパフォームできる能力が試され続けるということです。
他者より優れる才能が必要であり、新規の参入者が現れても、その新規参入者よりも常に優れている必要があります。
中々厳しい条件での勝負になりますが、これは、これらのギャンブルが全てゼロサム、もしくはマイナスサムゲームだからです。
ゼロサムというのは、麻雀やトランプの大富豪のように、1位が+2、2位が+1、3位が‐1、4位が-2と順位によって手元のチップに差は付くが、参加者全員でトータルすると±0になるゲームです。
マイナスサムというのは、1位がプラスになったとしても、1位が手にした残りの多くを胴元が回収し、それ以外の参加者は全てマイナスになる、宝くじ、パチンコ、競馬、競輪、その他多くのギャンブルのことです。

では投資はというと、トレードを行うと基本はゼロサムゲームになりますが、少額ではありますが胴元である証券会社が手数料を中抜きしますし、信用取引はお金や株を借りて取引をするので、そこには日歩という形で利息を取られます。
コモディティは長期で持てば、3か月ごとにロールオーバーというコストがかかりますし、FXではスプレッドという形で手数料がかかります。
ですからこれら全ての金融商品は、一般的にはゼロサムとは言われていますが、実は厳密に言えばマイナスサムゲームということになり、参加者の勝率は計算上50%以下になります。
つまり、1部の特別な才能を持った人以外の一般の人は「やらない、手を出さない」のが、将来一番資産を多く持つ方法ということになります。
これまで、日本人の多くの投資をしない人が「ほら見ろ」「だからやらなきゃいいのに」と投資をする人に投げかけてきた言葉。
この言葉は投資をマイナスサムゲームと思って「やった人」にたいして「やらなかった人」が投げかけてきた言葉です。

誰もがプラスサムになる投資方法
しかし、もし投資をプラスサムゲームにできるのであればどうでしょう?
1位が+3、2位が+2、3位が+1、4位が±0。
これがプラスサムゲームです。
下は、S&P500の長期の年率リターンをグラフ化したものです。
長期投資のメリットの基礎知識 | ロボアドバイザーならWealthNavi(ウェルスナビ)
1年という短期で見た場合、ある年では+60%新田可能性がある一方で、最大で‐50%もの損失が出るのが株式投資です。
ところが、長期にわたって投資をし続けた場合、確率はプラス側もマイナス側も収束していき、15年目には+2%~+11%に落ち着きます。
1位でも4位でもプラスになるということは、プラスサムゲームであった、ということになります。
そしてこのゲームに参加するための能力は、過去の統計を知ること、今後一時的に下がった時の覚悟、将来の資本主義社会への信念。
この三つです。
どれも特別な、一部の人にしかない才能ではありませんから、才能の無い人でも勝てる可能性の高い投資方法ということになります。

下は、みずほ証券のDC(企業型確定拠出年金の)利回り分布図です。
これを見ると、二か所、山が飛び出ているのがわかります。
左の山は、利回り0%~1%の割合で、約25%もいますが、これは運用商品を自分で設定せず、自動的に定期預金の購入になってしまった人が大半ここに分類されていると思われます。
もう一つは、10%以上の山で、10%以上の利回りの人は全てここに集約されているからと思われます。
これを見る限り、約5%ほど運用成績がマイナスになっている人がいますが、逆に言えば残り95%はプラス運用が出来ているということです。
DCは60歳までの長期運用が前提で、途中で利確は出来ません。
たまにスイッチングする人はいたとしても、頻繁に回転させる人はそう多くないと思われます。
投資に明るくなく、企業の制度上強制的に参加している人も一定いるDCの中で、ただ預けているだけの投資で95%がプラスの成績ということは、長期投資がプラスサムにりうるゲームと言えるのではないでしょうか。
ちなみに残りの含み損5%の人についてですが、少し前に「DCのラインナップ商品全てが含み益になった」との報道があった現在の相場環境の中でマイナスになるというのは、DCを使ってキャピタルを取りに行ったか、一時的な暴落時にパニック売りをして定期預金や債券にスイッチしてしまい、損失を確定してしまったまま、放置している人達かなと想像できます。

さて、これを転じて個別株の長期投資を考えてみたいのですが、そのまえに、そもそも長期投資はなぜプラスサムになったのでしょう?
一つは、資本主義経済自体が成長し続けているから、それに伴って、短期ではコロナショックのような経済ショックで暴落を挟みつつも、長期では株価は成長をし続けるからです。
コロナショックでは約半年後には値を戻していますし、リーマンショックでも約3年、ドットコムバブル(ITバブル)崩壊~リーマンショック間のトータルでも15年で値を戻しています。
この15年が最初にアップしたグラフの言うところの、15年トータルでは元本割れしないという根拠になります。
ドットコムバブル崩壊前夜の高値で買ってしまっていても、慌てて売り買いせずに15年持ち続ければ負けることは無かったということです。
もちろんこれは、過去の歴史上そうであったというだけで、この先ニューヨークに巨大隕石が落ちてきたり、火星人が襲来したりしてホワイトハウスを占拠して米国を乗っ取るなど、資本主義が崩壊すれば100年戻らない暴落もあるかもしれません。
でもその場合、株から手を引いて現金だけにしてもドル紙幣も紙切れになる可能性が高いので、こんな事を考えても意味はありません。
考えうる範囲で、考えうる程度の暴落を考えればいいんです。
個別株での長期投資
インデックス投資の長期投資に関しては話はここまでなのですが、個別株の長期投資に関してはもう一つ、成長時に得られる利益を、企業は株主に対して配当金という形で還元しているから、というのが挙げられると思います。
ファンダメンタルで株価を考えた時に、配当で株主に利益を還元してしまうことは、企業の成長を鈍化させることになり、むしろ株主還元分を成長投資に充てたほうが株価上昇につながりますから、株価だけを考えた場合、配当が必ずしも良いとは言えません。
しかしそれでも、長期投資家にとっては、配当金は重視される傾向があり、それがまわりまわって株価の維持につながっていることも良くあります。

例えば、一部の投資信託やETFを運営する機関投資家は、ファンドを購入してくれている投資家向けて分配金を出す必要があります。
分配金の多少でファンドの人気を左右しますから、配当落ちに向けた高配当株への機関投資家の買いという需要が定期的に発生します。
この機関投資家の需要は、配当落ち後の売りという形でも現れます。
これが、高配当株に対して、トレーダーが回転させる妙味を消すことになります。
つまり、配当落ち前に徐々に株価は高くなり、しかし配当落ち後には配当分値下がりしてしまうため、配当を貰いつつ短期で売買しようと思っても、株価は行ってこいになります。
しかも、成長自体はグロース株に劣るので、狭いレンジの中での値動きだとすれば、わざわざ緩やかな値動きの中で、高配当株を回転させる妙味は無くなってしまいます。
短期トレーダーが嫌がる「資金拘束される期間」が長くなってしまいますからね。
下は高配当株の一例として、三菱HCキャピタルの月足チャートです。
数年にわたり時々レンジの水準を変えながらも、狭いレンジ内でのボックス相場が続いています。
レンジ内で回転させようとしても、値幅はほとんど取れないでしょうし、一度レンジの水準が変わってしまうと、中々戻りません。
レンジ相場は回転自体はさせやすいでしょうが、値幅が少ないので、トレーダーはあまり好まないのではないかと思います。
対極的にグロース株のチャートとして、参考までに下に東京エレクトロンの月足チャート。
トレーダーによっても利益の出し方はまちまちだと思うので、三菱HCでも東京エレでもどちらでも、キャピタルは出せるのでしょうが、一般的には値幅が出る方がトレードには好まれるのではないかと思われます。

このように、配当を目的として定期的な売買がある一方で、キャピタル狙いの売買が少ないということで、株価が安定します。
キャピタル狙いの投資で株価が上がらないのは致命的なのですが、他方で三菱HCは25年連続増配中で、25年間で配当は46倍になっています。
長期で売却しないつもりなら、株価の上げ下げはデメリットではない一方で、毎年もらえる配当は上がり続けることにはメリットがあります。
しかも、一度レンジを切り上げてしまうと、長期にわたって下がってくることがない性質上、ボックス内で回転させようとして売ったところでレンジが切りあがってしまうと、ずっと買い戻せなくなり、その期間の増配の恩恵は受けれなくなってしまいます。
逆に言えばそういった思惑も相まって、握力の強い株主が握ったままになりやすいともいえそうです。
株価というのは、株以外の商品と一緒で、誰かが欲しいと思う需要があれば上がりますから、配当や増配はそういった意味で需要になり続ける可能性がありますからね。

投資が長期でプラスサムゲームになるのは資本主義が長期では成長を続けるから、そして成長で得る利益を企業が投資家へ還元するからです。
配当はその意味で、最も分かりやすい還元で、定期的に投資家の手元に戻ります。
株価と同じように、不況時には減配されてしまう可能性もあります。
しかし三菱HCが25年連続増配をしているというのは、その間にはリーマンショックやコロナショックで減益して株価が暴落しても、減益が一過性なら増配はし続けるという企業方針の表れです。
このような連続増配する企業、米国では昔からよくあるのですが、最近日本企業も増えてきている他、累進配当(配当は前年度維持もしくは増配)を宣言する企業が増えてきています。
こういった企業に対して分散投資を行うことで、株価下落のリスクは呑み込みつつ、減配リスクは抑えて投資が出来るようになるのが長期投資のメリットです。
短期での妙味は薄いですが、長期ではリスクを大幅に減らしつつゲームをプラスサムゲームに持っていけるのが長期投資の妙味でないかと思っています。

こういう還元方針の企業への投資は、特に自身が年金暮らしになる老後、定期的な配当収入を与えてくれます。
その意味でも、老後の資産形成を目指した投資としては、DC(iDeCo)、積み立てNISAとも目標が近しいです。
投資対象を個別株に買えても、DCや積み立てNISAのような分散した銘柄に対して投資することで、リスクを抑えられ、その効果は50銘柄以上であれば、ある程度分散効果は発揮できると言われています。
この銘柄数であれば、十分個人でも買える数です。
米国株であれば1株から買えますし、日本株でも単元未満株で1株から買える証券会社も増えてきましたからね。
インデックスよりハイリスクにはなりますが、逆にインデックスには無い配当というメリットもありますから、投信への積み立てからのステップアップとして丁度いいのではないかと思います。
高配投資については↓が明るいです。
バクさんはYouTube動画でも高配当株についてかなり広く解説しています。
誰もが知っている大型株から、どこから見つけてきたの?という小型株まで、高配当株についての解説をしてくれています。
【投資家バク】高配当・増配株で目指せFIRE - YouTube
全ての投資、金融商品にはリスクがありそれは銀行預金ですら一緒です。
ですが問題はリスクがあるか無いかではなく、どの程度のリスクなのか、です。
ハイリスクな株への投資とローリスクな債券への投資を一緒に考えていけないのと同じように、トレードと長期投資も別物と考え、資産運用の一つの方法と考えると、株式投資も多くの人の老後に向けた資産形成となりうると思いますので、興味を持たれた方は余剰資金の範囲内で、挑戦してみるのもいいのではと思います。
