芥川賞候補作の

高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」(群像2022年1月号)

を読みました。

 

 

高瀬隼子さんは前々回の

芥川賞候補にノミネートされていて、

いちばんの推し作品でしたが

受賞なりませんでした

 

 

 

 

高瀬さんの作品には

多くの人が見て見ぬふりをするような

都合のわるい、“臭いもの”の蓋を開け、

こちらにグッと突きつけてくるような

インパクトの強さとばつの悪さを

突きつけてくる威力があります。

 

 

咀嚼しにくい部分はありますが

後味の悪さがまたクセになるような

そういう魅力のある作家さんだと思っています。

(まだ2作品しか読んでいませんが)

 

 

今回の作品も凄かったので、

芥川賞の期待大!

 

 

「おいしいごはんが食べられますように」は

全国に支店がある中堅企業で働く

若手社員の二谷(にたに)と

押尾のふたりの視点を通して

 

 

誰かに守られながら

「おいしいごはん」を食べる女性

自力で「おいしいごはん」を

食べようと努力する女性

「おいしいごはん」を食べようとも

思わない男性

の3名が描かれます。

 

 

二谷の後輩の芦川(あしかわ)は、

労力がいる仕事や

取引先に威圧的な人物がいると

体調不良を訴えて

早退欠席してしまう女性社員です。

 

 

つねに口角を上げ、

誰にでも優しくふるまい、

セクハラを笑顔でかわし、

上司やパート社員から慕われているのですが

現場で一緒に働くとなると

自分の負担が増えるため

少し苛立つ存在として描かれています。

 

 

一方で芦川の後輩の押尾は、

チアリーディング経験者で

体育会系気質があり、

苦手なことも努力で乗り越えようとするけれど

セクハラは断固拒否する

芦川と真逆のタイプの女性社員。

 

 

押尾は立場上

芦川が残した仕事を振られることが多く、

誰かに守られ、配慮される芦川の弱さに

嫌悪感を抱いています。

 

 

そんな女性社員ふたりを目にしながら

二谷は弱い芦川の肩を抱き寄せ、

強くあろうとする押尾の愚痴を聞いてあげ、

ふたりがそれぞれ自分の生き方を貫こうとする姿を

冷めた目で眺めてしまいます。



仕事はできないけれど、

いつも笑顔で苛立つ様子など見せず、

礼儀正しくきちんと

「おいしいごはん」を作って食べ、

欠勤のお詫びに手作りのクッキーやマフィンを

手渡してくるような芦川の存在を

二谷はいじらしくかわいらしく思う一方、



誰かに守られ、

配慮されていることを

当たり前に受け入れている

芦川を心から軽蔑していることが

物語が進むごとに滲み出てくるのです・・。



二谷は芦川を嫌悪しながらも

成り行きではじまった交際を続け、

芦川のお詫びのケーキをゴミ箱に捨て、

眠る芦川の横でカップ麺を食べ続けます。



芦川と付き合いながら

残業帰りに押尾と飲みに行く機会も増え、

押尾の好みに合わせた「おいしいごはん」を

つつきながら話すようになります。



押尾は話せば話すほど芦川とは真逆のタイプで

配慮される芦川を「むかつく」と言ったり

自分の頑張りを認められたいという承認欲求に

二谷は共感するのですが

困難や試練を自力で乗り越えようとする姿や

真面目にものごとに向き合う姿勢を

一歩引いた目で見てしまうのです。



当然のように誰かに守られながら

「おいしいごはん」を食べる芦川、

自力で「おいしいごはん」を

食べようとする押尾、

「おいしいごはん」を食べることが

面倒に感じる二谷の3人の視線は

交わらないまま、やがて

ちょっとした事件が社内に起こります・・。



3人のなかで

押尾のタイプにもっとも近いわたしは

芦川みたいな人が元職場にもいたなぁ・・

と懐かしく思いながら、



(当時はめっちゃしんどかったし

「自分ばっかり損な役回り」と思っていたので

押尾に大共感でした、

芦川みたいな人はきっとずっと変わらないから

自分が変わるしかない、ってマインドになって

転職を決意するのもすごくうなずけました)



二谷の胸の内にある

根深いミソジニー(女性嫌悪)に

心からゾッとしました。



芦川の弱さを見下しながら

付き合いを続けたり、

芦川と結婚するんだろうなと思いながら

好意をありがた迷惑に感じたり。



かたやタイプの違う押尾に対しても

自分の領域にこれ以上踏み込まれたくない

というような拒否感を抱いていて



作中で明かされる

文学部志望だったけれど

その道にいかなかった劣等感と

文学部に進んだ元カノへの

歪んだ苛立ちからも、二谷の

「自分の生き方」を迷わず選ぶ女性への嫌悪を

感じずにはいられませんでした。

 


きっと二谷は

見た目はそこそこの爽やかイケメンで

物腰もやわらかくて話しやすくて

だからいろんな女性にモテて

なにかと苦労せずに生きてこられたけれど



でも本当は自分が望む道に進めなかったことを

ずっと悔やんでいて、

でももう後戻りできないと悟ってしまって、



だからこそ

他人に迷惑をかけてでも

自分望む生き方を貫いている、

貫かざるを得ない弱さを持つ芦川と

自分の望む道に

きちんと軌道修正をしていく強さを持つ押尾に



強烈なうらやましさと

歪んだ恨みを持ってしまっているのではないかと

読みながら想像してしまいました。



二谷は自分には

自分の生き方を貫く弱さも強さもないと

2人とかかわりながら気づいてしまった

のではないかと思いました。



ラストシーンでは

芦川のまっすぐな瞳が印象的で

芦川の弱さを見下し、征服しようとしていた

二谷が芦川に絡め取られていくような

そんなイメージを抱きました。



芦川の弱さはほんものだけれど

弱さを武器にするようなしたたかさもあって

二谷が芦川の弱さを嫌悪しながら惹かれるところが

ミソジニーを象徴しているようにも感じました。



嫌いだけどかわいい。

二谷の極端に揺れる気持ちが

わからないではないけれど

女性としてやめてくれ・・と

うんざりした気持ちになりました。



自分の生き方や気持ちに向き合ったり

乗り越えようとしたりせずに

ミソジニーに振り切る二谷の

嫌悪感が非常に印象に残った作品でした。



ミソジニーについて

女性嫌悪、としか触れていないので

解説リンクをはっておきます↓





こういう男性って

世の中にけっこういるのかなぁ・・とか

こういう人がモラ夫になるのかなぁ・・とか

余計なことをかなりリアルに想像して

震えました。。



この作品も、

冒頭で話したように

インパクトの強さとばつの悪さが

ギラギラときらめいていました。


 

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