こんにちは〜!!
ご報告ブログを更新してから、あっという間にほぼ一ヶ月経ってしまいました。
ふにゃふにゃで頼りなげだった赤ちゃんはすくすくと成長し、今ではふっくら、でっぷり、という言葉が似合うベビーになりました。
一ヶ月健診も無事終わり、先生から外出OKのお墨付きもいただきました!
ベビーがすこやかに育ってくれてとても嬉しいです^^
かたや母体はというと、心身ともに激動の一ヶ月でした。
もともと健康体でここ3年ぐらい風邪をひいておらず、身体の痛みや肩凝りなどの不調とも無縁、妊娠中もおおむね健康というありがたい身体で過ごしてきたのですが、出産を機に次から次へと身体の痛み&不調がおとずれ、かなりまいってしまいました・・。
出産の痛みが想像以上でショックだった上に、産後も痛みや不調がこんなにあるなんて!!とさらにショックで。
動きたいのに動けない・・赤ちゃんのお世話をしたいのに痛くて無理・・という状態がつづいてメンタルがやられてしまいました。
いま振り返ればマタニティブルーズというやつだったのかもしれません。
ささいなことでめそめそと泣き、不安になり、動けない身体に落ち込みました。
夫や母のサポートがなければとてもじゃないけど乗り越えられなかった一ヶ月でした。
家族の大切さやまわりの助けを遠慮なく借りることの大切さを身に染みて感じました。
いまは母体も回復してきております。
全回復!とまではいきませんが、読書ブログを再開できるぐらいには回復しました。
いまこうしてブログを書けていて、とても嬉しいです!やっぱりブログはライフワークだなぁと改めて実感しました。
ということで産後一発目の読書はこちら!
高瀬隼子「水たまりで息をする」(すばる3月号)。
なぜこの作品かというと、わたしが産褥期で心身ともにやられているさなかに芥川賞・直木賞の候補作の発表があったからです〜。
日本文学振興会@shinko_kai
第165回芥川龍之介賞の候補作は、以下の5作です。石沢麻依「貝に続く場所にて」(群像6月号)くどうれいん「氷柱の声」(群像4月号)高瀬隼子「水たまりで息をする」(すばる3月号)千葉雅也「オーバーヒート」(新潮6月号)李琴峰「彼岸花が咲く島」(文學界3月号)#芥川賞
2021年06月11日 05:00
日本文学振興会@shinko_kai
第165回直木三十五賞の候補作は、以下の5作です。一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社刊)呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』(文藝春秋)佐藤究『テスカトリポカ』(KADOKAWA)澤田瞳子『星落ちて、なお』(文藝春秋)砂原浩太朗『高瀬庄左衛門御留書』(講談社)#直木賞
2021年06月11日 05:00
芥川賞候補作のなかに、既読の作品が2作品ありました!!
うれし〜^^!!
毎年芥川賞・直木賞候補作をすべて読んで受賞予想をしておりますが、
さすがに直木賞は間に合わなそうなので、今回は芥川賞予想だけでもできたらいいなと思います。
発表は7/14(水)です!
ということで芥川賞候補作の高瀬隼子「水たまりで息をする」を読んだのですが、わたしはこの物語が愛の物語に思えてなりませんでした。
この物語の登場人物は36歳会社員の衣津実と、結婚して10年になる衣津実の夫。
子どもは授からなかったけれど、このまま夫婦ふたりでそれなりに楽しく暮らしていくだろう、と思っていた矢先、夫が突然お風呂に入らなくなったことで日常が様変わりしていきます。
夫がお風呂に入らなくなったのは、水に触れるのが嫌になったからでした。
水に触れると身体がかゆい感じがしてシャワーを浴びることができなくなった、と語る夫に衣津実はミネラルウォーターで身体を洗ってみてはと提案しますが夫はミネラルウォーターで少しすすいだだけで済ませてしまいます。
夫が水に触れるのが嫌になった日は、会社の飲み会の悪ふざけで水をかけられて帰ってきた日でもありました。
衣津実はそれが原因ではないかと思いますが夫はそのことにあまり触れず、いつも通り仕事にも行きます。
体調も悪くなく、衣津実に接する態度も普段通り。
ただ違うのはお風呂に入らない、ということだけでした。
そんな夫に対し、衣津実はどうしたらいいのだろう、という戸惑いと、お風呂に入らないこと以外はいつも通りな夫を受け入れていつも通り振る舞いたい、という気持ちが交錯し、しばらく様子を見守ることにするのですが、夫がみずからお風呂に入ることはなく、においはどんどん強烈になっていきます。
結局どうすることもできないまま月日は流れ、どんどん周囲からの視線が冷たくなっていくのです・・。
この物語は、「1 風呂」「2 雨」「3 川」の3章立てで構成されているのですが、わたしが冒頭で「愛の物語」だと感じたのは「1 風呂」の章からです。
夫が頑なにお風呂に入ろうとしない様子に、衣津実はあれこれ対策を練りどうしようかと悩み続けますが、1章の最後で「お風呂に入らない夫を受け入れよう」と腹をくくるような描写がみられます。
「目を閉じると、夢に落ちて行く前のほの明るい瞼の裏に、子どもの頃に近所で飼われていた大型の雑種犬の姿が浮かんできた。(中略)犬はかわいかった。犬だって滅多に風呂に入らない。入らないけど、くさくたって、抱きしめていい。」(86頁上段)
「愛」などとひとことでおさまらない人の感情の揺れ動きを描く小説・文学というものにこのワードをつかうのは不適切かもしれません。
ですがこの箇所では小さいころに飼っていた犬との思い出を振り返りながらも夫のことを考えていることがわかるように語られ、さらに「抱きしめていい」という言葉でしめくくられていることから「愛」という言葉が浮かんできたのでした。
「1 風呂」で夫を受け入れようと腹をくくった衣津実は、その後「2 雨」の章で義母や会社の上司から言われたことや世間体に反発しながら「3 川」の章で夫の意志に合う暮らし方をするようになります。
腹をくくったあとの衣津実は、夫とおだやかに暮らすことだけを考え、ほかのことはあまり考えないように過ごします。
そこで描かれるのは、周りからなんと言われようと、生活環境が変わろうと、世間的によく見られていなくても、夫と平和に過ごせるのであればそれでいい、という衣津実の切実な願いでした。
自分にとって大切な存在が生きていられるのなら。
たとえ水たまりのような場所でも、そこで平和に息ができるのならいいじゃないか。
「水たまりで息をする」というタイトルには、大切な人への愛とおだやかな日々を求める衣津実の切実な願いが込められているのではないか、と読みながら感じました。
愛を感じた箇所はほかにもあります。
「結婚した方がいいから結婚をした。子どもがいた方がいいから作ろうとしたけど、できなかった。夫婦二人が仲良く生きていく選択をした方がいいから、そうした。(中略)
そうして並べてみると、まるでなにも考えていないみたいだけれど、熟考して選んでないからといって、全てが間違いになるわけではない。無数に選択肢がある人生で、まっすぐここまで辿ってきた当たり前みたいな道を、おままごとみたいと、誰が言えるの。愛した方がいいから愛しただけだと、ほんとうに思うの。」(138頁上段)
2章の最後で、衣津実はこのように愛に対して葛藤します。
自分の抱えている感情は愛だ!と胸を張って言えないけれども愛じゃないこともない!という気持ちの揺れ動きが克明に描かれていて、この箇所を読んでわたしはさらに愛を感じたのでした。
愛というのは「大好き」とか「愛おしい」とかだけじゃない、もっと複雑なものが入っていると思います。
しんどい、つらい、そんな気持ちが混ざりつつ、でも結局は一緒にいることを選ぶ、そんなめんどうくさい経路を辿るのが「愛」だと思うのです。
物語は悲しい空気をまとって幕を閉じますが、衣津実はこの物語を経て夫への愛を再認識したのではないかと、希望的観測ですがそう思いました。
子どものお世話にあたふたしているいま、この物語を読んで「愛」って複雑で面倒くさいよなぁとしみじみ感じました。
いま現在ささいなことで夫にイライラし、育児のささいなことで悩みまくっているのですが、自分にとって大切なことだからこそ妥協したくなくて、つい面倒くさい人間になってしまいます。
さらに、「愛」は自己満足・一方向的なものだよなぁということも感じます。
たくさん愛情を注いだからと言って育児がラクになるわけではないですし(エネルギー的な意味で)、悩めば悩むほどリターンが大きくなるというものでもありません。無償の愛とはよく言ったものです。
衣津実はこの物語内でたくさん悩み、衣津実なりの愛をあらわにしますが、衣津実の愛が報われるような結末にはなりません。
そういう残酷で悲しい面が描かれているところも、愛の複雑さを感じて「この作品は愛の物語だ・・」と強く思ったのでした。
愛すべき存在が増えたいまのわたしにとっては胸にグッとくる箇所の多い、切ない愛の物語でした。
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