こんにちは!
今日は文藝春秋の文芸誌「文學界3月号」を読みました。
巻頭の李琴峰「彼岸花が咲く島」の世界にのめり込みました!
 
 
「彼岸花が咲く島」は、とある〈島〉に流れ着いた少女が〈島〉の風習と歴史に染まっていく物語です。
 
 
少女は浜辺で倒れているところを〈島〉の住民に助けられますが、自分の名前やどこからきたのか、なぜこの〈島〉に流れ着いたのか、一切の記憶を失っていました。


少女がわかることは、この〈島〉では自分が母語とする言葉とは少しニュアンスの違う言語が話されていること、〈島〉に流れ着く直前に受けた身体の痛みだけでした。
 
 
少女を助けた住民の游娜(ヨナ)は彼女を「宇実(ウミ)」と名付け、彼女にこの〈島〉の生活やしきたりを教えてあげます。
 
 
この〈島〉は血の繋がりにこだわりがなく、子どもが産まれたら〈島〉全体で子どもを育てる仕組みがつくられていること。
この〈島〉の言語は〈ニホン語〉と、「ノロ」という歴史の伝承者のみが使う〈女語〉という言語の2種類があること。
〈女語〉は宇実が使っている言葉と非常によく似ていること。
「ノロ」は〈島〉の指導者として〈島〉の儀礼祭祀を行ったり、〈島〉の外に渡り〈島〉に必要な生活物資を輸入したりしていること。
〈女語〉という言葉のとおり、「ノロ」になれるのは女性だけで、男性は女語を学ぶことすらも禁止されていることなど。
 
 
そして宇実は「ノロ」を束ねる〈島〉の長とも言える「大ノロ」のところへ連れられ、「大ノロ」から「ノロにならなければ〈島〉から出ていってもらう」と言われます。


「大ノロ」の指示は絶対で、行くあてのない宇実は「ノロ」になるしかありません。
それは記憶をなくした宇実に〈島〉の歴史を背負ってもらうことで〈島〉の住民として認める、という「大ノロ」の意図があり、〈島〉の歴史の重みが暗示されてもいたのでした。
 
 
游娜も歴史の伝承者たる「ノロ」を志望しており、宇実の来歴やこの〈島〉の歴史に強い好奇心を抱いていました。


游娜の男友達の拓慈(タツ)もひそかに〈女語〉を話し、「ノロ」になりたいという思いを抱いていましたが、「ノロ」は女性にしかなれず、男性に教えたものは〈島〉を追い出されるという厳しい掟があり、その思いをひた隠しにして過ごしていたのです。
 
 
仲良くなった3人は、游娜と宇実が「ノロ」になり、拓慈に歴史を教えると約束します。


「ノロ」になるためには〈女語〉を習得しなければならず、母語とは違う言語にふたりとも苦戦しますが、ふたりは無事に「ノロ」になるための試験に突破します。
 
 
儀式を終えたふたりは「大ノロ」より〈島〉の歴史を伝承されるのですが、〈島〉の歴史は想像以上の重みがあり、ふたりのなかに深くのしかかってくるのです……。
 
 
この物語で描かれる〈島〉では、女性がリーダーをつとめ、血のつながりや性差にしばられない自由な共同体があり、「ノロ」たちの統制のもとに住民がのびのび暮らせる穏やかな世界がつくられています。
 
 
国のリーダーのほとんどは男性で、女性蔑視発言を「うっかり」してしまう(そしてそんなに悪いこととも思っていない)古きリーダーがいまだにはびこる日本に住むわたしにとって、この〈島〉は女性にとってのユートピアだなぁ・・としみじみ思いながら読みました。
 
 
価値観は時代を経てどんどん変わってきています。
ですが、「女性」「男性」という枠組みが変わることはなく、そして男性が女性よりも腕力が強かったり体力があるという生物学的な事実も変わらないため、ほんとうの「平等な社会」「自由な社会」になるためにはまだまだ道のりが長いと感じています。
 
 
この物語は「女性性」を描かずに「女性」のおかれている立場や葛藤を見事に書き表しています。


〈島〉では「ノロ」になること以外は男女の区別なく生活され、女性らしさ、男性らしさなどの性差の表現もほとんどありませんが、〈島〉だけで自立して生活をしていくことができない(物資を輸入している描写などから)ことや、どうして女性しか「ノロ」になれないのかという〈島〉の歴史の思わぬ背景から、女性が男性を「克服」することの難しさを強く感じたのです。
 
 
男性にもともと備わっている「力」が女性にとっていかに脅威であるか、そしてその脅威がいかに女性に刷り込まれているのかを考えさせられました。


〈島〉は女性にとって脅威のないという意味でユートピアではあるのですが、「自由」や「平等」からかけはなれた「一方の性をおさえつける」という方法をとっている時点でこの世界観にも限界があるのですよね・・
 
 
〈島〉の歴史を知った游娜と宇実は、「大ノロ」の意図を理解した上で彼女たちなりの結論を出します。


それはとってもシンプルなことで、たとえ過去に辛い歴史があったとしても「相手を信じる」ということです。


それは若くて楽観的な発想のようですが、女性が男性を「克服」するためのはじめの一歩が描かれているように感じました。
 
 
いまの社会は男女平等をめざし続けていますが、まだまだ「実質不平等」な社会は続くだろうと思います(昔にくらべてずいぶん平等になったとはいえ、まだまだ課題はあることがこないだの失言であきらかになったと思っています)。


そんな社会で生きているわたしたちに、この物語はひとつの「楽観的だけど大切にしていくべき答え」を提示してくれた、と感じました。
 

この物語の〈島〉の描写が日本みたいだけど微妙に違う絶妙な「別世界」になっているのがとても良かったです。


日本語と中国語?が混じったような〈ニホン語〉の軽妙なテンポや南国っぽい〈島〉の空気を想像しながら面白く読むことができました。

 
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