千葉で断続的地震と「スロースリップ」の謎
日本の他の場所でも起きている数千年前の巨大地震にとっての「空白」地帯
「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その535
└──── 島村英紀(地球物理学者)
千葉県の外房沖(いすみ市・茂原市のすぐ太平洋沖で)奇妙な地震が続いている。気象庁によると、千葉県東方沖を震源とする地震が先月27日から今月12日までの間に計33回に達した。マグニチュード(M)は今のところ5.2どまりで陸上での最大震度は4までだが、もっと大きいものが来ないともかぎらない。
3月11日で東日本大震災(M9)から13年。再びこのような状況が起きるのかと地元では戦々恐々だ。千葉県内のスーパーで水や非常食などが売れている。新型コロナウイルスが流行し始めた2020年には紙製品が不足する噂が流れ、トイレットペーパーやティッシュなどの買い占めが相次いだ。
ところで、これらの地震がよくわからない。
なぜ、ここで起きたのか。
もっと大きな地震に結び付く可能性があるのかは現在の地震学からは分からないのだ。
国土地理院のある研究者は陸側のプレートと海側のプレートの境界がゆっくりとずれ動く「スロースリップ」が起きていると主張する。
スロースリップとは断層の境界がゆっくり動くもので、低い周波数が出るのが地震波の特徴だ。
海底地震計を近くに置いて丁寧に調べないと分からない。ここ千葉県の外房沖の現場には海底地震計は置いていない。
これまでにスロースリップが確認されているのは、千葉県の外房沖では1996年5月、2002年10月、07年8月、11年10月、14年1月、18年6月の6回だ。
それぞれが2年から6年余りの間隔で起きているという。それまでは大きな地震は起きなかった。
今回の間隔は5年8カ月となる。過去ではおおむね10日前後、観測されている。
なぜ、千葉県の外房沖で起きたのか。スロースリップがなぜ、ここだけで起きたのか、なぜ数年ごとに起きるのかはナゾだ。
しかもスロースリップは日本の他の場所でも起きている。いままでは大きな地震はめったに起きなかった。
例えば、震源の真上にある三ケ日(静岡県)で東海地震(Mは想定8+)が起きる、すわ、と思いかけたこともあったが、なにごとも起きなかった。
もともと房総沖には巨大地震が何回も襲ってきたものの、人口や文化のせいか、京都や奈良に比べて昔の地震は知られることは少ない。1000年以上たどるのは難しい。
いまの首都圏に近いとはいえ、数千年前の巨大地震にとっての「空白」地帯なのである。
(島村英紀さんのHP http://shima3.fc2web.com/
「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 3月15日の記事)
(たんぽぽ舎メルマガより転載)