オラモ&東響 鳥と大気の精とドヴォルザーク8番 | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳東京交響楽団 第719回定期演奏会(4/20サントリーホール)

 

[指揮]サカリ・オラモ

[ソプラノ]アヌ・コムシ*

 

ラウタヴァーラ/カントゥス・アルクティクス(鳥とオーケストラのための協奏曲)

サーリアホ/サーリコスキ歌曲集(管弦楽版・日本初演)*

シベリウス/交響詩「ルオンノタル」*

ドヴォルザーク/交響曲第8番 ト長調

 

東響の2024/25シーズンの幕開けは、フィンランドの名シェフ、サカリ・オラモが初登場。同じくフィンランドのソプラノ、アヌ・コムシと共に、素晴らしいプログラムを聴かせてくれた。

 

1曲目のラウタヴァーラは、作曲者自身が録音・編集したという鳥の鳴き声とオーケストラが協演する。同様の趣向の「ジャニコロの松」を連想するが、こちらは「湿原」「メランコリー」「渡る白鳥」の3つの楽章ほぼ全編に渡って数種類の鳥たちが鳴き続ける(しばらくオケが休止する鳥のカデンツァ的場面もある)。鳥の映像に曲を付けたネイチャー系の映画音楽のように聴き易く、ホール内に清々しい空気が立ち込める。

 

2曲目のサーリアホは、20世紀フィンランドの詩人ペンッティ・サーリコスキの5つの詩に曲を付けた歌曲集。初演者でもあるアヌ・コムシ、混じりっ気なしの透き通った声は少女のようだが、技術的には相当高度な歌唱に聞こえる。ヴォカリーズで声を震わせる発声が頻出するが、コロラトゥーラというより痙攣のような切迫感がある。声によく似た音がオケからも聞こえ、声とオケが溶け合い、次第に、彼女は歌っていないのに、オケの音が声みたいに聞こえてくる。

 

休憩を挟み、濃紺のドレスに着替えたアヌ・コムシが、ルオンノタル=大気の精を歌う。シベリウスにこんな曲があったとは今回初めて知った。テキストは「カレワラ」から採られており、そのままクレルヴォかレンミンカイネンの一章のようだ。ハープ2、ティンパニ2と厚みのある編成だが、オーケストレーションは極めて繊細で、さざ波のような弦のトレモロが終始耳に残る。

 

メインのドヴォルザーク8番を聴くのは、あの嘘みたいな「映像ノット」以来。これが出色の名演となった。オラモの指揮は無理がなく自然で、特に変わったことはしていない安心感がありながら、驚くほど生気に充ち、彫りの深い、目の詰まったサウンドが引き出される。音そのものがいつもより一段大きく、東響の好調の証である弦がよく唸る。曲想もあるだろうが、何よりも音楽が大らかで、聴いていて多幸感がある。これまでに聴いた同曲中でベスト・パフォーマンスと言っていい。

 

サカリ・オラモ、いい指揮者だなぁ。ブランギエもポペルカも良かったが、ここ数シーズンで東響に初登場した指揮者の中で文句なしにピカイチ。楽団との相性も抜群で、熱烈再共演希望!