不思議、大好き! -8ページ目

不思議、大好き!

文章はすべてフィクション。ほぼ1話完結。

眠れない夜に思い出すのは、今までの色々なこと。

悲しいことは、この先にもたくさんあるんだろう。

なんにも心配いらない、と言えるほどの勢いはもうない。

目を閉じて、あちらこちらのドアをノックしてみる。

でも、どのドアからも返事はない。

独りぼっち。

半分は自分がそれを選び、もう半分は自分を取り巻く星巡りが招いた。

原因はなんでも、空の彼方からグッとフォーカスするみたいに、唐突に胸が締め付けられる。

両手を固めてじっとやり過ごす。


『大好きだから、ずっと。』

『なんにも心配いらない。』


魔法のように、目の前にこぼれ落ちた言葉は、どれが、何が、本当なんだろう。

結局、何も残らないんだろうか。幻なんだろうか。いつまで、こんな想いを抱くんだろう。

こんなことを考えているのを、彼女は、まだ、いや永遠に知らない。

今度はこぼさないように、掌を大事に天へ向けた。
目覚まし時計がなった。部屋は光に満ちていた。そんな中で目覚める。

時計は家を出るまでの時間を伝えていた。枕元には紺のズボンと靴下、ストライプの半袖が置いてある。はじめに靴下をはいて、着替える。

今日の学校のことを考えながら、身支度を済ませる。男友達と笑い声、含み笑いの女の子たち。ラップビートな高校生活が聞こえてきた。

あと一時間後には今日も間違いなくご機嫌な一日を迎える。待ち遠しいというほど遠い時間ではないが、心が騒いだ。すると、トースターから威勢の良い音が飛び出してきた。

トーストにバターをぬって、それをグレープジュースで流し込むと、スクールバッグを肩に引っ掛けてドアを開けた。

ローファーの歩く音が、晴天の中に響く。焦ることはないんだ。青空を眺めながら歩調を緩めた。

何者にも縛られてはいなかった。両手を広げて待ち構える今日という日に、ゆっくり近づきさえすれば良いんだ。ズボンのポケットに手を突っ込んで、すかした調子で歩みを進める。

学校では、授業に退屈しては居眠り、時折話す教師の脱線話を聞き込み、休み時間にはくだらない話に花を咲かせた。

お昼は食堂に駆け込み、焼きそばパンを買ってコーヒーを手間なく買って、友達との会話を弾ませる。

夕方からは雨が降り始めた。

教室の窓から正門を眺める。

まだ来ない、まだ来ない。まだだ、まだだ。自分に言い聞かせる。

担任がホームルームで明日の確認をしていた。そんなの聞かなくても分かる。窓から正門を眺め続けた。

ホームルームが終わりかけた頃、正門の隅に、モノクロの水玉が描かれたビニール傘が見えた。片手で自分の傘を持ち、もう片方に大きめの傘を持っている。パッと心に閃光が走った。

急いでスクールバッグを肩に引っ掛けて、帰りの挨拶もテキトーに、階段を駆け下りる。

玄関から正門までの直線をダッシュ。程よい雨が身体の熱気を冷ます。目の前の彼女にドンドン近づいていく。

微笑みと微笑みが交差する。整った小さな顔が瞳いっぱいに映った時、身体が浮き上がるような満たされた感覚に包まれる。何より、自分をこんな笑顔で迎え入れてくれる人が居ることに、心を焦がした。

彼女は自分の傘を閉じて、もう片方の大きな傘を開いた。一つの傘に2人が並ぶ。この空間は誰にも破ることはできない、そう強く思った。

そして、繋がれた手は堅くて、どんなことがあっても離されることなんかない。

二人で一人。互いの皮膚は融解して、互いが互いに混ざり合おうとする。魂が溶け合うほど。

薄い雨雲は空を覆って一面となり、時はおそろしくゆっくり流れた。でも、この小さな空間では様々な甘い思いや出来事が起きていた。繋がれた掌から言葉以上に互いの思いを交信させていた。

二人が歩む前途にはいくつもの困難が待ち受けているのだろう。大人はこぞってそう言った。でも、何もかも上手くいく。

そう強く思えた。

繋がれている限り。

どんなときも銀の裏地を歩むことができる。





そうして一日が終わり、また一日が始まる。



リリックに、ピースフルに。
ささやく冗談で、僕らは繋がれていた。目には見えない、交わされる言葉は羽毛のように頬を撫でた。幻のような時間が幾度も目の前を流れては消え、消えては現れる。

夜道は閑散とした雰囲気を醸していた。自然とお互いに注意が向く。見つめるものは相手と交わされる言葉だけだった。

埃を払い、汚れを洗い流すように、心は浄化されていった。

でも、僕には分かっていた。

こんなことはもう無いのだ、と。

いつまでも続きはしない。はじまりとおわり。必ずセットで訪れる。

あと何時間かすればこの時間は終わりを告げる。

遠くで聞こえる。子どもの泣き声や犬の咆哮。喧騒に気が揺れた。

ねえ、こんなことってあると思う?

どんなこと?

今この瞬間が永遠に続くこと

そうなるといいね

互いに微笑みがこぼれた。

時がゆっくり僕らを二人の世界から押し出そうとしていた。腕時計が気になった。でも見ない、見たくない。

あの日、この時。僕らは時折そうして思い出すだろう。束の間の永遠を願ったことを。

死の淵を辿るとき、僕は何を想うのだろう。誰にも分からない。誰にも伝えられない。

そうであっても、自分が何を振り返るのか気になった。

千の夜のひとつ。夜空にはひときわ輝く星があった。きっと僕はそれを凝視しながら、触れられずに終えるのだろう。



そう思うと、手を取って、握った。
答えは自分で出さなきゃいけない。

誰かに委ねることもできる。そう思っていた時期もあった。12年くらい前はさ。

答えは自分の中にある。

そうカッコつけることもできる。でもこれは残酷なほど裏切られる。裏切られた数は両手の指では収まらない。

答えは光の射す方にある。

そう期待することもできる。窮屈な日常にそっと差し込む一筋の光。でも、気づかないことの方が多い。

身体か冷えないように、襟元を立てて、ポケットに手を突っ込む。隠すように覆う衣服は、護りでもあった。脆弱な意志と忍耐を隠し、護るもののように。

たまには、さらけ出してみたりもする。いつもと反対のことをしたら、答えが見つからない日常の反対が起こるんじゃないかと思って。衣服を脱いだ勇気で、一瞬ひらめいたように思えても、そんなの幻想である事の方が多い。

そして風邪を引く。

心にウィルスが侵入し、どんどん健全さを損なわせる。日常の僅かな変化は、希望よりも、心をこじらせるウィルスの方が圧倒的に多いことに改めて気付く。ウィルスに羅漢した僕は凍えていく。

世の中の圧倒的多数の物語は、心の疾患や凍えから救うのは、真実の愛だ、と説く。僕らはそうした論調を刷り込まれ、縛られている。こうしてる今でさえ、そうかもしれない、とすら考えてしまうほどに。

でもさ、真実の愛ってなんだろうと思う。多様性の海原を漂う僕には見当が着かない。画一的な答えを恋々しく想ったりもする。

上着の襟を立てて、ため息を吐く。

そして、間違いとか誤りとかの前に、答えは自分で出さなきゃいけない、って再び思う。

でもさ、一体何の答えなんだ。ほら、それすら見失ってるじゃないか。中心となるもの、軸となるものすら、見えてはいない。

ただただ現実を受け容れることなんだろうか。イエスかノーかの問題なのだろうか。答えとは。

そんなのさ、答えるまでもない。

だって、イエスかノーかを答えようと答えまいと、躊躇しようがしまいが、自ずと明日はやってきてしまう。



答えるまでもない。



答えは答えるまでもない。
心が騒がしい。

なんだろう、って思う。周りにいる人たちが、僕に聞こえないようにコソコソ話をしているよう。僕はそれにあまり気を払ってはいないのだけれど、落ち着かない。

軽く伸びをする。3連休ゆっくりできなかったからかな、そう思ってみる。でも、つじつまが合わず、解決しない。

近くの女性の顔をのぞいてみる。髪の毛が艶っぽくて、眉毛が綺麗なアーチを描いている。だからなんなんだ。

ただ少し気になった。彼女は電話している。もちろん僕の話ではない。

僕には電話すべき相手がいなくて、彼女にはいる。煙草を片手に頷いたり、喋ったりしている。だからなんなんだ。

僕は何が気になっているんだろうか。意識を細切れにして、一つ一つ手に取ってみる。MRIみたいに。

集中していると、呼吸が浅くなる。特に吐く息が短く、細くなる。身体に僅かな負担が掛かり、心が騒ぎ出したので、止めた。

髪の毛が伸びてきたことを考えた。耳が隠れてる。手でかき分けて、耳を出す。

もちろん何も変わらない。何も変わらないことの連続。グラッと支柱を傾けるようなことは起こらない。

でも、僕は知っている。自分の支柱をグラつかせるような事がないと物語は始まらない。そしてその支柱を揺さぶるような事とは、とても些細な事のはずだ。

僕は再び耳を開く。見えるものなど当てにならない。だから、耳を開く必要があるのだ。

世の中は雑音に満ちている。騒がしいことだらけ。でも、その中に聴き逃してはならない物語の欠片が潜んでいる、きっと。

きっとね。
空がね

暗いトーンのグレーなんだ

汚れた雪玉みたいな雲が覆ってる

もちろん、フリーズパックされたみたいに寒い

何だろうね

とても暗い気持ち

痕跡を残さないスマートな暗殺者に付け狙われてるよう

知らず知らずのうちに、窮地に追い込まれてるみたい

後ろを振り返っても、誰も、何にもありゃしない

暗殺者の手に掛けられたときには、最初から僕なんていなかったみたいに、跡形もなくなってる

あるいは、君は最初からいなかったみたいに

そこには何にもない



そんなことを考えてる
闘いは、終わってはいなかった。

7年前に僕の勝利で終結したと思っていた。

でも、そうではなかった。

この事実を、突然つきつけられた時、僕はひどく困惑した。

一体どういうことなんだ…一体どういうことだ…何が起こったんだ

緩いスピードで駆け巡る。何周しても、思うことは同じだった。どういうことなんだ…。

僕は勝利などしていなかったということなのか。うつつを抜かしてた自分の阿呆面が浮かび、悔しかった。でも、じゃあ、一体いつまで闘えばいんだ…。

もうごめんだ。闘う気力なんか、もう7年の間に消え失せてしまっている。いや…僕はまた闘わなきゃいけないんだろうか…。



僕はきっとこの7年間、見失っていたんだろう。自分が何者か、自分が選んだ環境が何であるか。大切なことを損ない続け、見落とし続けたんだろう。

まだ混乱は続いてる。態度が決まらない。でも、そんなことには構わず…また…



闘いは始まったばかりだ。

彼女は平日の昼間にカフェで食事を摂っていた。カフェは混雑していて、周りは忙しない。でも、彼女は仕事を休んでここにいる。

最初は黙々と携帯ゲームをしていた。カラフルなビーズをくるくる回して、揃うと派手なアクションで消える。特に考えなくてもただ回しているだけで、画面に敷き詰められたビーズはどんどん消えていく。

ときどきホットチョコレートを飲んでみる。熱い。舌先を火傷した。

顔をしかめる。世の中はスピードを上げて人々の要求する物を差し出すのに、この飲み物ときたら、なんてマイペースなんだ。そんなことを考えた。

再びゲームの画面に目を移した。でも今度はなんだか気持ちが乗らなかった。もともとそんなにノリノリでやっていたわけではなかったが、せわしくクルクル回るビーズを見るのに嫌気がさしていた。

画面を切って、辺りを見回した。スーツを着ている人がたくさんいた。その人たちは共通してパソコンのメール画面を開いていた。

みんな男性だった。仕事をしていない自分はなんだか肩身が狭かった。でもなんだか…。

なんだか間違ってるよ! 彼女の心の中にふとそんな強い衝動が浮かび上がった。口元に手を添えて大声で叫びたくなった。

すると、となりのサンタクロースみたいな口髭をはやした中年男性が彼女に険しい視線を送った。彼女は気詰まりになって、うつむいた。うつむいたときに、鼻筋に髪の毛が触れた。

お気に入りのトリートメントの匂いがした。このトリートメントは休日専用だった。デートの前にも付けた。

でも、そんな自分のこだわりを誰も気づいてはくれない。それについても彼女は叫びたくなった。今日は特別な私なの!

でも彼女は思った。何で気付いて欲しいことに気付かなくて、さっきのおじさんみたいに気付いて欲しくない事ばかり人は気付くんだろう。全然うまく回ってない。

でもいいの。いつか私の気付いて欲しいことだけ気付いてくれる素敵な男性はいるはず。そう思いたいなぁと思った。

たとえ今はうまく回らなくても、いつかうまく回る。そんな時がくる。そんな時がきて欲しい。

そう思いながら彼女はまたビーズを回し始めた。

人にはそれぞれ物語がある。

君にも僕にも、それぞれ。

君の物語と僕の物語。

それぞれが繋がるとき、あるいは重なるとき、新たな物語が生まれる。

でもまだ、その物語は地中深く眠っている。

僕らが出逢い、互いに触れあうとき、その物語は目覚める。

目覚めたその物語は、初めて僕らのいる世界を目にする。

僕らもその物語に目を奪われるだろう。

でもまだ僕らはその物語を知らない。

一体どんな物語が僕らの間に潜んでるんだろう。



そんなことに思いを馳せる。

特に僕の中に物語が不足してるときには。