参院選。私は期日前投票したのだが、配布された選挙公報を見ながら「外国人問題」が結構な争点になっているのを知ってちょっと驚いた。一体何が「問題」なのか。日経電子版に掲載された記事から数字を拾いつつ考えてみた。
外国人の滞在増加で治安悪化? 刑法犯は20年で大幅減(nikkei.com 2025.7.15)
〇外国人刑法犯の検挙件数は23年に1万5541件、前年比で2割増えたが、05年当時4万件超だったことを考えれば大きく減っている。しかも、この間旅行客を含めると訪日外国人は3687万人と5倍以上に増えている。数字で見る限り外国人のせいで治安が悪化しているとは到底言えない。
〇出入国在留管理庁によると、外国人の不法滞在者は25年1月時点で7万4863人。1993年の4分の1で、2010年以降は10万人を下回る。不法滞在はもちろん認められないものの不法滞在者が急増しているわけではない。
外国人、医療や生活保護で優遇? 未納4000億円は「誤り」(nikkei.com 2025.7.18)
〇外国人が日本の制度にただ乗りしているとの批判がある。
国保に対する外国人の未納額が「4000億円」は全くのデマ。厚労省データによると国保の未納額は日本人も含んだ全体でも22年度に1457億円だった。厚労省の別の調査で、保険料を支払う被保険者総数に占める外国人の割合は23年度に4%。一方で総医療費のうち外国人向けは1.39%にとどまった。黒字。
そもそも国保は保険証の提示ができない時点で10割負担と決まっている。「タダ乗り」などできない。あれこれ言い訳して食い逃げ同然に逃げる者もいるかもしれないが、それは日本人だってしているだろうと私は思う。外国人にだけ焦点を当てるのは悪意を持った作為だろうと思う。
〇「生活保護を受給している世帯の3分の1は外国人」というのも全くのデマ。厚労省によると、23年度に生活保護を受給した世帯は全国で165万478世帯。このうち外国籍の人が世帯主のケースは4万7317世帯だった。生活保護の受給世帯に占める比率は2.9%。
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たとえば名作と言われるような映画や文学作品、それがそれがどこの国の映画、文学であっても私たちはそれを通じて笑ったり泣いたり、感動したりして「人間はみな同じなんだ」と確認することができる。スタジオジブリの「火垂るの墓」はNetflixを通じて世界190以上の国と地域で配信されている。それだけの人々の共感を呼び起こしていると言って良いと思う。
ところが人間すべてに共通するそのような心性を顧みることなく「違い」だけをクローズアップして差別やヘイトをまき散らすとはどういうことか。それも「意図的なデマ」としか思えない数値をばらまいているように思える。仔細を見ていけば法の不備もあるだろうし、改善すべき点は多々あると思う。私が願うのは日本人も外国人も平等公平に扱えという事に尽きる。
そもそも「外国人」という言葉には最初から「私たち日本人とは違う人」という意味が潜在しているように思えて私は好きではない。日本人がたとえ無意識であったとしても「違う人」という意識を持てば、その自然な反応として彼ら外国人は日本社会に「壁」を感じるようになる。やがては同国人ばかりが集まって集住するようになるだろう。日本社会に居場所がない、同化できないというのは、居場所を提供できないという意味で主に日本側の問題だと私は思う。外国人問題ではなく「日本人問題」のような気がする。
本当に必要なのは共生から同化へ続く道筋を作ることで、単純素朴と思われようと必要なのは「人間はみな同じ」という思い、私たちの「共感力」ではなかろうか。
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にもかかわらず、このままでは「日本が壊れる」などと主張する人間がいる。ずいぶん臆病なと思うし、この程度のことで日本が壊れるなら壊れたほうがいいとすら思う。
もう何年も前のことで、番組名も忘れてしまったがダライ・ラマ14世がインタビューに答えて「50年の歴史しかない中国共産党に2000年の歴史を持つチベットを滅ぼすことなどできない」といった発言をしていたことを思い出す。歴史や文化の重みというのはそういうものなのだ。
たかだか数百万人の外国人が日本に住み着いたからと言って、日本の社会や文化が激変するわけがない。私たち日本人が対応を間違わなけれな外国人もやがては日本社会に同化するようになる。長い時間を必要とするだろうが、彼らにはそれ以外に道はないのだから。私はそう信じる。
だから恐怖を煽るなどというのはもってのほかで、デマがきっかけとなった関東大震災の朝鮮人虐殺事件では6000人もの死者が出たという説もある。SNSの濫用であらゆる分野でデマが横行、それも当時とは比較にならないほど伝播するスピードも広がりの大きさも違う。デマを信じて浮足立つ事ほどおそろしいことはない。
先般の米騒動の折、「古古米は一年たったら家畜のえさ」と言った政治家がいた。おそらくは「食べられた代物ではない」と言いたかったのだろうが、当人を含めて実際に食べて発言した政治家はいたのだろうか?家畜の飼料になることは事実としても、食べたこともないのに先入観で言ったとしたらきわめて質の悪い印象操作でデマに等しい。
実際に放出された備蓄米を食べた消費者の感想はそんなに悪くない。つまるところエビデンスのないところで私たちは簡単に印象操作されてしまう。その操作されることの怖さをもっと知るべきだと思うのだ。
今、同じように外国人の規制を訴える政治家は意図するしないにかかわらずエビデンスのないところで発信していないか、外国人が生きる現場を知ったうえで、外国人の声を真摯に聞いた政治家はいるのだろうか?
外国人には参政権がない。だから票にはならない。日本人の話だけ聞いて「票」になりそうな言説を声高に叫んでいるだけではないのか。ここにも印象操作に乗った人間がいる可能性は大いにある。そんな気がする。
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以前、放送大学に「日本語とコミュニケーション」という講座があり、その中で外国人が多く住む三重県伊賀市を取材した放送があった。制作されたのは2015年でもう10年前になる。当時の市の人口約9万5千人のうち4千300人、4.5%が外国人という環境で、それもかなりの多国籍で市役所の案内表示など12カ国語で書かれたり、小学校も子供たちの母語に合わせて教室名などが4か国語で表示されていたりする。廊下には「おはよう」「ありがとう」「ごめんなさい」といった言葉が4か国語で張られていて日本人の子供も外国人の子供も互いの存在を違和感なく認め合えるような環境づくりが細かな配慮をもってなされていた。
そして2023年現在。市の人口は8万6千人と減り、外国人の数は6千人、約7%と増えている。が、この間、日本人と外国人の間でニュースになるような目立ったトラブルは起きていない。AIで検索する限り、そうしたニュースは出てこない。
伊賀市が外国人対象にアンケートを取った報告書によると、市に在住する外国人の出身国は46カ国に増えている。以前は南米系が多かったのに対し、今はアジア出身者が増えているようだ。
そして、そのアンケート内容からは総じて伊賀市は外国人にとって住みやすい街となっている様子がうかがえる。大変興味深いのでリンクを貼っておく。
やればできる!