映画館で映画を見るのは何年ぶりだろう。ちょっと記憶にない。たまたま難民支援協会からのメールでこの映画のことを知り、見てみたいと思った。
「LOST LAND」
ミャンマーの少数民族ロヒンギャの家族が迫害を逃れ、難民となってマレーシアへと逃れてゆく物語である。物語の中で政治的な文言や内戦の実情など一言も語られていない。ひたすら難民となって逃れ行く旅の現実を追ってゆく、いわばロードムービーである。テーマが重いだけに、映画の出来不出来をここで語るつもりはない。難民になるとはここで語られている以上に、はるかに過酷な事だという事は誰でも想像できるのだ。
旅の途中で、仲介業者に金をむしり取られたり、人身売買の輩に捕らえられたりと、そうした現実は描かれているが決して血なまぐさい残酷な作りにはなっていない。「難民」という自身の状況も漠として理解できない幼い少年、自分を守り助けてくれた姉も死にひとりになった少年の姿に託されているのは「希望」というよりは、生き延びることへの「祈り」のようなものだろう。
これを日本人の藤元明緒監督をはじめとする日本人スタッフがロヒンギャの人々の出演で撮ったという事は特筆されていいと思う。

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ミャンマーという国は、イギリスから独立するときの経緯から、植民地時代に統治の一翼を担って親イギリスだった民族とそこから疎外されていた民族との間で内戦が始まり、それが今日まで続いているのである。
一説に世界最長の内戦ともいわれているが、歴史的背景を想起するなら、ロヒンギャに対するジェノサイドはイスラム教徒だから、というのは「軍は仏教の守護者」というプロパガンタに過ぎないのだろう。実際、ロヒンギャだけが内戦の当事者ではないという事は知っておいてよいと思う。特に2021年のクーデター以後は仏教徒やキリスト教徒を主とする民族も民主化を求めて内戦の渦中にあり、今はそちらが内戦の主舞台となっている。
そもそもミャンマーは多民族国家で、政府の公式発表ではミャンマーには135の民族が存在し、それぞれ違った言語を使っているとされる。人口の約7割を占める最大民族ビルマ族、タイ族に近い系統のシャン族、南東部に多くキリスト教徒が多いカレン族など主要8民族とそこから枝分かれした小さな民族を合わせると135という数字になるらしい。それも分類の仕方によっては150になるという話もある。
言語をとってもシナ・チベット語族、タイ・カダイ語族、オーストロアジア語族、インド・ヨーロッパ語族と4つの語族があり、ミャンマー語(ビルマ語)が公用語にされているとはいえ、ちょっと地方に出ただけで言葉が通じないという事はザラにあるようである。
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2025年6月現在で日本に在留するミャンマー人は16万人、2021年の軍事クーデター以降、日本に来るミャンマー人は急増しており、今年2026年現在の推定では18万人ほどと思われる。そのほとんどが技能実習や特定技能、留学生といった正規のビザで在留しているが、難民申請したミャンマー人も5000人前後はいると思われる。国籍別の申請者数が年によって非公表のケースがあるため正確な数字はわからない。ただ推定できる範囲の数字を前提にした時、実際に難民認定された者が100人程度というのはあまりに少ない。難民条約を批准しながら世界で最も難民認定に消極的な日本という国のこれが実態である。
ミャンマーに限らず世界中で大規模な難民が発生しており、「国民国家」などという概念が崩壊しつつある現在、もはやミャンマーは南アジアの「遠い国」ではないのである。日本にもこれからあらゆる国・地域から人々がやってくる。その意味で「クルド」も「イラン」も遠い国ではない。世界のあらゆる地域が難民、移民を受け入れ、多民族化してゆく中で文化も言語も混交してゆく、私達はそんな時代の入り口に立っている。日本もその例外ではあり得ない、私はそう思う。
「日本の美しい文化を守れ」という保守主義者のホンネをつき詰めると、「日本は鎖国すべき」といってるように聞こえる。何という時代錯誤。私はそんなことを考えている。

(追記)
1.2024年1月25日に名古屋高等裁判所がロヒンギャの難民申請について下した判決がある。
それによるとロヒンギャという「特定の民族に属すること自体が、難民該当性を基礎づけ得る」と判断、原告を難民認定するよう国に命令を出している。
ただし、これはロヒンギャであることだけで自動的に難民認定するものではなく、あくまで「迫害の恐れを基礎づける強い事情になる」というもので、申請者個人の審査は残っており、いわばハードルがいくらか下がったという評価が正しいようだ。
2.日本で暮らすロヒンギャの人々で難民認定されたものはごく少数(民族ごとの数字は発表されてない)とされているが、実際に暮らすロヒンギャの人は数百人はいるとされている。これは、ほとんどが「人道的配慮」による在留許可と思われる。


