剣客商売73 | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

何度も映像化されている池波正太郎の人気長寿シリーズに『剣客商売』がありますが、今回紹介するのはフジテレビ系列で1973年4月7日~9月1日に放送(全22話)された最初のテレビドラマ化作品。

京都・大原の無外流の道場で修行した秋山大治郎(加藤剛)が江戸に戻ってきます。父親・小兵衛(山形勲)は37も齢が違う若い百姓娘おはる(梶三和子)と所帯を持っており、大治郎に道場を譲って鐘ヶ淵に隠居。大治郎の稽古は、重い棍棒で素振り千回というもので、弟子は三日と居つきません。近所の者や小兵衛が見かねて、もっとイイ加減に弟子を扱うように忠告しますが、カタブツにして純朴な性格の御当人は苦笑いを浮かべるだけ。

『剣客商売』は、秋山小兵衛が主人公で、藤田まことの小兵衛が極めつけになっていますが、これは加藤剛主演で息子の秋山大治郎が主人公です。小兵衛は山形勲が演じています。山形勲といえば東映時代劇で悪役が多く、原作のイメージとかなり違うのですが演技力があるので違和感がありません。小兵衛は剣の腕前だけでなく、さまざまな人生経験を積んだクセ者で、御用聞きの弥七(山田吾一)など市井の者に慕われ、老中・田沼意次(松村達夫)にも信頼されていて、大治郎がいざというとき力を借りる、着かず離れずの間柄。主人公でなくても山形勲が主演した時代劇は、私が知る限りでは映画・テレビを通じてこの作品だけじゃないですかね。山形勲のことを知りたくても世に出ている文献資料が少ないんですよ。舞台・映画・ラジオ・テレビとかなりの本数の仕事をこなしながら、キャリアの全貌がほとんどあきらかにされていないのが残念。

池波正太郎の原作をドラマ化しているので、藤田まことや北大路欣也の『剣客商売』に出てくるエピソードと同じものばかりですが、主役が大治郎なのでやたらとモテるんですな。原作にない飯屋の女主人おかよ(うつみみどり)、おかよの妹で口のきけないおぬい(木村由貴子)、弥吉の妹おとき(関根恵子)、原作では結ばれることになる田沼意次の落し種で凄腕の美人女剣士・佐々木美冬(音無美紀子)が、大治郎を巡って恋のさやあてをします。大治郎は恋とは無縁で、おかよの弟・太吉(簾内滋之)と独楽遊び。

第1話「父と子と」は、異母兄である地回りのヤクザ(上野山功一)に悩まされている辻売りの鰻屋・又六(松山省二)に大治郎が度胸をつける物語。

第2話「女武芸者」は、自分より弱い者の妻になる気はないと言っていた美冬が、自分を襲ってきた剣客・浅田虎次郎(近藤洋介)を倒した大治郎に惹かれ始める物語。

第3話「剣の誓い」は、私の好きなエピソードでして、大治郎の剣の師匠である嶋岡礼三(木村功)と長年の宿敵である柿本源七郎(織本順吉)の対決を描いています。柿本は心臓を病んでおり、歩くのも困難な状態。柿本の弟子・伊藤三弥(藤間文彦)が独断で嶋岡を弓で射抜きます。嶋岡は命をとりとめたものの動けば血が噴き出す重傷。柿本と嶋岡はかねての約束通り果し合いに臨みますが、刀を構えて対峙したまま息が絶えます。木村功と織本順吉の老剣客ぶりがグッド。大治郎は伊藤三弥の右腕を斬り落としますが、これが遺恨となって、第5話「妖怪小雨坊」では三弥と三弥の異母兄・小雨坊(寺田農)に狙われます。藤田まこと版では遠藤憲一が小雨坊を演じていましたが、寺田農も不気味感があって悪くありません。第6話「まゆ墨の金ちゃん」では、三弥と小雨坊の父・伊藤彦太夫(見明凡太郎)が息子を倒した大治郎の暗殺を村垣道場に依頼。村垣道場の内山(柳生博)は、まゆ墨の金ちゃん(財津一郎)に助っ人を頼みます。最初は乗り気じゃなかった金ちゃんですが、大治郎の腕前を見て剣客としての血が騒ぎ、大治郎と対決。財津一郎が抜群に上手くてグッドです。

他にも印象に残るエピソードがとしては、愛しあいながらも敵同士となった男女(田浦正己と鮎川いづみ)を大治郎が同門だった浪人(御木本伸介)と一緒に結ばせる第7話「雨の鈴鹿川」や、端役(セリフなし)時代の松平健が出演(どこに出ているのか探すのに苦労)した第19話「忘れた顔」があります。

最終話「明日への旅立ち」は、大治郎が大阪で知りあい。親しくなった浅岡鉄之助(新克利)をつけ狙う平山市蔵(滝田裕介)との対決。北大路欣也版の「婚礼の夜」と同じエピソードですが、平山市蔵の剣客としての生き方に比重をおいた内容になっていました。大治郎が平山の遺髪を持って平山の故郷へ旅立つところでエンド。

良質な作品ですが短命に終わったのは土曜日8時という時間帯が悪かったようです。なにしろ裏番組に、『8時だよ全員集合!』と『全日本プロレス中継』があったんですからね。ちなみに私は、『全日本プロレス中継』を観ていました。