これまで鞍馬天狗を演じた役者は数多くいますが、物静かな中に毅然とした緊迫感があって、子供に対して優しさと厳しさ見せる嵐寛寿郎の鞍馬天狗が極めつけ。アラカンの鞍馬天狗は40本あって、中でも美空ひばりと共演した三部作は高評価。
『鞍馬天狗・角兵衛獅子』(1951年・松竹/監督:大曾根辰夫)
お金を落として困っている角兵衛獅子の杉作(美空ひばり)に金を渡したのが鞍馬天狗(嵐寛寿郎)だと知って、角兵衛の親方・隼の長七(加藤嘉)は新選組を案内して天狗の住居を襲撃。鉄砲で狙われている天狗を救った杉作を長七が折檻。そこへ天狗が現れて杉作を長七から救い出し、西郷隆盛(三島雅夫)に預けます。天狗は倒幕の志士の名が記された密書を奪いに大阪城へ潜入。密書は焼却したものの、天狗は捕えられて水牢へ。天狗の仲間・黒姫の吉兵衛(川田晴久)と杉作が、天狗を助けに大阪へ向かいますが……
“春風駘蕩、春たけて、東山36峰、静かに眠れば、賀茂の河原に千鳥鳴く……”と、無声映画のようなナレーションの後に内容を紹介する川田晴久の歌(川田節)が流れ、続いてひばりの歌(旅の越後獅子)が流れるという、これぞ娯楽映画。
鞍馬天狗といえば、杉作がつきもので、これまで多くの杉作役がいましたが、チャンバラ映画の諸先輩が口を揃えて言っていたのが、ひばりが最高! 私はと言うと、やっぱり、ひばりが最高!
当時、ひばりは14歳。アラカンがひばりについて語っています。「美空ひばりにはタマゲた。まあゆうたら子供の流行歌手ですよってな。多くは期待しませんでした。ベルさん(山田五十鈴)のふんする女間者が天狗の命を狙うて、逆に救われます。一つ家におりまして、次第に心をひかれていく。杉作が嫉きますねん。男の子やない女の色気を出しよる。あの山田五十鈴に対抗しよる。これまでの杉作とひと味ちごうたんです。第二作『鞍馬の火祭』、第三作『天狗廻状』と、美空ひばりで人気倍増や。天性のものですわな、あれは」(竹中労:著の『鞍馬天狗のおじさんは』より)
鞍馬天狗といえば、近藤勇。月形龍之介の近藤勇との対決シーンは最高。これについても、アラカンは語っています。「立ち回りは、やはり月形龍之介です。迫力が違いますのや、並の殺陣と。京都の東寺、早朝のロケです。五重塔を背後にして、切っ先を三尺ひらいてワテは青眼の構え、テキは大上段。しばらく睨み合ったまま、はいなほんの数秒ダ。これがまことに長く感じる。文字通り息詰まる間をおいてエイッヤーッ。双方もろ声発して一閃、また一閃。殺陣師につけさせんとブッツケ本番。一発でOKが出た、汗がどーと流れました」(竹中労:著の『鞍馬天狗のおじさんは』より)
『鞍馬天狗・鞍馬の火祭』(1951年・松竹/監督:大曾根辰夫)
鞍馬天狗(嵐寛寿郎)が、長州に逃れた三条卿の密命を受けて京に帰ってくると、京の町では偽天狗が悪行を働いています。国学者の家に預けられていた杉作(美空ひばり)は、勤皇公家の白河卿(高田浩吉)と所司代に捕まりますが、天狗が白河卿を救出。しかし、白河卿に三条卿の密命を伝えても信用されず、逆に疑われる始末。国学者の娘・千春(岸恵子)と杉作は屯所より許されて帰りますが、国学者は捕えられたまま。国学者に破門されていた桜町(黒川弥太郎)が千春に言い寄りますが、天狗が現れ、桜町を追い払います。天狗は国学者を助け出すために黒姫の吉兵衛(川田晴久)に情勢を探らせると同時に、偽天狗を捕えるべく……
無声映画のようなナレーションに続き、「天国と地獄」の曲にのって、数頭の騎馬が疾駆。そして、川田晴久が川田節で内容を紹介し、美空ひばりの歌が続くという前作と同様なオープニング。ストーリー展開によどみがなく、快調に進みます。アラカンのチャンバラもさることながら、アラカンと対決する偽天狗の黒川弥太郎がストーカー的変質性を見せてグッド。黒川ストーカーに狙われるのが、デビュー間もない岸恵子で、これが実に美麗なんです。ひばりは、前作と比べると出演シーンが少なく不満で~す。
『鞍馬天狗・天狗廻状』(1952年・松竹/監督:大曾根辰夫)
何者かが新選組に知らせる天狗廻状により、勤皇浪士が次々に捕えられます。徳川幕府に対して家名回復を図ろうとする宗像左近(三島雅夫)は浪士狩りに狂奔。しかし、常に新選組に先を越されています。二人の勤皇浪士が新選組に捕まったのを目撃した杉作は、桂小五郎(高田浩吉)と会談中の鞍馬天狗(嵐寛寿郎)に注進。天狗は二人を救い出し、左近の兄・近江守(三島雅夫の二役)の手助けで、伏見から船で逃します。近江守は勤皇の味方で、近江守に相談に行く桂小五郎のことを知った左近は、兄を監禁して身代わりとなって桂を待ち受けますが……
無声映画のようなナレーションに続き、ローン・レンジャーのように「ウィリアム・テル序曲」の曲にのって、白馬に跨った鞍馬天狗が疾駆。そして、川田晴久が川田節で内容を紹介し、美空ひばりの歌が続くという前作と同様なオープニング。3回続けられると、飽きてきますな。父・左近の行為を心配する娘(藤田泰子)と若侍(北上弥太郎)の恋をからめ、ストーリーはよどみなく展開。美空ひばりの出演シーンは前作と同様に少ないで~す。





