橋蔵の若さま侍捕物帖(2) | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

『若さま侍捕物帖・紅鶴屋敷』(1958年/監督:沢島忠)は、シリーズ7作目。

船祭りの見物にお糸(花園ひろみ)と漁師町にやってきた若さま(大川橋蔵)は、幽霊が出るという噂のある紅鶴屋敷の女中お千代(桜町弘子)と出会います。紅鶴屋敷は江戸の商人・越後屋晴左衛門(原健策)が買い取って住んでおり、晴左衛門の周りには、晴左衛門に恨みを持つ甥の清吉(片岡栄次郎)、漁師町を支配する網元の茂兵衛(進藤英太郎)、茂兵衛の家に居候している浪人・半次郎(河野秋武)など、胡散臭い人物がいっぱい。村人に慕われている覚全和尚(月形龍之介)も腹に一物ありそう。江戸から帰ってきた晴左衛門が殺害され、死体の上には紅鶴。江戸でも死体の上に紅鶴が置かれた殺人事件があり、岡っ引の遠州屋小吉(沢村宗之助)が若さまを訪ねてやってきます。半次郎が茂兵衛に殺され……

紅鶴屋敷に隠された5千両の金を巡る抜荷買いの仲間割れが事件の真相なんですが、キャストを見れば黒幕はすぐにわかります。紅鶴屋敷で働くお千代の恐怖を主軸にした時代劇スリラーを狙った作品ですが、従来の“若さま侍”シリーズと違って若さまが活躍する場面(チャンバラはラストの大立ち回りだけ)が少なくて評判は良くなかったようです。お千代の視点で描かれていたものが途中で変わるのも、作品的にまずいですね。ショッキング演出が印象に残る異色作ではありますが、失敗作で〜す。

 

『若さま侍捕物帖』(1960年/監督:佐々木康)は、シリーズ8作目。

若さまがお澄(花園ひろみ)の矢場で遊んで、お糸(桜町弘子)がヤキモキしている頃、御用商酒問屋伊勢屋の清酒で毒見役が死に、酒蔵見廻り役も殺されるという事件がおきます。伊勢屋の家族は遠島、店は取り潰しと決定。伊勢屋の娘・おちか(三田佳子)を励ます若さまを雁金屋(三島雅夫)配下の松造(吉田義夫)たちが襲います。雁金屋はお納戸役の鈴木采女(山形勲)に賄賂を送って御用商になろうとしていたんです。采女は、老中・堀田加賀守(坂東好太郎)や御後室・英明院(花柳小菊)の権威を利用して私腹を肥やすだけでなく、おちかを自分のものにしようとしています。伊勢屋の取り潰しも采女が仕組んだことなのですが、与力の佐々島俊蔵(千秋実)や岡っ引の遠州屋小吉(本郷秀雄)では手が出せません。そこで若さまが乗りだし、身の危険を感じた采女は家臣の山田(加賀邦男)に命じて、悪名高い地獄道場の熊谷(戸上城太郎)たち剣客を雇い、若さまを襲撃。おちかの活躍で采女の悪事の証拠をつかんだ若さまは、英明院の宴に月美香(藤田佳子)の琉球一座と一緒に乗り込み……

お馴染みの悪役たちに、華やかな女優陣。美女に囲まれて、襲ってくる悪党たちは難なく撃退。ラストは黒幕退治の大立ち回りと、大川橋蔵のワンマン映画です。デビュー当時はフニャフニャした殺陣で今イチでしたが、この作品の頃には腰が決まり、華麗な剣さばきをみせてくれます。橋蔵の殺陣は舞踊のようでチャンバリストには評判が悪いですが、身のこなしの優雅さは橋蔵独自のもので、再評価されてよいと思いま〜す。

 

『若さま侍捕物帖・黒い椿』(1961年/監督:沢島忠)は、シリーズ9作目。

伊豆の大島へ保養にやってきた若さま(大川橋蔵)は、三原山の火口でお君(丘さとみ)という娘に出会います。若さまは逗留している椿亭の女主人・お園(青山京子)と番頭の金助(田中春男)から、お君の母親が父なし子を産んで村人から責められて火口に身を投げたことを知らされるんです。漁師の祖父(水野浩)と貧しく暮らしているお君を妾にしようとしていた網元の甚兵衛(阿部九洲男)が殺されます。甚兵衛はお園にも色目を使っており、お園を目当てに椿亭に通っていた名主の源兵衛(千秋実)には面白くない存在。お君に恋している油問屋の与吉(坂東吉弥)、お君に江戸で働くように誘う油仲買人の信三(山形勲)、島に来た目的がわからぬ金助の兄という修験者の弥太五郎(河野秋武)など、甚兵衛の周りには胡散臭い人物がいっぱい。弥太五郎が姿を消し、与吉が殺され、殺人を目撃していたお熊が犯人の名を若さまに言おうとしたときに撃たれて殺され、はるか先には馬で逃げる修験者の姿が……

悪党が若さまを襲って自らボロを出すのでなく、最後まで犯人がわからない本格ミステリーになっています。したがって、最後までチャンバラは無し。橋蔵の出番はあまりなく、橋蔵の華麗な殺陣もないので橋蔵ファンには期待外れでしょうね。沢島忠は、『紅鶴屋敷』でもそうだったように、チャンバラ以外でシリーズの特色を出そうとしていたようです。

 

『若さま侍捕物帖・お化粧蜘蛛』(1962年/監督:松田定次&松村昌治)は、シリーズ最終作。

半年前に密貿易の仲間の肥前屋(香川良介)を殺害して深川新地を支配するようになった唐津屋(山形勲)と越前屋(佐藤慶)は、旧悪の証拠であるお化粧蜘蛛の割符をネタに肥前屋の情婦だった文字春(久保菜穂子)に揺すられています。島帰りの三次(徳大寺伸)は唐津屋に頼まれて文字春の家から割符を盗みますが、何者かが三次を殺害。唐津屋たちの悪事の調査にきた岡っ引・遠州屋小吉(田中春男)は、唐津屋の子分・夜桜の辰(松方弘樹)に吊し上げられ危ういところを若さま(大川橋蔵)に助けられます。若さまはゴロツキのふぐ寅(南道郎)や河童政(原健策)たちにからまれている門付けのお千代(松島トモ子)や易者の三郎左(柳屋金語楼)を助け、居酒屋が預かっていた三次の赤ん坊を船宿・喜仙に連れ帰ってお糸(桜町弘子)に預けます。唐津屋が雇った剣客(戸上城太郎)たちが若さまを襲いますが撃退。若さまは三郎左の娘・美音(佐久間良子)から、三郎左が肥前屋殺しを調べていた元与力で、唐津屋から賄賂をもらっていた側用人・白石淡路守(北竜二)のためにクビになったことを聞かされます。三次の赤ん坊の着物から割符が見つかり、お千代が肥前屋殺しを目撃していたこともわかり……

一定の間隔で大川橋蔵のカッコ良さを見せ、最後は大立ち回りで締めるというスター主義時代の型通りの東映時代劇です。1962年といえば、東宝が『用心棒』と『椿三十郎』で、大映が『忍びの者』と『座頭市』で時代劇の新しい波を起こしており、東映時代劇は旧態然としたものになっていました。だけど、現在の視点でみると型通りの心地よさがあって、私は好きだなァ。リアルさだけが時代劇じゃないよォ。