鉄道員と刑事 | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

アリダ・ケッリが歌う主題歌は学生時代から聴いていて知っていたのですが、リタイア後になって観た映画が『鉄道員』と『刑事』です。

『鉄道員』(1956年/監督:ピエトロ・ジェルミ)

仕事熱心な鉄道機関士のアンドレア(ピエトロ・ジェルミ)は末っ子のサンドロ(エドアルド・ネヴォラ)からは英雄のように慕われていますが、厳格で律儀一徹な態度で長男のマルチェロ(レナート・スペツィアリ)や長女のジュリア(シルヴァ・コシナ)からは敬遠されています。妻のサラ(ルイザ・デラ・ノーチェ)はそんな夫に忍従。ある日、アンドレアが運転する特急列車に若い男が投身自殺。そのショックで赤信号を見過ごし、衝突事故を起こしかけて降格されます。アンドレアの生活は荒み、マルチェロとジュリアは家を出ていき、鉄道のスト破りの汚名も着せられ、暗い月日が流れてゆきますが……

当時の日本の社会にもありそうな設定ですね。イタリアが身近に感じられます。サンドロの父親アンドレアに対する気持ちがよく描かれていて、涙腺がゆるみますよ。エドアルド・ネヴォラは名子役です。それと、不良息子のマルチェロがネックレスを持ち出そうとするのを知りながら、黙ってそれを置いておく母親役のルイザ・デラ・ノーチェも名演。美人というだけのイメージしかなかったシルヴァ・コシナも演技力があるじゃありませんか。カルロ・ルスティケリの音楽が、映画の哀感を一層盛り上げています。

ラストシーンの、朝早く勤めに出る男のサラへの挨拶、学友がサンドロ少年に呼びかける声、工場のサイレンの響きなどがメロディーに重なって聞こえ、劇中でカルロ・ルスティケリの娘アリダ・ケッリの歌が流れると思っていたのですが、映画の中には歌はありません。このメロディーを使ってテストーニが詞を書き、「あなたに捧げましょう」という曲目でレコード化されたものでした。アレンジしたのは、映画音楽家になる前のエンニオ・モリコーネ。現在では、「鉄道員のテーマ」として一般的になっています。

 

『刑事』(1959年/監督:ピエトロ・ジェルミ)

ローマの上級アパートで盗難事件があり、階下のバンドウィッチ家の女中(クラウディア・カルディナーレ)の恋人(ニーノ・カステルヌォーボ)が容疑者にされますが、彼にはアリバイがあります。1週間後、バンドウィッチの妻(エレオノーラ・ロッシ・ドラゴ)が殺され、警察はバンドウィッチを疑いますが……

警部役のピエトロ・ジェルミが渋くてグッド。日本でいえば『七人の刑事』の芦田伸介みたいな感じ。推理物としては、ジェルミのセリフにあるように、重要証拠に気づくのが遅くてマヌケなんですが、当時のローマの市民生活をいろいろ描き出していて、それだけで楽しめます。

アリダ・ケッリが歌う哀調おびた主題歌「死ぬほど愛して」、そのメロディのやるせなさ。ラストでジェルミがカステルヌォーボを逮捕して車で連れ去るんですが、そこへカルディナーレが懸命に追いすがっていきます。しかし、無情にも彼女を置き去りにしたまま映画は終わるんです。絶望の愛に生きる悲しみを強く印象づけた主題歌にマッチするように、カルディナーレが泣かせる演技をして最高。♪~アモーレ、アモーレ、アモーレ、アモレ・ミーオ~